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「もう一度言うけど、これは夢の話なのよ」彼女はぼくから目を背け、そこになにかを探し求めるかのように水面を見つめた。「こうして無事に星を脱出できた三号機は、また新たな星へと向かう。労力と時間を地球外生命体の補助となることに捧げつづける。概ねは平穏に事が進むのだけど、時々は事件のほうからやってくる。ほとんどは三号機が自力で解決するのだけれど、どうにもならない状況になってしまうこともあって、そういうときは、わたしが力をつかって介入するの。わたしには時空間に干渉する力があるの。だからその気になれば、あらゆる事象を制御できる。困っている宇宙人に手を差し伸べて、あっというまに思いどおりの未来をつくれるし、悩みを取り除いてあげられる。でもわたしはそうしない。わたしが力を行使するのは、あなたに対してだけ。宇宙人が往来で野垂れ死にしそうだとしても平気で放っておくし、彼らの生活がどぶを浚うようなものだとしても構わない。彼らを助けるのは、あくまであなた。それはわたしに与えられた役割じゃないの。あなたが危険な目にあったときや、だれかを助けたいと強く願ったときのみ、わたしは意識をあなたにそそぐの」
「まるで専属の守り神みたいだな」
「わたしはあまねく宇宙に存在している。だからあらゆる現象を把握できるはずなのだけど、なぜだかわたしはあなたの目を媒体にして世界を見ている。あなたが見ているものを、そのままわたしも見ている。あなたの行くところに必ずわたしもいる。あなたはさすがにわたしの存在に気づいているけれど、手を触れることはできない。
そんなふうにあなたの旅はつづいていくの。あなたはひとりで文句も言わずに歩いていく。わたしは少し後ろからそれを眺めている」
水滴がぽつりと鼻先に落ちてきた。見上げれば、無数の雨粒がぼくらに迫ってきていた。「これがわたしの見た夢」彼女はぼくを見ていた。現世にぎりぎり留まっている気まぐれな妖精のように、か細く、いつのまにか木々の合間に消えてしまいそうな立ち姿だった。「とても印象に残っている夢なの。あるとしたらどんな意味があるのか、さっぱりわからない。あなたにはわかる、夢占い師さん?」
ぼくは傘を開き、腕を目いっぱい伸ばして彼女の頭上に差し出した。雨粒がビニールをぱらぱらと叩く音が響いた。雨は少しずつ強くなり、ぼくの首筋を伝って背中に流れ落ちた。




