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「そうね、そういう側面もあるかもしれない。もし涼ちゃんが体調を崩した原因が精神的な面にあるのだとしたら、ひとつのアプローチにはなるかも。単なるわたしの興味もあるけれど」
「話すだけで治るものなのかな?」
「わたしが知っている患者さんは、涼ちゃんと同じ症状で、ある程度運動ができるくらい快復するまで三年ほどかかったひとがいたわ。でもほかの患者さんには三週間くらいでころっと元に戻ったひともいた。こればっかりはわからないの。なんにせよ、もし問題がはっきりとしているなら、まずはそれを取り除くのが最優先事項。いまの涼ちゃんは、その問題がまだ見えていない段階なの。問題が有形で存在するとしての話だけれどね」
わたしは頷いた。律子さんはつづけた。
「わたしたちも手探りなのは患者さんと変わらないの。この病院には、一応こういうやりかたで進めましょうっていうマニュアルはあるけれど、わたしに言わせればたいして役に立ったことはないわね。状況次第で、道は無限に枝分かれするから」
わたしは言った。「あたしの話は退屈だよ。普通の思春期の女の子の、どこにでも転がってそうな話」
「馬鹿ね、そんなこと気にしなくていいの」律子さんが優しくそう言った。彼女はこちらに歩み寄り、わたしと並んでベッドに腰かけた。「涼ちゃんのためならどれだけ時間をかけてもいいって先生にも言われているから、ゆっくりでいいのよ」
わたしは目をつむり、わたしが過ごしてきた歳月に想いを馳せた。それらはあまりにも煩雑で、つかみどころがなかった。わたしはどうしていいかわからず、軽いパニックに陥った。墜落してしまわないよう手を伸ばすと、指先がなにかに触れた。目を開けると、律子さんの柔らかくあたたかい両の手の平が、わたしの手を包んでいた。
「一歩ずつでいいのよ」彼女は静かに言った。「完成された絵を思い浮かべる必要はないの。それができるひともいるかもしれないけど、できないひともたくさんいるんだから。流麗な線を描くのが困難なひともいるの。わたしたちにできるのは、一歩一歩、小さな足跡を刻みつけることだけ。穿たれた隣りあう無数の点は、たとえ左右にブレていたとしても、歪んでいたとしても、離れて見れば線になってるの。不器用なら不器用で、そうやって描くこともできる。それは世界から法則を盗むということ。あなたたちが忌避したパターンを、その手につかみとるということなの。涼ちゃんの未来は涼ちゃんだけのものだから・・・。一歩ずつ、目の前だけを見て、大地に足跡を刻みつけていけば、不恰好でも思い描いたとおりでなくても、勝手に真実の絵画は紡がれていくのよ」
律子さんにそう言われて気分が落ち着いた。一歩ずつ。いまのわたしにできるのはそれくらいだ。




