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電動の麻雀卓の調子が悪いというので、船橋さんはそれをいじくっていた。コンセントを引っこ抜いたり、屈んで卓の裏をのぞいたりしていた。ぼくはその間、ホースがガムテープで継ぎ接ぎにされている掃除機で、床の埃を吸いとっていた。
掃除機のスイッチを切り、騒々しい駆動音がやんだ合間に船橋さんが話しかけてきた。
「あいつ、今日は従業員食堂に顔を見せなかったみたいだな」
〝あいつ〟というのがだれを指してるかわからなかったけど、適当な相づちを打っておいた。
「何人もの人間から苦情が入ってるんだ。ところがいくら言っても聞かねえもんだから、とうとう追い出されちまったんだな」
「そんなことがあったんですね」
ふたたびスイッチを入れ、清掃に戻る。椅子をずらし、卓の下までノズルを潜りこませる。積まれた麻雀牌に謎のテープが貼られているのを見つけたため、スイッチを切って、それを剥がす作業にしばらく没頭した。
「まったくよう、呆れてしまうよな」船橋さんは卓の電源を入れ、牌が自動でシャッフル、整列されるのを見守った。「もういい歳した大人なんだ。学生じゃねえんだからな。人様の迷惑になるようなことをするんじゃねえって話だ」
ぼくは手持ちの雑巾で牌を綺麗に拭き、元の位置に戻した。ついでにリーチ棒を四つの場所へ、ほとんど均等な数になるよう配り直した。偏りがあれば、どこに座っていた人間が、どのくらい勝っていたのかよくわかる。
「みんながつかう場所には、ちゃんとその場所ごとにルールが定められているものなんだ。でなけりゃみんなが気分よく過ごせねえじゃねえか。それなのにあいつは、くちゃくちゃとでかい音を立てて飯を食ったり、ご飯の上に直接、味噌汁をぶっかけてずるずるとすすったりするんだ。何度注意しても、わかりましたって生返事するだけだ。終いにはあの温厚な食堂のばあちゃんを怒らしちまった。どういう教育を受けてきたのか知らねえが、当たり前の行儀や作法っちゅうもんがなってねえ」
「うーん、それはまた・・・」