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父親と妹は仕事や学校が忙しかったから、たまにしか見舞いにはこなかったけれど、母はそれを義務だと感じているのか、わたしの部屋をほとんど毎日訪れた。ベッド横の机の、丈が低い椅子に腰かけ、持参したりんごやキウイを切り分けながら暢気にしゃべりつづけた。そして沈黙が長くつづくと必ず天気の話をした。
わたしの体は消耗していて、全体の三分の一が機能を停止してしまったかと思うほど役立たずだった。医者はわたしの現状を疲労が蓄積した結果だと言った。あまりにもためこみすぎてしまったのだと。当然、わたしはそれに対して異を唱えた。疲れなんて身におぼえがまったくないと言った。疲労は眠れば次の朝には回復しているものだし、積み重ねれば積み重ねただけ、自分の能力へと加算されてゆくものだ。そんなものが、わたしの体をどうこうできてたまるか。
「こういったことは本人の自覚なしに進行していることもあるんですよ」医者はデスクに片肘をつき、パソコンのディスプレイを見ながら言った。「とにかく、わたしが言った約束事を守ってください。でないと治るものも治りません。意図していなかった入院生活が長引いてしまうかもしれませんよ」
「嘘つき野郎」とわたしはつぶやいた。相手に聞こえていたかどうかわからない。医者はわたしの言葉に反応を示さなかった。でも多分、聞こえていただろう。聞こえるように言ってやったから。
大人たちへのわたしの態度が硬化するのに、さほど時間は必要なかった。もちろん、わたしの精神状態が悪化していたのも理由のひとつだろう。いつ終わるか知れない体の不調は、わたしを猜疑心と退屈で満たした。ベッドから立ち上がり、流しの上の鏡を見つめると、自分のものではないような目が見かえしてくる。瞼の筋肉は弛緩し、重く垂れ下がっている。外部からの光は眼窩の奥に吸いこまれ、二度とは返ってこない。見知らぬ人間の目。
大人は嫌いだ。大人は結論を先延ばしにできないし、お金を神かなにかのように崇める。