ハイイロノセカイ
辺りは一面暗かった。
いつ見てもこの光景には慣れない
。最近ではようやく古参プレイヤーとして周りからも尊敬の目で見られるようになったが、悠人はいまだに自分はヒヨッコだと思っていた。
ロゴが浮かぶ。
《Grauen Welt》
悠人が初めて買い、虜となったゲームの名前だ。
悠人は昔からゲームが好きだった。
しかし親が厳しく、高校に入学するまでは何を言っても買わせてくれなかったのだ。
仕方ないから、と自分のお小遣いを貯めて買えば、親が半狂乱になって機体ごと持っていき、後日販売価格と同額のお金が返ってきた。
しかし、中学3年の夏、「もし、今でもゲームをやりたいのなら、今後受験までの定期考査で平均80点以上を取れ。それができたら高校入学後はお前の好きにしていい。」と言われたのだ。
その時、悠人の平均は60点。
親も悠人も無理だと思った。
しかし、悠人はそれから死に物狂いで勉強した。
幸い、部活はすでに終わっていて、時間があったこともいい方向に作用した結果、なんと夏休み明け最初の考査で悠人は平均点92点という好成績をとった。
以来ずっと地道に努力した結果が如実に現れ、入試も難なく突破した。
平均点が87.6点だったことは今でも中学校の教員の中で語り継がれている。
『youさんがログインしました』
無機質なアナウンスと共にゲームがスタートする。
「今日はあまり時間もないし、明日の準備だけにしておこうかな」
今日やることを口に出しながらホームをでる。
この世界は魔法あり武器あり火器ありとだいぶ詰め込んだ感じになっているが、
悠人はこの混沌具合が好きだった。
「とりあえずは弾薬と砥石、それから…」
必要な物を買い揃え、明日の大会に向けて自身の武器を調整していく。
スナイパーライフルを磨き、弾薬を装備していく。
次に、近接戦闘用に購入したバタフライナイフと刀を研ぎ、レーザーブレードのエネルギーを溜める。
さらに罠に使う鉄糸と爆薬をポーチにつめ、ライフルの傍らに置く。
購入した魔法石をつめるのも忘れない。
その後、誰もいないことを確認し、ストレージから武器を取り出す。
【デスズサイス】
この世界でたった50しかない神級武器だ。
そして、刃を研ぐ。
すべての作業が終わったとき、すでにゲームを始めてから一時間がたっていた。
「今日はもう寝よう。明日の大会には万全の状態で挑みたいからな」
誰にともなく呟き、ログアウトする。
大会当日。すでに予選一回戦が始まっている。
それを悠人は、ただ、見る。
悠人は前回の大会の上位入賞者であり、今回は予選無しで本戦に出ることができるため、ゆっくりと観戦できるのだ。
「なんだよ、レベル低ーな」
―こいつさえいなければ。
「予選なんだから戦闘のレベルが低いのは仕方ないだろ、Marz」
「そうじゃねーよ。この会場の女の子のレベルが低いんだよ」
「何度もいうが、それなら別のゲームやれよ。最近人気だろ?小人の世界のゲーム」
「あれはダメだった。性に合わん。……ん?」
「またかよ…」
こいつの軟派な性格に僕はうんざりとした溜息をつく。
「ちょっくら行って来る」
「帰ってくんなよ、もう」
Marz―マーツは何も答えずただ掌を振り返すだけだった。