99話 とりあえずジロー正座!?
投稿初期の頃から読んで下さってる方も、つい最近読み始めたという方もこれからも宜しくお願いします。
ここは王都ドルアークの宿屋だ。
その宿屋でSランク冒険者である次郎衛門達が女将に五月蠅過ぎると説教されていた。
「いや、本当にすんません。これから気を付けるんで…… ほらお前達も頭下げろって」
次郎衛門はマナーが悪かったという自覚はあるらしくしおらしく謝っており、アイリィやピコ、そしてエレオノーラまでが頭を下げさせられていた。
ちなみにフィリアだけは頭を下げる気配は全くない。
「今回だけですよ! 次に五月蠅くしたら出て行って貰いますからね!」
女将はそう言い放つと部屋から出て行った。
「何で私が平民なんかに怒られなきゃいけないの!」
エレオノーラは100%被害者であった筈だ、にも関わらず一緒に怒られた事が納得いかないらしい。 プンスカしている様は結構可愛らしい。というかワンピースが引き千切れパンツ丸出しで状態であったにも関わらず女将はその事には一切触れなかった。
冒険者御用達の宿で様々な荒事に慣れているとは言っても五月蠅さにしか言及せず、エレオノーラに関しては完全スルーと言う事に驚きを禁じえない。
「悪い事したら怒られる。怒られて当然だろ? 平民だとかそういう問題じゃないだろ?」
「それじゃ聞くけど私が何したっていうの?」
「そりゃぁ…… してない…… かも?」
確かにエレオノーラは悪い事はしていない。
強いて言うならば自分でパンツ見せた事くらいだろうか。
後は一方的にぶん殴られたりしただけだ。
これで女将にお説教喰らってしまったのだから次郎衛門達のとばっちりとしか言いようがない。
「ほら! 私悪くないじゃん! 昨日から私の扱い酷過ぎなの!」
エレオノーラは叫ぶ。
再び女将が襲来して説教されないように小さな声ではあるがそれは紛れもなくエレオノーラの魂の叫びであった。そんなエレオノーラの叫びに次郎衛門が口を開く。
「姫さんの言い分は尤もだとは思う。王族なら、いや普通の一般人でもその主張は正しいのかも知れん。だがな…… 冒険者の心構えとしては-200万だ!」
「200万も!?」
次郎衛門の発言にエレオノーラが驚きの声を上げた。
心構えが-200万と言われてもさっぱり訳が分からない。
だが次郎衛門の強気なダメだしに思わず慄くエレオノーラ。
「ああ。冒険者たるものはどんな困難な状況も己の実力で切り開くべきだ。それが姫さんときたら危機管理も出来てやしない。もし昨日姫さんを確保したのが俺達じゃなかったとしたら? その相手がスラムのチンピラだとしたら? 姫さんは今頃犯られまくってアヘ顔ダブルピースを決めて腰振りまくっていたことだろう」
「私そんな淫乱じゃないよ!? で、でも私にそれを実感させる為に嫌われても良い覚悟でこんな事をしたの?」
エレオノーラの問いに優しげな表情で次郎衛門は口を開く。
「いや、それはロリ姫様に悪戯してみたかっただけ。色々ごちそうさんでした」
ぺこりと頭を下げる次郎衛門。
「もう! 何なのよコイツ! きぃぃ!」
次郎衛門の悪びれない態度に癇癪を起し地団太を踏み始めるエレオノーラ。
暫くジタバタしていたがやがてキレ気味に次郎衛門に詰め寄りだす。
「ん? どうした姫さん」
「せ、責任取ってよ!」
「なんの?」
いきなり責任とか言いだしたエレオノーラの真意が読めない次郎衛門。
「わ、私のパンツどころか裸まで見たんでしょ!」
「まぁ、確かに具までばっちり確認はしたけども」
「具って言うな!」
「んじゃ、膜?」
「余計悪い! 嫁入り前の女の子の裸を見たんだから責任とってケ、ケケケ、ケコ、ケコンしなさいよ!」
「ケ、ケケケ、ケコ、ケコン? それ鶏のマネか? タコに続き鶏のマネとか姫さんは本当にマニアックだな。そいえば前にフィリアたんも鶏のマネしてたよな。女心と秋の空とは良く言ったもんだ。何を考えてるのかさっぱり分からん。でも言っちゃなんだがあんまり鶏に似てないぞ」
「さっぱり分かんないのはジローの頭の中でしょ! 責任とって、け、結婚してっていってるの!」
相変わらず顔をタコの様に真っ赤にしながら結構な爆弾発言をぶっ放すエレオノーラ。
そんなエレオノーラの発言に耳年増なフィリアがピクリと反応した。
まぁ普段からフィリアは次郎衛門に好きだとか愛してるだとか言い寄られているので多少気になるのは仕方ない事なのだろう。
アイリィはいまいち状況が分かっていない様子で、ピコは若干不安そうな目で次郎衛門を見つめていた。
そして次郎衛門はエレオノーラの求婚に毅然とした態度で口を開いた。
「断る」
極めてシンプルだがそれだけに明確に拒絶の色が込められていた。
「なんでよ! 私はお姫様なのよ? ひょっとしたら王様にだって成れちゃうかも知れないのよ? 男なら誰でも憧れるものなんじゃないの!?」
考える素振りも見せずに断った次郎衛門に思わず問いかけるエレオノーラ。
「俺が好きなのはフィリアたんだ。姫さんじゃない。断るのにこれ以上の理由が必要か?」
恐ろしいほどに直球で答える次郎衛門。
フィリアが好きだと言う発言に関しては次郎衛門は一切ぶれた事がない。
この一途な点だけは次郎衛門を評価しても良いだろう。
そして話の流れ的に次郎衛門に告白されたフィリアは迷惑そうな表情を取り繕っているもののほんの少しだけ口角が緩んでいる辺りちょっとは嬉しく思っていそうだ。
出会ったばかりの頃から比べたら二人も随分距離は近くなったようだ。
普段から鉄壁の防御力で次郎衛門をシャットアウトしている癖に好きだと言われたら嬉しそうだったり次郎衛門がモテそうだったら気になったりと中々に難儀な女である。
続けて次郎衛門はエレオノーラに向かって口を開く。
「逆に聞くがどう考えても姫さんは俺の事好きじゃないだろう? 何で結婚だなんて言い出したんだ?」
そんな次郎衛門の問い掛けに僅かに顔を俯かせるエレオノーラ。
「―――― ったの……」
「え?」
「私だって国の為に頑張りたかったの! 私にはお兄様達の様な冒険者としての素質は無い事は分かってる! だから民の為に魔物を狩る事も出来ない! お父様のようなカリスマもない! だから私なりに考えたの! 私が役に立てる方法を!」
勢いよく喋り出したエレオノーラ。
ただのちょっと無防備なお姫様かと思いきや彼女なりに考えての行動ではあったらしい。
本来はこんな一足飛びではなく何とか次郎衛門パーティーに潜り込んで時間を掛けて次郎衛門を誑し込もうと思っていたらしい。
つまり元々エレオノーラは自分の体を餌に次郎衛門と政略的な結婚をする為に近づいたと言える。
そういった意味では次郎衛門にされまくったセクハラもエレオノーラの予定通りだったとも言える。
これが普通の相手だったならばエレオノーラは己に対するセクハラを弱みとして握り相手を従わせる事が出来たのかも知れない。
だが次郎衛門には通じない。
何故なら大して悪い事をしたと思っていないから。
例え相手が国家だろうと恐れていないから。
「まぁ、姫さんなりの理由があったのは分かった。でも結婚は出来んぞ。それに具を見たくらいで結婚出来るなら俺はとっくにフィリアたんと結婚出来てる筈だしな」
そんな事を言い放つ次郎衛門。
その言葉を悔しそうに聞くエレオノーラ。
二人の間に沈黙が訪れた。
しかし不意にその沈黙を破る人物が現れる。
「へぇ? その話詳しく聞かせて貰えるかしら?」
「ハッ!? フィリアたん!? しまった!」
フィリアのただならない様子に次郎衛門も己の失言に気が付くが誤魔化そうにも既に手遅れだった。
「何がしまったなのかしら? とりあえずジロー正座!」
「は、はい!」
フィリアから放たれる尋常ではないプレッシャーに屈し即座に正座する次郎衛門。
既にフィリアによって結界が展開済みだ。
どれだけ騒いでもこれなら女将に怒られる事もないだろう。
その様子を満足そうに見つめると再びフィリアが口を開く。
「さて、ジローに質問なんだけど。私はお風呂や寝る時も結界で完全にガードしてる筈よ。ジローはどうやって私の裸を見たのかしら?」
「も、黙秘します……」
「今正直に言ったら怒らないわよ?」
「そんな事言って絶対に怒るっしょ?」
「怒らないわ」
「本当に?」
「怒らないって言ってんでしょうが! さっさと吐きなさいよ!」
「うぎゃああああ!」
怒らないとか言いながら既にキレてるフィリア。
その白魚の様な指からは強烈な電撃が放たれ、骨が見えそうなコミカルなエフェクトで感電する次郎衛門。若干髪の毛もアフロ気味だ。
突然の予想もしなかった展開にエレオノーラは完全に固まっている。
何せ傍若無人を絵に描いた様な次郎衛門が碌に抵抗もせずに拷問され始めたのだ。
エレオノーラはもう一人のSランク冒険者であるフィリアは次郎衛門のお零れでSランクに昇格した存在だと思っていた。
王都でフィリアが実力を見せた事はない。
その思いこみも仕方ない事なのかもしれない。
だが実際にフィリアから発せられる次郎衛門に勝るとも劣らない強大な魔力がフィリアが決してお零れでSランクになったのではないと言う事を理解させられる。
「言う! 言うから! 助けて!」
「最初から素直に白状すれば良いのよ。それで?」
「本当に怒らないでくれよ? 俺達がこの世界に来て初めて薬草採取に行った時あったじゃん? あの時フィリアたん初めてみたマンドラゴラ? ショックを受けて気絶しちゃった上にちょっと漏らしちゃってたじゃん?」
次郎衛門がそこまで言った時点で全てを察したらしいフィリア。
つまりフィリアが気を失っている間に汚れちゃっていたパンツを次郎衛門が脱がせて洗い、乾かしてまたフィリアに履かせていたと言う事らしい。
フィリアの形相が見る間に変化していく。
その険しい形相はとても言葉では簡単に言い表せられるものではなかった。
般若の面が怒り度10の形相だとしたら今のフィリアは軽く50億は超えてそうだ。
少なくともテレビなどで放送するとするならば確実にモザイクは入るだろう。
「フィ、フィリアたん? お、怒らないって約束だったよね?」
「フ、フフフ。フフフフフ。勿論正直に言ってくれたから怒らないわ」
「おお! フィリアたんありがとう!」
その顔とは裏腹なフィリアの台詞に次郎衛門が歓喜の表情を浮かべた時だった。
「なんていう訳ないでしょうがぁぁぁ! このゲスがぁ! 100回死んで来いやぁぁぁ!」
「うぎゃぁあぁぁぁああぁぁぁぁ!」
エレオノーラの目の前で次郎衛門の処刑が執行された。
そしてこの光景があまりに壮絶だった為にエレオノーラの心はポッキリと折れ次郎衛門との政略結婚を諦めたようだ。
こうして尾行から始まったエレオノーラの一件は幕を閉じる事になったのだった。




