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9話 初めての魔法訓練!?

「結構地球と似たような食べ物が多いんだなぁ」


 次郎衛門は、市場を歩きながら、様々な野菜や果物を眺めつつ、そんな事を呟く。


「あんたが馴染み易そうな世界を選んで来た訳だから、食べ物関連は同じものも少なくないわ」


 次郎衛門の呟きに、当然だと言わんばかりにフィリアが応じる。

 どうやら神は、ただ移住させただけではなく、移住後の配慮もしてくれていたようだ。

 大抵の異世界ものの物語では、和食用の食材、米や味噌などは探し回るものなのだが、ここでは普通に露天に並んでいる。

 特に米は、種類もインディカ米やジャポニカ米、果てはもち米まで、かなり豊富な充実っぷりである。

 魚介類も大抵のものはとれるのだが、タコやイカはかなり高ランクに分類される魔物だという事で、食べるという文化がないらしい。

 身近に存在しないのであれば、触手プレイという考え方も、あまり浸透してないんだろうか?

 でも、ファンタジーなんだし、他に触手を持った魔物がいるかもしれない。

 などと、真剣に考えてる辺りは、とても次郎衛門らしいと言える。


「酒も結構色々あるんだな。

 特にビールがあるのは嬉しいな。

 米はあっても、日本酒らしきものがないのは残念ではあるが、まぁ、蒸留酒でも買っておくか」


 そんな事をブツブツ言いながら、酒を探す次郎衛門。

 露天を一通り見て回ったので、次郎衛門はトマトっぽい野菜を、フィリアはオレンジっぽい果物を、それぞれ露天で購入し、それらを齧りながら広場で休憩する。


「クハハ、これ旨いな。

 このトマトっぽい野菜なら、普通にミートソースのパスタも作れそうだよなぁ」


 機会があったら、地球の料理を作るのも悪くないかな、と考える次郎衛門。


「ファンタジーな生活まだ二日目だけど、地球、いや日本か、日本の生活水準の高さがよく分かるよな。

 こっちの人からしたら、日本の方が、ファンタジーに感じるかも知れんな」


 などと、感慨深げに呟く次郎衛門。


「どんな世界も進化の果てに、行き着くところは似たようなものになるらしいわ。

 そういった意味では、すべての世界がファンタジーと言えるのかも知れないわね。

 たまに、あんたみたいな突然変異どころの騒ぎじゃない間違った進化しちゃうのもいるみたいだけど」

「間違った進化って酷くね?

 でも、全ての世界がファンタジーか。

 それって、夢があって良いな!」


 折角のファンタジーなんだから、全身全霊で楽しもう。

 先ずは魔法の練習だと、張り切る次郎衛門なのであった。



 昼食後、早速訓練場に向かう2人。

 訓練場はかなりの規模の集団戦が出来るほど大きい。

 先客が何組かいるものの、空きは充分にある。

 開いてる場所を魔法の練習を始める2人。

 フィリアが、手本として火や水の魔法を使っていく。

 だが、次郎衛門の成果は芳しくないようだ。

 魔法は辛うじて発動はするものの、マッチくらいの火だったり、多少の水滴が出せるだけといった具合だ。

 ちなみに何組か居た先客達は、フィリアが扱う魔法を、驚きの表情でみていた。

 まぁ、フィリアは、能力を制限しているとはいえ女神なのだ。

 魔法に関してはエキスパートと言える。

 初めてまともに魔法にチャレンジする次郎衛門が、フィリアと同等の成果を出せないのは当然の事だろう。


「うーん。

 こんなんじゃ使えないよな。

 魔力はある筈なのになぁ」


 自身の魔力が原因で、異世界へ移住する事になった次郎衛門。

 きっとすんごい魔法が使えると思っていただけに悔しそうだ。


「まだ、魔力をイメージ通りに変換するのが下手なのよ。

 桁違いの魔力は間違いなくあるし、一応発動もするんだから、コツコツと練習するしかないわ。

 まぁ、ずっとマッチ出してるのも詰まらないでしょうし、気分転換にアイテムボックスでも練習してみる?」


 珍しくふざけないで真面目に練習している次郎衛門に、ちょっぴり優しくなるフィリア。


「おお!

 そっちの方が興味あるかも!

 フィリア先生教えてください!」

「フフっ 教えると言っても、大した事は教えられないんだけれど、自分専用の空間をイメージして魔力で作るだけなのよね。

 他の魔法もそうだけど、物心ついた頃にはなんとなくで使えてたから、上手く言葉に出来ないのよね」


 そう言いながら、何もない空間に手を入れ短剣を取り出す。

 魔法に関して、神懸り的な、否、神そのものであるフィリアは、論理的に魔法を教えるのは不得意なようである。


「未来道具を使う青いロボットのアニメを見て育った身としては、便利ポケット的な魔法は、ぜひとも会得したい所ではあるよな」


 そう言いつつ、一心不乱に次郎衛門が挑戦していると、不意に次郎衛門の手が消える。


「おお? ひょっとして成功した?」


 初めての経験に次郎衛門は、はしゃいだ様子で更に奥に手を伸ばそうとしている。


「ホントに成功するなんて……

 やっぱり魔法に関して――――

 キャァ!!」


 フィリアがイキナリ悲鳴を上げて振り返る。

 するとどうした事か。

 フィリアの背後の何もない空間から手が生えており、それがフィリアのお尻を触っていたのである。

 袖が作務衣である事から、次郎衛門の手である事は間違いない。

 どうやら、次郎衛門はアイテムボックスではなく、空間転移の魔法を部分的に発動していたようだ。


「クハ! クハハハ!

 これがフィリアたんのお尻の感触か!

 ビバ! ラッキースケベ!」


 思わぬラッキーに、歓喜の表情を浮かべる次郎衛門。

 そして思わぬセクハラに、憤怒の表情に染まるフィリア。


「いつまで触ってんのよ!

 この変態がああああああ!!!」


 顔を真っ赤に染め上げたフィリア。

 その拳が次郎衛門の顔面を力の限りぶん殴る。

 吹き飛ぶ次郎衛門。


「ごは…… この右ストレートなら……

 世界を狙えるぜ…… フィリアたん……」


 そう言いながら、のた打ち回る次郎衛門。

 しかし。

 次郎衛門は突然に飛び起きる様に復活する。

 タフな男である。

 そしてキリリとした表情でフィリアへと向かい口を開く次郎衛門。


「フィリアたんは、その右ストレートを引っさげて世界を狙うと良い。

 俺は! フィリアたんのお尻の感触を堪能したこの手を!

 二度と洗わず!

 この手を一生くんかくんかして暮らす事にする!」


 無駄に凛々しい顔で言い放つ次郎衛門。

 その表情は、この上なく凛々しい決め顔だ。


「ちょ!? あんた何キメ顔できもい事言ってんのよ!?

 今すぐ洗いなさいよ!」


 フィリアがかなり青ざめた表情で、次郎衛門に詰め寄る。

 当たり前だ。

 そんな一生を終えられた日には、フィリアにとって二度と忘れる事が出来ない、最悪のトラウマになる事は必至なのだ。


「フィリアたん、男が一度決めた事なんだ。

 止めてくれるな……って、嘘だよ。泣かないで!」


 調子に乗ってふざけていた次郎衛門だったが、いよいよフィリアが涙ぐみ始めたのを見て慌てた様子で撤回する。

 どうやらフィリアは、次郎衛門よりも相当長く生きているようだが、そういった悪戯に対する免疫は低いらしい。


「ハァ……

 なんでアイテムボックスよりも難易度の高い空間転移が出来るのよ……」

「初めて会った日から、何時の日か、フィリアたんの色んな部位を揉みしだく為に、イメージトレーニングしてた成果かもね。

 でも、これって使い勝手良さそうな魔法だよな」


 これ程に無駄なイメージトレーニングもそうはないと言いたいところであるが、思春期の少年は結構そういう事をしてしまうものだったりする。

 ただ30才過ぎの良い大人が、するべきではない事は確かだが。

 そして手を色んなところに転移させ始める次郎衛門。

 初めて魔法を上手く使えた事が、嬉しくて仕方がないっぽい。


「手だけを転移させた状態で、魔法が途切れると手が千切れるわよ?

 むしろ、あんたの手なんて千切れちゃえば良いのに」


 フィリアの機嫌は悪く物騒な事を言い放つ。

 まぁ、いきなりお尻揉まれたりしたら、機嫌が悪くなっても仕方ないが。


「え、まじで?

 それは怖いな…… 

 しかし、これは色々研究してみる価値はありそうだよな。

 まぁ、とりあえず今日はアイテムボックスの練習しないとな」


 そう言って、また真面目に練習を始める次郎衛門。

 結局次郎衛門は、なんとかアイテムボックスは使えるようになったものの、まだ使える容量が少なく、精々買った酒が数本入る程度なのであった。




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