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109話 君の犠牲は!?

どうやら途中でナンバリングを間違えていたようです。

110話として投稿していましたが実際には109話でした。

次は水曜日に投稿予定でっす。

「な、な、な、なんじゃこりゃああああ!?」


 王都ドルアークでの用事を済ませ空間転移で一気に帰ってきた次郎衛門が思わず叫ぶ。

 ここはラスクの街。次郎衛門の自宅…… の筈である。

 何故に断言出来ないかと言えば留守にしていた二カ月程の間にすっかり様子が様変わりしていたから。

 いや、自宅の屋敷自体は変わっていない。

 変わっていたのはその周囲だ。

 元々幽霊屋敷だったので屋敷周辺は若干寂れていたもののそれでも一応は住宅区画で民家もそれなりに存在していた。それが次郎衛門達が留守にしていた僅か二ヶ月の間に綺麗さっぱり無くなっており、その代わりに広大な敷地に幾つもの巨大な建物が建設途中だったのである。

そんな中で次郎衛門の屋敷だけがポツンと場違いに残されている様はまるでバブル期に地上げに最後まで抵抗して頑張っている一軒家の様な雰囲気を醸しだしていた。

 そりゃ次郎衛門も松田○作ばりに叫び出すってもんである。

 ちなみに撃たれた訳ではないので死にはしない。


「フィリアたん何これ! 何これぇ!?」

「私が知る訳ないでしょ。留守番してたメルか幽霊かエージェント共に聞きなさいよ」


 次郎衛門は思わずフィリアに問いかけるが一緒に王都へと行っていたフィリアも知る訳がない。


「ふんふーん♪ ふふふふふーん♪」


 その時どこかで聞いた事があるような声の鼻歌が聞こえてきた。

 ふよふよと浮かびながら幽霊ちゃんが通り掛かったのだ。


「あ、ジローさん帰ったんですね。お帰りなさい」


 次郎衛門達に気がついた幽霊ちゃんが嬉しそうに微笑む。

 

 

「おう。ただいま…… !?」


 次郎衛門は返事をしてから気がつく。

 幽霊ちゃんは屋敷の敷地外には出られないという事に。

 そしてここは敷地の外だ。

 違和感を感じた次郎衛門の行動は素早かった。

 刹那の間に空間転移で幽霊ちゃんの背後を取ると半透明の幽霊ちゃんの首に手を回し締め上げる。


「ジ、ジローさん!? いきなりどうしたんですか! 苦しいですよ!」


 次郎衛門に首を締め上げられジタバタともがく幽霊ちゃん。

 死んでいて呼吸をしていない筈なのに首を絞められると苦しい様らしい。


「おっと無駄な抵抗はするなよ? 抵抗したらその慎ましやかな胸を揉みしだくからな? 本物の幽霊ちゃんなのか? 何で敷地の外に出る事が出来たんだ?」


 首を絞め上げた状態での脅し文句が胸を揉むとかおかしくな事を言いつつも問題の核心を問い詰める次郎衛門。


「本物ですよぅ! く、苦しいですって!」

「信じられるか! 良かろう、お望み通り揉みしだいてくれる。その感触で真贋見極めてやる!」


 なんだかんだ言って結局は幽霊ちゃんの胸に手を伸ばし揉み始める次郎衛門。

 ついでに言うなら鼻の下も結構伸びている。


「久しぶりに会ったと思ったらやっぱりそれですか! 何でいつもいつも私の胸を―――――あ……」


 最初は抵抗していた幽霊ちゃんも次郎衛門に後ろから胸を鷲掴みされるとビクリと硬直しほんのり頬を染めながらされるがままになっている。その様子は結構満更でもないような雰囲気だ。


「この小振りながらも確かな弾力…… 本物……か? いや、しかしまだ断言は出来ない。これはもう少し念入りに調べる必要が―――――」


 その時、次郎衛門は凄まじい殺気を感じ取り夢中で動かしていたその手が止まる。

 殺気の主は勿論フィリアだ。


「フィ、フィリアたん落ちつけ! これはイヤラシイ行為ではなくてだな! 幽霊ちゃんが本物なのかどうかを見極める為に仕方なくだな!」


 必死に言い訳している間もちゃっかりと手が動き出している次郎衛門。

 その次郎衛門の行動がフィリアの苛立ちを更に加速させる。


「私は落ちついているわよ? 別にジローがどこで女とイチャつこうと関係ないわ。でもね。私の視界内で不愉快な行動をとってるんじゃないわよ!」


 そう叫ぶなりフィリアは右の拳を握り締める。

 繰り出されるのはいつぞや次郎衛門をして世界を狙えるとまで言わしめたフィリア渾身の右ストレートだろう。

 だが次郎衛門も流石はSランクに名を連ねる冒険者だ。

 とっさに幽霊ちゃんを盾にしてその身の防衛を謀る。


「ちょ!? ジローさん!?」

「クハハハハ! 大丈夫だ、幽霊ちゃん! 何故なら既に死んでるんだからこれ以上死ぬ事はない!」 

 

 見た目は十代前半である少女を盾にするゲスがそこにはいた。

 迫るフィリアの右ストレート。

 それもただの右ストレートではなかった。

 その拳にはねじりが加えられていた。

 つまりはコークスクリューブロー。

 ボクシング漫画には必ずと言って良い程に登場する必殺パンチだ。

 顔を引きつらせる幽霊ちゃん。

 フィリアの拳は一直線に幽霊ちゃんへと突き進む。

 悲鳴を上げる幽霊ちゃん。

 その脳裏に期間こそ短いが濃密な次郎衛門達との思い出が鮮やかに蘇る。


 初邂逅で関節技を仕掛けパンツをガン見してきた次郎衛門。

 幽霊ちゃんをメイドのように扱き使うフィリア。

 ご飯の量が足りないと駄々を捏ねるアイリィ。

 ある日突然やってきて自分の姿をみるなり気絶したメル。

 次郎衛門達と共にやってきて古株の幽霊ちゃんよりも目立つエージェント達。

 何時の間にか屋敷に居たピコ。 

 そして隙あらばおっぱいを狙ってくる次郎衛門。

 ほんの刹那の間に浮かんでは消えていく走馬灯。

 そして幽霊ちゃんは叫ぶ。


「碌な思い出がないですぅ! こんな走馬灯は嫌過ぎですぅ!」

 

 それは魂からの叫びだった。

 そしてフィリアの拳は非情にも幽霊ちゃんに到達する。


「クハハハハ! 幽霊ちゃん! 君の犠牲は忘れは―――――ごはあああ!? いってえええええ!」


 当然の様に幽霊ちゃんをすり抜け次郎衛門の顔面へと捻じ込まれた。 

 豪快に吹き飛び顔面を押さえのたうち回る次郎衛門。 

 良く考えてみれば、いや、良く考えてみなくても当たり前の話である。

 そもそも幽霊ちゃんは実体がない。

 繊細に魔力を調節する事によってようやく幽霊ちゃんとの接触が可能となるのだ。

 その気になればフィリアにも出来ない事はないだろうが次郎衛門をぶん殴りたいフィリアがわざわざそんな事をする筈もない。

 幽霊ちゃん自身も次郎衛門もフィリアの発する殺気に呑まれてその事をすっかりと失念していたらしい。何とも間抜けな話である。


「ばっかじゃないの? 実体のない奴の影に隠れるとか無意味な事してんじゃないわよ!」


 返り血を拭いながらフィリアは吐き捨てるのだった。

  

 

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