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103話 15分で良い時間をくれ!?

読んで頂きありがとうございまっす。

 売り言葉に買い言葉でヴァンパイアが居るというダンジョンにやってきた次郎衛門達。

 何もない荒野にいきなり地下への階段があった。

 何とも味気ないというか小ざっぱりした入口だ。

 今回はシグルド達も一緒に来ていたりする。

 その表情はもの凄く暗い。

 どこかで見た事あるような表情だとよくよく思い返してみればSランク依頼に強制参加させられた時のパンダロンそっくりでる。ちなみにパンダロンは断固拒否の構えで宿の部屋から決して出てこようとしなかったので置いてきている。

 何故彼等がこの場に居るのかと言えば攻略の場に立ち合わせておけば後から文句の言いようもないだろうという次郎衛門の主張が通った為であるが、この説得が意外に大変だった。

 騎士っぽい少女はちょっと次郎衛門が挑発したらかなりびびりながらも乗ってきたのだがシグルドと残りの二人の少女がかなり渋ったのである。

 よくよく話を聞いてみるとAランクの冒険者でもヴァンパイアのところまでは中々辿りつけない程に難易度が高いらしい。

 過去にヴァンパイア討伐に至ったのは80年前に一度だけ。しかも討伐した者達が去った後にヴァンパイアは復活してしまいそれ以来攻略者が出ていない超難易度のダンジョンだったりする。

 そんなダンジョンであるからBランクであるシグルド達が渋るのも当然なのだった。 


「ここがヴァンパイアがいるダンジョンかぁ。何か思ってたのと違うな」


 どうやら次郎衛門はドラキュラ城のような如何にもなダンジョンを期待していたようだ。

 地球出身の次郎衛門がそういったロマンを期待してしまう気持ちは分からなくもない。

 だがまぁ、現実は得てしてこんなものなのだろう。


「まぁ、良いか! それじゃ、作戦会議するぞー! 集合!」


 次郎衛門の呼び掛けにシグルド達を含んだ全員の視線が集まる。


「物理系トラップは俺が排除。魔法系トラップはフィリアたんが解除。ピコはビームで敵をなぎ払え。アイリィたんとエリザベートはあいつ等守ってやってくれ。一気に最下層の13層まで駆け抜ける。目標は120分ってところでOK?」

「それで良いんじゃない?」

「はーい!」

「了解です」

「心得ましたわ」


 次郎衛門の提案にフィリア、アイリィ、ピコ、エリザベートの4人はあっさりと頷いた。

 だがここで慌てだしたのは騎士っぽい少女を始めとするシグルド達だった。


「ちょっと待て! 何だその雑な作戦は! まさか何も考えずにここまで来たのか!?」


 次郎衛門の言葉に騎士っぽい少女の表情が強張る。

 普通はダンジョン攻略といえば入念な下準備をし、何日も、場合によっては何週間も時間を掛けてゆっくり進めるものである。

 仮にもSランクの実力者なのだからそれなりの準備はしているものだと思っていたようだ。


「ん? 考えてあっただろ? 何か問題でもあるのか?」

「あるに決まってるだろう! ダンジョンの中を走るだなんて論外だ!」

「こればかりは私も彼女の意見に賛成です。流石にそれは無謀だと思います」

「そうですよ。私もまだ死にたくないです」

「別にぼくはSランク云々はどうでも良い。だからシーフであるぼくが先頭をあるく。あなた達は後ろをついてきて」


 騎士っぽい少女だけでなくシグルドや魔女っ娘、シーフの僕っ娘までが意見を言い出す。

 流石に自分の命が掛かっている状況なので当然なのだが。


「ふむ。僕っ娘は先頭を御所望か。んじゃ、俺が担当だな。エリザベートはシグルドを頼む。魔女っ娘はピコ、騎士っぽいお嬢ちゃんはフィリ―――――」

「いやよ。めんどくさい」

「パパ! アイリィ頑張る!」

「うーん。アイリィたんかぁ。大丈夫か?」

「大丈夫! アイリィ出来るもん!」

「がっちり防具着てるしなんとかなるか! それじゃアイリィたんに任せる!」

「はーい!」

「一体何の話を……ってエリザベート様!?」


 いきなり意味不明な事を言い出した次郎衛門にシグルドが問いかけようとした時、背後からエリザベートが忍び寄りシグルドを抱きかかえる。所謂お姫様だっこというやつである。

 僕っ娘は次郎衛門が小脇に抱え、魔女っ娘はピコが抱えている。

 そして騎士っぽい少女はと言えば――――


「何で私だけこんな扱いなんだ! ってか降ろせ! 降ろせってぇ!」


 アイリィが力づくで肩車をしていた。

 騎士っぽい少女も必死に抵抗するのだが何せ基本的なスペックが違い過ぎたようだ。


「良し! 準備OKだな! それじゃレッツゴー☆」

「ちょ!?」

「きゃああああああ!」

「うわああああああ!」

「だから降ろせって! 怖い怖い怖い怖い! つま先擦れてるってええええええ!」


 などと元気よくよくダンジョンに突入していったのだった。

 




 ◆◆◆◆



 ここはダンジョンの最下層の主の間。

 漆黒の闇をそのまま塗り付けたかのようなマントを身に纏う男が玉座に佇んでいた。

 その男の元に一匹の蝙蝠が飛んでくる。


「ほう。久しぶりにこの間にまで到達しそうな侵入者だと?」


 使い魔である蝙蝠から報告を受けたこの男こそがこのダンジョンの主のヴァンパイアである。

 この主の間まで前回にやって来た冒険者は5年以上は前の事だった。

 それ以来ずっと退屈な日々を送っていたヴァンパイアは久方ぶりに冒険者が来るかもしれないとの報告を受けてやる気を漲らせていた。

 いずれ訪れるであろう冒険者共をどう料理してくれようかと思案にふけるヴァンパイアだったが不意に己の衣服が汚れ切って薄汚くなってしまっている事に気がついた。

 滅多にない冒険者共を嬲る機会が訪れたのだ。

 折角辿りついたダンジョンのラスボスが薄汚い格好というものも如何なものかと思い至ったヴァンパイアは使い魔に替えの服を準備させる。

 侵入者の報告を受けたのがついさっきだった事から考えてみても、冒険者共がやって来るのは早くても数日は掛かる筈だし、途中で命を落とすかもしれないし、引き返してしまうかもしれない。

 なのに早くもそわそわと落ちつかない。

 ヴァンパイアはこの迷宮で産まれた魔物ではない。

 人間から儀式を経てヴァンパイアになった真祖と呼ばれる強力な魔物である。

 丁度良い拠点を探して彷徨っていた時に産まれたばかりのこのダンジョンを見つけて拠点としたのだ。 数十年ほど前に一度不覚をとった事があるが魔脈から噴き出す豊富な魔力のお陰でその当時とは比べものにならない程の力を手に入れている。

 人という種の力の限界を超越した自分が未だに人としての感情に振りまわされている。

 何と言う皮肉だろうか。

 などと考えを巡らせながらもマントを脱ぎ去り衣服も脱ぎさったその時だった。


 突然玉座の間の扉が開いた。

 そして冒険者と思わしき連中が現れる。

 勿論シグルド達を抱えて一気に踏破してきた次郎衛門達である。

 思わずパンツ一丁で固まるヴァンパイア。

 ダンジョンの最奥の玉座の間は異様な空気に包まれた。


「お、お取り込み中ですか?」


 なんだか冒険者共に気を使われていた。

 だがここで何を言っても無駄だと思われる。

 何せ今の姿はパンイチなのだから。


「う、うむ。出来れば後30分。いや、15分! 15分で良い時間をくれ!」

「あ、ああ。じゃぁ、15分後に扉開けるから急いでスタンバイしてくれよ」


 そう言って冒険者共は控えの間へと戻っていった。


「うああああああああぃrひfjぎhvjvtjcだ!?」


 扉が閉じられた後、意味不明な絶叫がヴァンパイアから零れ出た。

 早い。やってくるのがあまりに早過ぎだった。

 ちょっとカッコつけてみようと数年ぶりに張りきってみればパンツ一丁の姿を冒険者共に曝してしまうとは痛恨の極み。

 ヴァンパイアにとって悔やんでも悔やみきれない失敗だ。


「お、己ぇ! 恥をかかせてくれよってぇ!」


 いそいそと時間を気にしながら着がえつつもギリリと奥歯を噛み締めるヴァンパイアなのだった。

 

 

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