110話 ギクって言う奴を初めて見たわ!?
いつも読んで頂きありがとうございまっす。
次は日曜日に投稿予定でっす。
「一体これは何の騒ぎなんだ? ひょっとして幽霊ちゃんが敷地の外で活動出来てる事に関係あったりするのか?」
ようやくフィリアのフィニッシュブローから立ち直った次郎衛門が幽霊ちゃんに問いかける。
「むむむ!? 流石に鋭いですぅ。関係あると言えばありますぅ。えーとですねぇ。この一帯に建てられているのはジローさんが作ると言っていた冒険者を育成する為の学校なのですぅ。そしたら学校の敷地内なら私は自由に移動出来るようになったんですよぅ。建設の経緯についてはメルさんに聞いて欲しいのですぅ」
幽霊ちゃんがかなり端折った説明をする。
つまりこの辺り一帯の土地も次郎衛門の土地になったから幽霊ちゃんはその中を移動出来るようになったという事らしい。気になるのはこれ程の広大な土地を開発出来る程の資金はメルに預けてなかった筈だ。これは後で詳しい話をメルから聞かねばならないだろう。
「ほむ。それはそうと幽霊ちゃんってそんな話し方してたっけ?」
確かに次郎衛門の言う通り以前の幽霊ちゃんは普通に喋っていた様に思う。というか今さっきまで普通に喋っていた筈だ。実は幽霊ちゃんが再登場した時には喋り方を変更する筈だったのだがどこかの誰かがうっかり普通に喋らせてしまった訳ではない、という事にしておいて欲しい。
「ギク! も、勿論ですよぅ。べ、別に最近は登場人物が増えて来たから個性を出そうって思った訳じゃないですよぅ」
完全に墓穴を掘る幽霊ちゃん。
しかも特大の墓穴だ。規模としては前方後円墳くらいはありそうだ。
だが幽霊ちゃんは幽霊ちゃんなりに生き残りを掛けて必死であるっぽい事は伝わってくる。
確かに幽霊であるという個性は元アンデッドだったエージェント達が一気に30人も増えてしまったのでかなり薄れてしまった感がある。
死んでるのに生き残りを掛けるとか矛盾しているような気もするが幽霊屋敷で長い期間を孤独に過ごしてきた幽霊ちゃんには自分の存在感をアピールする事は重要な事であるらしい。
「いや、絶対に思ってるだろ。ギクって言う奴を初めて見たわ」
次郎衛門が呆れ気味に幽霊ちゃんにツッコミを入れる。
そんな次郎衛門の反応に幽霊ちゃんは烈火の如くの勢いで不満を口にしだす。
「そりゃ、ジローさんは良いですよぅ。存在自体が派手ですし、フィリアさんは常にジローさんとセットで出番が無くなる事はないですぅ。アイリィちゃんはファンタジーの定番のドラゴンさんですし、ピコさんもちゃっかりとポジション確保してますし、メルさんはジロー商会の運営という重要な役目ですし、エリザベートさんは実は生前はお姫様だったとかいう設定出て来ちゃってますし、それに比べて私なんて偶に出番があってもジローさんにおっぱい揉まれるだけのポジションだとか幾らなんでも酷いですよぅ」
一生懸命にジタバタと地団太を踏みながら力説する幽霊ちゃん。
「お、落ちつけって幽霊ちゃん。一体何の話をしてるのか分からんがそれって俺が悪いのか?」
普段は温和な感じが多い幽霊ちゃんのあまりの豹変ぶりに戸惑いの色を隠せない次郎衛門。
しかし一度火のついてしまった幽霊ちゃんの暴走は止まらない。
「ジローさんが悪いに決まってますよぅ! 何より! 何より許せないのはですよぅ! 明らかにモブっぽいパンダの人が準レギュラー扱いっておかしいですぅ。どさくさに紛れて昇級したり、結婚したり冗談じゃないですぅ! 私が登場した時点で儚げな美少女幽霊との切なくも甘酸っぱい恋愛ストーリーを展開させるべきだったんですぅ。中年のおじさんの結婚のエピソードだなんて需要のまったくない話は邪魔で邪魔で邪魔なだけなんですよぅ!」
今の幽霊ちゃんに掛かればパンダロンもモブっぽいパンダの人であるらしい。一応彼もAランクに名を連ねるだけの実力はあるし、彼なりに頑張ったから結婚も出来たのであるが幽霊ちゃんは気に入らないっぽい。それに儚げな美少女幽霊とか自称しているが本当に儚げな者はこんなにグイグイと来ない様な気もしないでもないし、スラップスティックなコメディ作品から恋愛物に路線変更するべきだったとか主張されても無理な話である。
というかだ。基本的に屋敷から出る事が出来ない筈の幽霊ちゃんがどこからこんな情報を仕入れる事が出来たのかも謎過ぎである。
少なくとも幽霊ちゃんがパンダロンと接する機会はなかった筈だ。
直接の面識もない相手の結婚の話を邪魔3連呼で一蹴してしまうとは幽霊ちゃんの心に秘められた闇は相当に深いのかも知れない。よくよく考えてみれば幽霊ちゃんが未だに成仏出来てない時点で幽霊ちゃんの心には何らかの問題がある事は間違いない訳で。今回の件はその一端を見せつけられたのだと言える。
「パンダのおっさんが羨ましいのは分かったから落ちつけって。でもな幽霊ちゃん。パンダのおっさんのポジションはどう考えても損な役回りしかないぞ? なぁ、パンダのおっさん?」
興奮のし過ぎで若干ポルターガイスト現象を起こしつつある幽霊ちゃんを宥めながらもパンダロンに同意を求める次郎衛門。
しかし肝心のパンダロンの姿は見えない。
「あれ? おっさん?」
きょろきょろと周囲を見渡してみてもそれらしい姿は見当たらない。
ギルド職員であるパンダロンは一足先に報告へと向かったのだろうか。
それとも新妻であるメアリーの元へと向かったのだろうか。
様々な可能性が次郎衛門達の脳裏に浮かんでは消えていく。
「ねぇ…… ジローひょっとして」
「ああ。フィリアたんこれは間違いなさそうだ」
フィリアの問いかけに頷く次郎衛門。
そして再び口を開く。
「やっべぇ。パンダのおっさんを王都に忘れてきたっぽい」
気まずそうに呟く次郎衛門。
パンダロンのポジションが決して美味しいだけはないという事をまざまざと見せつけられた幽霊ちゃんなのであった。
結構大きなミスをしていたっぽいのですが、これはこれでネタになるのではないかと思いそのまま押し切った所存でございます。ああ、あそこの事を言っているだなとニヤリとして頂けたら幸いでございます。




