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107話 罰ゲームの話なんだけどさ!?

 ここは王都ドルアークにある酒場。

 無事にダンジョンを攻略し酒場で打ち上げを始めた次郎衛門達がいた。


「お疲れ。そんじゃ、ダンジョン攻略を祝ってかんぱーい!」


 次郎衛門が音頭を取り全員で一斉にビールを呷る。全員で、とはいってもアイリィはまだお子様なので麦茶だったりする。


「流石ジロー殿ですね。本当に攻略出来てしまうとは思いませんでしたよ」

「クハハハハ! もっと褒め称えろ! 俺に掛かればダンジョンなんざこんなもんだ!」


 果てしなく調子に乗っている感のある次郎衛門。

 だがその顔にはフィリアに折檻された跡がばっちりと刻まれている。

 ちなみに唯一の負傷者でもある騎士っぽい少女も今は既に治療されて打ち上げに参加しているがアイリィに対して苦手意識が芽生えてしまったらしくアイリィから一番離れた席に座っている。

 アイリィが何か行動する度にビクビクと反応してしまう様は見ていて面白い半面、ちょっと気の毒でもある。

 更に付け加えると僕っ娘と魔女っ娘は次郎衛門と目も合わさない。

 まぁ、あんな事されたら怒って当然であるし、嫌われるのも当然だと思う。


「ヴァンパイアが貯め込んでたお宝もゲットできたし結構儲けも多かったなぁ」

「それはジロー殿達だけですよ。普通は何日も掛けて準備して、何日も掛けて少しずつ探索していくものなんです。それこそ年単位で掛かるものなんです。それでも失敗して大赤字だったり命を落としてしまったりするのですから」


 臨時収入に浮かれる次郎衛門にシグルドが苦笑する。


「普通はそんなものなのかぁ。俺達なら片っ端からダンジョン攻略するってのもありかもな」

「そ、それは出来れば控えて頂きたいのですが……」

「何で? 妬み? 王子でイケメンでやりまくりハーレムのリア充野郎が妬みですか? 俺なんざなぁ、フィリアたんと肉体的な接触出来るのはぶん殴られる時だけなんだぞ! 調子乗ってるともぐぞこの野郎!」


 涙を流しながら席から立ち上がると、指を嫌な感じにワキワキと動かしながらシグルドへとにじり寄る次郎衛門。

 ちなみに次郎衛門とフィリアが普通に触れ合ったのはクリスマスの時に手を繋いだのが最初で最後だったりする。

 次郎衛門の熱烈なアプローチに満更でもない雰囲気を醸し出すフィリアであるが何せ次郎衛門にはロマンティックさの欠片も存在しない。

 下心全開で特攻してはフィリアに条件反射的に折檻されるのがパターン化している。その度合いがどのくらいかと説明するならば、仮に次郎衛門が普通にフィリアの頭を撫でよう手を伸ばしたのだとしてもフィリアは無意識にかつ的確にクロスカウンターを決めてしまうだろう。

 まぁ、これに関しては完全に次郎衛門の自業自得なのだが二人の仲が進展するのにはまだまだ相当な時間が掛かりそうである。

 そんな状態であるからして次郎衛門がリア充なシグルドをもぎたくなってしまうのも仕方がない事なのだ。

 

「やってませんって! 違いますよ! ジロー殿達にダンジョンを根こそぎ攻略されてしまうと相当な数の冒険者の生活が成り立たなくなる可能性があります。下手したら食い詰めた者達が賊になってしまう可能性すらあるのです」 

 

 慌てて理由を説明するシグルド。普通ならば冗談だと笑い飛ばす場面なのだろうが次郎衛門ならば本当にやりかねないのが恐ろしい。

 基本的に魔物はともかく宝箱というものは再び出現するまでに結構な時間が掛かる。

 次郎衛門達がハイペースで踏破してしまうとダンジョン主体で活動している多くの冒険者達の生活が成り立たなくなってしまうというシグルドの危惧は尤もな話であった。


「ほむ。そうなのか…… 言われてみれば確かにそうかもしれないなぁ。まぁ元々ダンジョンに行きたかった理由が一度位はダンジョンに行ってみたかったってだけだからなぁ。国単位で深刻な問題になるってんじゃ大人しくラスクに帰るとするか」


 残念そうに呟く次郎衛門。

 対照的に強制性転換の危機から脱する事が出来たシグルドもホッと胸を撫で下ろす。


「んで、罰ゲームの話なんだけどさ」

「は?」


 唐突に罰ゲームとか言い出す次郎衛門にシグルドは思わず間の抜けた返事を返してしまう。


「俺達はそこの騎士っぽいお嬢ちゃんの出した条件をクリアしただろ?」

「ちょっと待って! クリアしたら罰ゲームをするだなんて私は一言も言ってないぞ!」


 次郎衛門の言葉に慌てて反論する騎士っぽい少女。


「ああ。確かに言ってないな。だけどな? 俺は最難関のダンジョンの攻略を指定されて、更に失敗した時にはSランクを返上するだなんてリスクまで負ったんだぜ? そっちにもそれなりのリスクがあって然るべきじゃないのか?」

「ふん。勝手に言ってろ! 平民如きが何を喚こうが無駄だ」


 騎士っぽい少女は完全に見下した態度で取り合おうとしない。


「やっぱ良いとこのお嬢ちゃんは世間を知らないな。このままじゃ大好きな王子が困った事になるぞ」

「なんだと!?」

「もしこの話が世間に広まったとする。世間はどう思うかな? 王子が一方的に嫌がらせしてると思うんじゃないのか?」

「ふん。この国での王族の人気は絶大だ。そんな話誰も信じる訳がない」

「信じるね。いや、信じさせる。方法は幾らでもあるさ。例えば噂を流した後に俺が他国に亡命するとかな? 折角生まれたSランク冒険者を他国に流出させたとなればシグルドの王位継承も危うくなるかも知れないなぁ」


 ニヤニヤと嫌らしい笑いを浮かべる次郎衛門。


「何と卑劣な!」


 次郎衛門の言葉に憤る騎士っぽい少女。


「クハ! クハハハ! 心地よい遠吠えだな!」


 それなりに家柄の良い彼女はこんな屈辱は味わった事がなかった。

 普段ならば斬り捨てるところだが自分の実力ではそれも出来そうにない。

 ふとシグルドに視線を向けてみれば厳しい表情で黙りこんでいる。

 助けを求めるべく仲間の少女達に視線を向けてみるも力なく首を横に振るばかりだ。

 多くの助言でパーティーを導いてきた魔女っ娘も、多くの逆境を冷静沈着な行動で切り抜けた僕っ娘もこの状況を打開する手は見つけられていないようだった。

 冒険者をやっていれば多少揉めるような場面はあった。

 だが相手は王子や彼女の実家の事を知ると大抵は卑屈にこちらの顔色を伺うような者ばかりであった。

 何時しか彼女は他の冒険者を見下すようになっていたのだ。

 こんな男は始めてだった。

 悔しさで涙が込み上げてくる。

 だがこのままでは本当に王子に迷惑を掛けかねない。

 それも挽回の聞かない致命的な迷惑を。


「罰ゲームとやらは私が受けてやる。それで文句はないだろう!」


 決意を込めて少女は言い放つ。

 だがその思いもあっさりと踏みにじられる事となる。


「残念。既にタイムアウト。もう罰ゲームの受付は終了しましたー」

「そんな! ふざけるな!」

「大真面目ですけど? お前は折角与えられたチャンスを逃したんだよ。己の愚かさと無力さを痛感しながら成り行きを見守っててくれや」


 次郎衛門は相変わらずニヤニヤとした表情で言い放つ。

 この男に相手の神経を逆なでする行動をとらせたら天下一品である。

 その上で心を圧し折りに来るのだから性質が悪い事この上ない。


 悪夢であった。

 決して醒めない悪夢。

 それが目の前に存在している男はそういう存在だと思い知る。

 自分が敵う相手ではなかった。

 それ故に少女は覚悟を決める。

 己の命を投げ出す覚悟だ。

 もうどうせ破滅しか道は残ってないのだ。

 ならば殺すしかない。

 己も死ぬだろう。

 だがこの男だけは何が何でも道連れにしてやる。

 そんな覚悟を。


「だが俺も鬼じゃない。お嬢ちゃんがそれなりに誠意を見せてくれるなら考えてやっても良いぞ」 


 男は揺さぶる。

 少女の覚悟をあざ笑うかのように。


「それは、どういう意味だ?」

「先ずは口の聞き方から始めようか? そんな態度で相手に誠意が伝わると思っているのか?」


 少女は理解した。

 この男は自分を嬲って遊んでいるのだと。

 自分さえ屈服すれば許してやるぞと言っているのだと。


「―――――――します」

「ああん? 聞こえんなぁ?」

「私が何でもしますから許して下さい! お願いします!」


 懇願する少女を舐めまわすような目で見つめながら次郎衛門は口を開く。


「おお。マジで? 何でもしてくれちゃうのか! それじゃ、今晩俺の部屋に来い。シャワーは浴びて…… いや、浴びてなくても良いか。そこら辺の匙加減は任せる。俺はどっちで楽しめるからな!」


 次郎衛門の要求は非常に分かりやすかった。

 これ程の直球な要求の意図を読めない者はいないだろう。


「ジロー殿! 流石にそれは……」

「王子。元は言えば私が出しゃばったから悪いんだ。だから私が責任を取ります」


 堪らずにシグルドが口を挟むが騎士っぽい少女がそれを遮る。

 先程までとは違う種類の覚悟を決めた顔であった。

 そして次郎衛門の目を見据えて再び口を開く。


「一晩付き合えばこの件は許して頂けるのですね?」

「ああ。二言はない」

「それではこの場は一旦失礼します。また夜に」


 そう言って少女は席を立ち酒場を後にした。

 そんな少女を次郎衛門はニヤニヤした表情で、そしてシグルド達は心配した表情で見送るのだった。

 

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