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昼休みになって地下にある従業員食堂を訪れると、すでにフロントやレストランの社員で席の大半が埋まっていた。漆喰の壁に掛けられたホワイトボードを見ると、この日の献立は野菜のかき揚げときつねそばだった。ここでは毎週水曜日の昼は麺類と決まっているのだ。ぼくは食堂のおばちゃんに挨拶をし、壁に貼られた名簿に鉛筆でチェックをつけ、プラスチックでできた黒塗りのお盆をひとつ手にとった。湯の張ったどでかい寸胴鍋が、業務用のガスコンロの上であたためられていた。鍋の内側の縁にはてぼが四つ引っかけられていて、ぼくはそのなかのひとつに冷凍のそばを一玉入れた。そばが茹であがる一分の間に、丼と皿を食器棚から引っぱり出し、丼には熱々の出汁をそそぎ、皿には野菜のかき揚げとおかわり自由のサラダを盛った。コンロの前に戻って自分が選んだてぼをつかみ、鍋の上で麺を軽く湯切りしてから静かに丼に入れた。最後に菜箸で大きな油揚げを一枚つまみ、麺の上にのせた。汁がこぼれないようにお盆を水平に持ち上げ、食事を終えて立ち上がった人々を避けながら隅っこのほうへ進んだ。奥にはまだだれも席についていない四人掛けのテーブルがひとつあった。そんな決まりはないのだけど、ぼくらのような期間雇用のアルバイトのために、いつもこのテーブルには社員の人間は座らなかった。ぼくがこのホテルにきたときにはすでにあった、暗黙の了解のようなものだ。ぼくは苦もなく席を確保することができた。ほかのアルバイト——いまはぼくともうひとりしかいない——はまだきていなかった。お盆を置いて椅子に座り、箸立てから箸を一対抜いた。七味をかけたかったけれど、このテーブルに置いてあった瓶の中身はからだった。わざわざほかのテーブルに借りにいくのも面倒だった。ぼくはひとりで食事をはじめた。