第5章 社長と部長 (5/6)
「最近、面白い報告があった」
この流れ、褒められるか潰されるかの二択じゃない?
数日後。
全社会議。
珍しく、社長が登壇していた。
「最近、面白い報告があった」
ざわつく社員。
俺の心拍数、過去最高。
(昨日ちゃんと寝ればよかった。夜中に業務フロー整理してる場合じゃなかった)
社長が続ける。
「残業を減らして売上を上げた部署があるらしい」
視線が、こっちを向く。
「佐伯くん」
名指し。
背筋が伸びる。
「なぜ可能だった?」
会議室が静まり返る。
俺は一歩前に出た。
「無駄を削っただけです」
「具体的には?」
「目的のない会議を半減。資料の事前共有。判断基準の明文化」
一呼吸。
「集中力は有限です。使い切る前に帰る。それだけです」
社長が顎に手を当てる。
「黒田部長、どう思う?」
振られた。
部長は一瞬言葉に詰まる。
「……数字は、事実です」
小さく。
本当に小さく。
その瞬間、空気が変わった。
社長が笑う。
「面白い」
ざわり。
「佐伯くん。来月から“業務改革プロジェクト”を立ち上げる」
え?
「責任者をやってもらう」
脳が一瞬フリーズ。
(待て。俺、洗濯もまともに回せないんだぞ)
「全社的に残業を20%削減する」
ざわめきが大きくなる。
社長は続ける。
「成果が出れば、評価制度も見直す」
部長が固まっている。
俺を見る目が、悔しさと、ほんの少しの何かを含んでいた。
恐れか、焦りか。
⸻
会議後・廊下
「……すごいですね」
美咲が隣に立つ。
「足、震えてるけどな」
「私もです」
小さく笑う。
「責任者ですよ?」
「共犯者、続行だろ?」
彼女が一瞬黙る。
「……それ、業務命令ですか?」
「個人的希望」
彼女の頬がほんのり赤い。
「データで証明できます」
「何を?」
「佐伯さん一人じゃ、無理です」
(知ってる。だから隣にいてほしいんだよ)
18時。
社内はまだざわついている。
だが俺たちは、立ち上がる。
「帰りますか」
「はい、責任者」
並んでエレベーターへ向かう。
背中に、視線を感じる。
部長のものだ。
敵か、壁か、
それとも――これから変わる人か。
まだわからない。
でも一つだけ確かだ。
革命は始まった。
派手じゃない。
ただ、18時に帰るという選択から。
そして今度は――
会社そのものを、変える番だ。




