●27
そのまま身動きせずに、じっとしていた。体を動かそうと思ってもできなかった。神経を遮断する楔でも打ちこまれたみたいだ。つぎに顔を上げたとき、体はすっかり冷えきっていた。タブレットを見ると、少なくとも三十分はその場にとどまっていたようだった。小夜からの着信はなかった。
ぼくはおぼつかない足取りで街中へと足を向けた。街灯が頭上でぼんやりと光の輪を放っていた。その下で、側溝からぬくい蒸気が噴き出していた。まるで霧のなかに迷いこんだみたいだった。商店街ではすでにほとんどの店がシャッターを閉じていた。まだかろうじて営業していたコンビニに入り、アルコール三パーセントの弱い酒を二本買った。袋を人差し指と中指に引っかけ、ブランコのように揺らしながら遊歩道へと歩いて戻った。背もたれのないベンチに腰をかけ、袋から缶を取り出し、プルタブを開けた。炭酸の抜ける音がした。海を眺めながら、ジュースのような酒を長い時間をかけてちびちびと飲んだ。ぼくはとてもアルコールに弱いので、一本飲み干した頃には足元がふらつくほど酔っぱらっていた。静かなひとときだった。騒がしい酔っぱらいもヤンキーもいない。いたとしてもホテルの一室やスーツを着たコンシェルジュの陰にいる。酔っぱらいは隠されている。本来であれば。
あーあー 自転車置き場に置き忘れた傘
垂れた水滴が パンダみたいな顔を描いてる
乾いたカップにコーヒーがこびりついて
洗い物が全然進まないったらありゃしない
ぴーぴーぴーぴー うずらが鳴けば
たまごは全部 偽物だった
パチロドソから帰還した彼は
めでたくンヴァホ族と 結婚いたしましたとさ
家事は女がやれ 男は働け戦争しろ
ウマ面 ロバ面 カエル面
なにもかも海に沈んでしまえ