☀️18
次の日は朝から分厚く重たい雲が低い空を覆っていた。中庭を出歩いていた患者や見舞客は時折もどかしげに空を見上げ、いつになったら雨は降りだすのだろう、と連れに尋ね、首を捻った。わたしは彼らの間を縫うように歩き、部屋に向かいながら、降るならばさっさと降ればいいのに、と思った。ずっとむかしから、雨の日が嫌いではなかった。
病室は暗かった。わたしは窓に近づき、レースのカーテンを開けた。空を見やると、雲は先ほどから幾センチも動いておらず、偉そうに居座っていた。窓を叩く雨音もなければ、隙間から忍びこもうとする風の音もない。天気予報では昼頃から徐々に降りだす、と言っていた。別の予報によれば、すでに降りはじめていてもいいはずだった。最後に雨のなかを走りまわったのはいつだったっけ。そんなに前であるはずがないのに、思い出せなかった。
律子さんは昼にやってきた。彼女も天気が気になるみたいで、窓から外を眺めていた。わたしは食事をしながら、傘の貸し出しはどこでやっているか、と彼女に訊いた。
「患者さん用の出入口にあるのを勝手につかっていいわよ」
彼女はどこか心ここにあらず、という様子だった。ポケットのなかで、無意識に手をもぞもぞと動かしていた。いつもより髪に膨らみがない。わたしもつられて外を見た。
「雨、降らないね」
「そうね」と律子さんはこたえた。「できれば、はやく降ってほしいのだけど」
わたしは箸を置いて、食後のフルーツにとりかかった。この日はカットされたメロン一切れだった。フォークを刺した時点で、あまり熟れていないのがわかった。それを頬ばり、しゃりしゃりと音を立てながら食べた。
「そうだね。わたしもはやく降ってほしい」咀嚼しながら、わたしも言った。
律子さんは振りかえって、わずかに微笑んだ。「どうして涼ちゃんが、はやく降ってほしいって思うの?」
「傘をさしたい気分なの。ズボンの縁を濡らしながら、体中で雨のにおいを嗅ぎたいんだ」
「長靴を履いていかないとだめよ。それとレインコートもね」律子さんは視線を空に戻した。
「律子さんはどうしてはやく降ってほしいの?」
「明日は用事があるのよ。いまのうちに降ってもらって、空からいっさいの水分を取っぱらってほしいわ」




