事実
無事に鍛練も終わり、帰ろうとした時にまだ先輩がいたことに驚いた。
「……先輩、まだいたんですか」
「用件が終わってないもの」
「その用件って誰にすか?」
「君だけど?」
「…なんなんすか?」
「心当たりはあると思うけど?」
「いや、すいません。さっぱりです」
ここら辺は嘘だ。
バッチリありまくる。
「昨日の電話のことなんだけど」
「何かあったんですか?」
「私も結構ゲームする人なんだけど、昨日仲がいい、と思う人に電話番号を教えたのよ」
「へぇ。危ないですね。もう少し自分が女子高生だってこと、自覚したらどうすか?」
「それで、その人、ユウって言うんだけど、最後に『晴美先輩』っていったの。心当たりない?」
「ないです。それこそ後輩なんじゃないすか?部活とか」
自分でも驚くくらいすらすらと嘘をつく。
「私、部活入ってないし、下級生と仲が良い訳じゃないの」
「じゃあ、道場の人とか」
「道場では、二番めに年下よ、私?」
「なら、一番年下の人じゃないすか?」
「違うわ。燈真君だもの」
「そんなら、先輩の後に入ってきた人とか」
「いないわ、そんな人。ねぇ、あなたでしょう?」
「そんなに気になるなら電話したらいいじゃないですか」
「その人、非通知でかけてきたの」
「手の込んだ人ですね」
「そうね。でも、私、そもそも先輩って呼ばれるの、あなたにだけ、なんだけど」
さて、どうしよう。
八方塞がり、手詰まりのようだ。
「燈真と同じ道場なんですか?」
「話をそらさないでちょうだい。どうなの?」
認めるしかないのだろうか。
ちょっと調子に乗り過ぎたらしい。
贖罪のつもりで話してしまおうか。
「えぇ、そうですよ、ヘイル。僕がユウです」
自分で聞いておいて驚くってどうなのよそれ?
「…やっぱり、悠人君だったのね?」
「そうですね。話が戻りますけど、燈真と同じ道場なんすか?」
「そうよ。知らなかったの?」
「知らなかったです」
知らなかったことが聞けた。
から満足。
「それじゃ、時間も時間なんで帰ります。さよなら」
「あ、うん、またね」
結局、最後は逃げたが。