壮大な計画
掲載日:2026/11/06
作業室の開かれた天蓋から視える空は、今日も灰色だ
一雨来るかも知れなかった
斧を振り下ろす人男達の顔は、かつて本で読んだ死刑囚の様に何の表情も無い
或る意味では、僕達も死刑囚の様なものかも知れない
叩き付けた冷たい金属の刃が、元は箪笥だった木片を視る影もなくずたずたに変えていった
その木屑を、男達と変わらないくらい憔悴した顔の女達が拾っては、炉に焚べていく
ぱちぱち、と
火花が顔に当たるが、気にする者はない
船は
かろうじて運航を続けて居た
落ちて来るものを感じて手を止め、冷え切った汗に濡れた顔を上げる
雪だった
「みんな!」
呼び掛けようと出した声は、自分でも少しぎょっとする位、大きな声だった
「こんな暮らし、もう止めよう」
「帰ろう」
「もう、帰ろう」
「僕たちの、生まれ育った場所へ」
「───そこはきっと、暖かだから」
甲板に出る
誰も、後になんか続かなかった
海を視た
煤だらけの様な空の下に、荒涼とした藍色が広がって居る
汎ゆる方向に、陸地など視当たらなかった
振り向いて、家具を燃やす人々を視た
燃え盛る箪笥の中身は、それよりも早く、薪に使われ消えて仕舞った
彼らは箪笥を燃やし終えたら、自らを火に焚べるのだろうか
もう一度、海を視る
希望など何処にも無かった




