愛してはならなかった人
ああ俺はなんて人を愛してしまったのだろうか。
深夜、雨が降るネオン街。きらびやかな街とは裏腹に俺の心は荒んでいた。13年付き合っていた恋人に振られたのだ。大学を卒業すると同時に告白しやっと実った恋だった。俺の初恋だった。きっとうまくやれていると思っていたのに。彼には婚約者がいたらしい。
しかも10年も前から。本当にそんな簡単に嘘を付く元カレにも長い間気づかずにのうのうと暮らしていた俺にも心底呆れる。俺と違ってこの街は本当にきらびやかだ。いや欲望と恨み嫉みで溢れかえっているのはどちらも同じだろう。
そう頭の中でごちゃごちゃと考えているとある結論がでた。いや、出てしまった。この歩道橋から飛び降りてしまえば、もう何も考えずに住むのではないだろうか。ああ、何だ簡単なことだった。世間から後ろ指を刺されて、挙句の果て彼氏にも捨てられるような男に生きている価値などない。わかっていた。
わかっている。でも足がすくんで動けない。
「ああ、なっさけねぇ、、、俺」
涙があふれる。拭っても拭っても止まらない。ただ雨が涙を滲ませる。本当に惨めなもんだ。ついには頭までクラクラし始めた。
「もう、限界だな」
そう言って、俺は歩道橋の手すりに足をかけた。
「ばっかやろう!何してんだおじさん!」
若いゴツゴツとした手に引き寄せられる。
「誰だよ、お前には関係ないだろ。恋人に捨てられる気持ちなんかお前みたいな青二才にわかるわけねえだろ。邪魔すんなよ、、、」
止まっていた涙が再度溢れ出す。
「おい、泣くなよ。恋人なんかまた見つければいいだろ。」
少年はオロオロしながら俺を覗き込む。
「ふざけんなよ!簡単に言いやがってそこら辺の男がこんな長年付き合ってた彼氏に振られたおっさんなんかに振り向くはずねえだろ。終わったんだよ、俺は。」
少年からはなんの返答もなかった。当たり前だ。こんなところで泣きわめいて当たり散らしてくるおっさんなんか相手にしたくないだろう。
「、、、取り乱して済まなかったな。もういいから帰りなさ…」
「そんなことない。おじさんちょっとついてきて。」
「えっちょっとまっ…」
「だまって!」
青年の有無も言わさぬ勢いに負け手を引かれるがままただついて行く。
ここはネオン街の中心部ホテル街!?
「少年止まりなさい。ここは未成年が来ていいようなところではない。まだ戻れる早く帰りなさい。」
そういうも少年は一切足を止めずに進んでいく。
ついにそういうホテルについてしまった。
少年がドアを開ける。
その後シャワーを浴び少年に促されるまま一夜を明かしてしまった。
「すまない少年。君にこんなところに入らせて、おじさんの相手をさせてしまって。」
「いや、連れ込んだの俺ですし。おじさんすげぇ色っぽくて正直後半は何も覚えてないですから謝るようなことはあっても謝られることなんてされてませんよ。あとおじさん昨日から僕のこと少年って読んでますけど、僕先週26歳になったんですけど?」
俺は目を見開く。この少年のような風貌の男が26歳?信じられない。
「あとこれは僕も悪かったですけどおじさん実はそんなに年行ってないですよね。」
「まあ俺は今年で35だけど君からしたら十分おじさんだろう。昨日は格好も汚らしかったし、気にしないでおくれ。君は昨夜のことなんか忘れて普通に過ごしてくれればいいから。最後にいい思い出になったよ。」
彼が怪訝そうな顔をする。
「最後とか言わないでください。僕昨日のこっちを見上げるお兄さんが色っぽくて忘れられないんです。ねえ、恋人なんか簡単に見つからないんでしたっけ?じゃあ僕のものになってくださいよ。」
先ほどとは打って変わって自信満々な表情でこちらを見つめる。ああ敵わないな、、、
「これから宜しく頼むよ少年」
「こちらこそおじさん」
彼と並んで歩く街は朝日に照らされ爽やかな風が吹いていた。