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シロさんの部屋は二階の奥まった廊下の先にあった。同じ階にあるぼくの部屋は、いびつな三角形をしていたけれど、こっちの部屋はまともな形だった。間取り以外は概ねぼくの部屋と変わりなかった。エアコンは建物のつくり上、取りつけられないらしく、おもちゃのような電気ストーブと扇風機で暑さや寒さをしのぐ。内壁は外壁と変わらず、粗忽で味気ない灰色だった。床のカーペットは歴代の居住者がこぼした染みの数々で、凄惨な状況だった。机や椅子はなく、布団が一式、隅に畳まれているのみ。それを二枚も並べて広げれば、部屋中の足元を埋めてしまうほどの広さだった。
「布団のシーツやピローケースは、ホテルのリネン室から自由にとってください。ご自分で洗われても、新たなものを持ってきて交換しても結構です。テレビはありませんので、もし見たければ従業員用の待合室にあるものをご覧になってください。夜の十二時に鍵をかけられるので、電源のオンオフをお忘れにならないことのみ留意していただければ、その時間まで自由に出入り可能です。ぼくの部屋は窓の建てつけが悪く、半分までしか開かないのですが——」ぼくはひとつしかない窓へ歩み寄った。「この部屋は大丈夫みたいですね。気をつけなければならないのは、庇がないので、雨の日に開けると部屋のなかが水浸しになってしまうことです。それから掃除をしたいときには廊下に置いてある掃除機をつかってください。もっとも、二階のはずいぶん前から故障しているので、三階にあるものを持ってきてつかってください。ぼくが以前働いていた職場では、社員の人間が定期的に部屋が汚されすぎていないかチェックしにきましたが、ここではそんなことは起こり得ません。掃除に関してとやかく言われることはないので、神経質になる必要はないです。四、五、六階は女性寮になっているので立ち入りは禁止とされてます。煙草はお吸いになられますか?」
彼は首を振った。
「上階には立ち入れませんが屋上は開放されてます。階段をつかってください。この建物ではそこが唯一、喫煙の許される場所ですので、一応おぼえておいてください。それからご覧のとおり、トイレや流しは各部屋についているわけではないので、扉の外のものを利用してください」
ぼくは彼を部屋から連れ出し、共用トイレの案内をした。便器は和式で、壁際に積み重ねられたトイレットペーパーの芯には、昨年の蜘蛛の巣が張られていた。「説明は以上になります」ぼくはシロさんに彼の部屋の鍵を手渡した。「なにか質問はありますか?」




