100話 決してハーレムという訳では……!?
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王都での目的は全て果たしたといえる次郎衛門達は何故かギルドに来ていた。
ギルドと言っても本部ではなく宿屋から一番近い支部の方なのだが。
何故ギルドに来ているかといえばラスクの街に帰る前に王都の依頼を受けてみようという至って冒険者として至極まっとうな理由かららしい。
「色々あるけど基本的にはラスクの街の依頼とそんなに内容は変わらんっぽいなぁ…… ん? ダンジョンで採れる苔の採取? ダンジョンかぁ。ファンタジーのテンプレって言えばテンプレだよな!」
ダンジョン産の採取依頼を見つけて若干テンションの上がる次郎衛門。
ファンタジーではドラゴンと並び欠かすことの出来ない存在。
それがダンジョンだ。
そしてラスクの街の付近には魔境と言える場所はあってもダンジョンはなかったので初めて見るダンジョン系の依頼を見つけて次郎衛門が少しだけ浮かれてしまうのも仕方ない事なのかも知れない。
「ちょっとジロー! あんた依頼をしっかり見なさいよ。この依頼はDランク依頼でしょうが。下っ端の仕事を奪うようなマネするんじゃないわよ!」
ダンジョンという単語に浮かれてしまっている次郎衛門にフィリアが釘をさす。
「そっかぁ。んじゃ、とりま、受付のお姉さんにダンジョンの事を聞きに行こうぜ!」
「そうね。幾らSランクとは言っても冒険者歴はまだ一年にも満たないんだし詳しそうな人に聞くのは良いかも知れないわね」
次郎衛門の提案にフィリアも同意したので受付嬢の元へと走り出す次郎衛門。
「ひゃっはー! 受付のお姉さーん!」
「え? きゃぁぁ!」
次郎衛門の凄まじいまでの勢いに受付嬢は思わず悲鳴をあげる。
まぁ、鬼気迫る勢いで人相の悪い男が自分の元へと爆走して来たのだ。
そりゃ、悲鳴もあがるってものである。
ちなみに次郎衛門自身は爽やかなイケメンスマイルで受付嬢に声を掛けたつもりだったりする。
そんな次郎衛門の前に颯爽と立ちはだかる者達がいた。
「おっと、乱暴狼藉はそこまでです。ですが私がこの場に居る以上は受付嬢を毒牙になんて掛けさせません。ってジロー殿!?」
そう言い放った男は次郎衛門も知っている男だった。というか、シグルドだった。
「シグルドじゃん。お前俺に喧嘩売ってんの?」
いきなり犯罪者扱いされた次郎衛門はシグルドに対して凄んでみせる。
次郎衛門としては受付のお姉さんに用があったから近づいただけだ。
今回に関しては受付のお姉さんとシグルドが勝手に勘違いしたのであって言い掛かりを付けられた次郎衛門はちょっとイラっとしたっぽい。
「いえ! ジロー殿、決してそのような……」
「なんですか!? この方をどなたと心得ているのだ! 無礼でしょう! 控えなさい!」
急に歯切れの悪くなったシグルドに変わって今度恐らくシグルドのパーティーメンバーと思われる騎士っぽい装備に身を包んだ少女が声を荒げる。恐らく少女はSランク冒険者が誕生した事は知っていても顔までは知らないのだろう。その目は完全に次郎衛門を見下した目で見ていた。
シグルドの仲間と思わしき者は他にツルペタなシーフっぽい少女とあどけない表情の割にナイスバディな魔法使いっぽい少女がいる。しかも3人が3人とも美少女という何とも羨ましいパーティーだった。
「ん? 何この娘達? ひょっとしてシグルドのハーレムメンバーだったり?」
「か、彼女達は私のパーティーメンバーですよ。決してハーレムという訳では……」
「クハハハ! そう謙遜するなって! やるじゃねぇか!」
シグルドは次郎衛門の質問に言葉を濁す。
そんなシグルドの頭をヘッドロックを掛けて茶化す次郎衛門。
「はははっ! 冷やかさないでくださいよ! 私達は決してそういう間柄では…… ジ、ジロー殿!? ちょっと痛いんですけど…… いたた。ジ、ジロー殿ぉおぉぉぉ!!!?」
「お、王子!?」
最初は笑っていたシグルドだったが徐々に頭を締め付ける力が強くなってくるとその声色はあっさりと絶叫に変わった。どうやら次郎衛門ががっちりと極めているらしい。
何とかヘッドロックから抜け出そうと必死に抜け出そうとするシグルド。
「リア充死すべし、次郎衛門妬みのヘッドロックじゃーい!」
シグルドの頭を万力で締め上げるように力を込めていく次郎衛門。
どうやらシグルドのリア充っぷりを妬んでの犯行のようだ。
しばらくシグルドはジタバタと抵抗していたのだが、既に抵抗するこも出来なくなったのか徐々にぐったりとし始めてきている。
「王子を放せ! さもなくば斬るぞ!」
ギルドの中だというのに騎士っぽい少女がこめかみに青筋を立てて剣の柄を握り締める。
どうやらこの少女はシグルドにべた惚れなようだ。
王子でもあるシグルドに畏まりもせずに接する次郎衛門の事が気に入らないといった雰囲気がありありと出ていた。
そんな少女の様子を見て次郎衛門はこれ以上からかうのはまずいかな、とシグルドを解放する。
「分かった分かった。ちょっとしたスキンシップだっての。物騒なお嬢ちゃんだなぁ」
未だに剣から手を放さない少女に向かって降参だとでも言うように両手を上げてヒラヒラと手を振る次郎衛門。頭蓋骨がメキメキときしむようなヘッドロックがちょっとしたスキンシップで済むのなら世の中の様々なトラブルも結構な割合でスキンシップで済んでしまうような気もしなくもない。
「いたたた。ジロー殿酷いじゃないですか」
「うるせーよ。リア充だったり人を暴漢扱いした報いだっての」
未だに頭を押さえて涙目のシグルドが文句を言うが、次郎衛門はそれを一蹴する。
確かにちょっと受付嬢に話しかけようと声をかけただけで悲鳴を上げられるたり、暴漢扱いされたりしたら次郎衛門でなくても怒って当然だといえる。
まぁ、そもそも普通の人ならば荒くれ者に慣れている受付嬢が声を掛けられただけで悲鳴をあげる事なんてないのだが。
それよりも暴漢扱いされた事よりもシグルドがリア充だと言う事の方を先に言葉にしている辺りは、とても次郎衛門らしさを感じられると言えるかもしれない。
「王子! この無礼な者達は何者なんですか? どうやら顔見知りのようですが……」
「ああ。君達はSランク決定戦はチケット取れなかったんだったね。彼等は遂先日かの剣聖以来数百年ぶりにSランク冒険者になったジロー殿とフィリア殿、そしてその仲間達だよ」
「な!? こんな者達が悪夢王とそのパーティー!?」
「通りで尋常じゃない魔力を持っている訳ですね」
「やっぱりそうだったのね」
どうやら騎士っぽい少女以外の二人は妙に大人しいと思ったら薄々次郎衛門の正体に感づいていたようだ。見る者が見れば次郎衛門達が只者ではない事は明らかだ。
その割に王都で見た事がない顔となればそういった結論にたどり着くのはそう難しくはないのだが。
「おう! 宜しくな!」
三者三様の反応を見せるシグルドのハーレムメンバーに全力の爽やかスマイルを炸裂させ、彼女達にちょっとした恐怖感を味あわせてしまう次郎衛門なのであった。




