第3章 仲間が増える (3/6)
「……増えましたね」
気づけば、共犯者が増えていた。
一週間後。
「佐伯さん、今日も帰るんすか?」
後輩の森がデスク越しにひょこっと顔を出す。ネクタイが曲がってる。絶対急いで締めたな。
「18時だぞ」
俺は腕時計を見る。17時59分。
(キンコンカンコン鳴らしてくれ。体育会系の終了宣言でいいから)
「え、でも部長が……」
「効率悪いだろう?」
俺が言うと、森はニヤッと笑った。
「じゃ、俺もクラブ入会で」
(クラブって言うな。部費取るぞ。いや取らないけど)
「俺も帰ります!」
「子ども迎え行かなきゃで!」
三人、五人と立ち上がる。
椅子のキャスターが一斉に鳴る音が、ちょっとした革命みたいに響く。
黒田部長の視線が刺さる。
「最近の若いのは協調性がない!」
「協調してますよ」
俺は立ったまま答える。
「“効率よく働く”方向に」
(心臓バクバクなんだけどな。今日の夕飯カップ麺確定レベルで胃が荒れてる)
そのとき。
「今月の売上、前年比+8%です」
美咲が静かに言った。
ショートボブが揺れる。目は真っ直ぐ。
声は落ち着いているけど、指先はわずかに白くなるほどPCを握っている。
(強いな、この人)
部長が黙る。
18時ちょうど。
「お先に失礼します」
俺たちは連なってエレベーターへ向かう。
⸻
エレベーター内
「なんか青春っすね」
森が笑う。
「青春を定時で使うな」
「佐伯さん、今日何するんですか?」
「洗濯」
「リアル!」
(昨日干すの忘れて生乾き臭発生中なんだよ。革命家も部屋干し臭には勝てない)
笑いが起きる。
扉が開く。
夜風が涼しい。
⸻
ビルの外
人が三方向に散っていく。
「じゃ、また明日!」
「明日は17時半目標で!」
「欲張るな」
軽口を叩き合いながら、それぞれの生活へ戻っていく。
残ったのは、俺と美咲。
少し、静か。
「……増えましたね」
「ああ」
並んで歩く。歩幅が自然と揃う。
「正直、孤立するかと思ってました」
彼女がぽつりと言う。
「俺も」
(地方から出てきて、友達ほぼゼロ。会社で浮いたらマジで孤独コースだからな)
「でも」
彼女が俺を見る。
「佐伯さんが“帰る”って言った日、ちょっと救われました」
その言葉は、予想外に刺さる。
「……俺も、美咲さんがデータ出してくれなかったら無理だった」
名前で呼んだ瞬間、少しだけ間が空く。
彼女の耳が、夕焼け色になる。
「共犯者ですから」
「まだ言うか」
「嫌ですか?」
少しだけ、上目遣い。
(それは効率悪いだろ。心拍数上がる)
「……いや。悪くない」
コンビニ前で立ち止まる。
「夕飯、どうします?」
「自炊派ですか?」
「最近は冷凍食品派です」
「正直でよろしい」
小さく笑い合う。
会社の中では戦友。
外では、ただの男女。
でも――
「明日も、帰りますか?」
「もちろん」
「じゃあ、私も」
その言い方が、少しだけ特別に聞こえる。
(ああ、これだ。俺が変えたかったのは“働き方”だけじゃない)
18時の空が、昨日より柔らかい。
革命は派手じゃない。
ただ、
一緒に帰る人が増えていくだけだ。
それだけのことなのに。
胸の奥にあった重さが、
少しだけ軽くなっている。
俺はようやく、
それを受け止められるくらいには、
余裕を取り戻していたらしい。




