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なぜだろう。無性に海が見たい。
海を見たい。その活力がぼくのうちに湧き上がった。タブレットを手で持ち、裸足のまま、ふらふらと立ち上がった。足の裏を濡れた土がくすぐる。ここから海までどれほどの距離があるかわからない。自分がいまどこにいるのかもわからない。陽の照らす方向を目指し、足を引きずって歩く。肉体が悲鳴をあげ、限界が近いことを教えてくれる。それでもぼくは歩きつづける。それ以外にとるべき行動などあるはずもない。
やがて潮騒の音が聞こえたような気がした。どれだけ歩いたかわからない。視界が霞み、足がもつれる。気づくと口のなかに土の味がする。ぼくは前のめりに倒れていた。足には力が入らず、もう立ち上がれない。近くに海があるのかどうかわからない。
太陽が頭上で永遠の炎を燃やしている。ぼくは光に包まれ、かつてないほどの温もりに受け入れられている。体は重力から解放され、光の粒子がぼくのまわりで旋回している。これが大地とひとつになるということなのだろうか。宇宙と深く結びつくということなのだろうか。ぼくはここへ故郷を築き、肉体を置いて新たな旅へ出る。最後の陽光がまばゆいほどに輝きを増す。ぼくの視線を押しかえし、遠く遠く、空高くへと舞い上がる。慄く腕を上げ、ぼくはそれに手を伸ばした。でも届かなかった。