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そうだ。いずれにせよ、物事が最終局面に至ったいま、ぼくが望むのはたったひとつだけだ。ぼくはぼくのままでありたい。認識が最期を迎え、彼方へと沈んでいくとき、ぼくにはそれがわかるだろうか。もうどちらでもいいのかもしれない。認識も記憶も、所詮ぼくにとっては、彼女の名を叫ぶための手段でしかないのだから。潰えるのなら、異なる手段を見つけだすだけのこと。そしてすべてが潰えたその先には——。それこそが、ぼくの恋焦がれた地平線なのだ。ぼくがぼくのままでいられるのなら、そのほかのものなどすべて、宇宙の果てに溶け去ってしまえばいい。
眠りは当然のように訪れてはくれない。だがそれはもう諦めた。やらなければならないことができた。意識を研ぎ澄ませば、瞼のずっと奥のほうで、悲鳴に近い錆びついたような軋みが聞こえる。何年も前から付きあいのあるものだ。小夜に出会うよりも前から、骨の髄に居座っていたものだ。そいつがいまにも暴れだそうと、機をうかがっている。それを抑えこむ力は、もうぼくには残っていない。そしてこうすることが、ぼくへの憐れみに対する手向けとなるのだろう。
鈴虫が鳴いている。ぼくは思い出す。
でなければ、とても夜明けまで正気を保っていられそうにないから。