表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

1-9 山賊のアジト



 クラノヘイム領の町から南方に位置する森の中だった。


 アジトの木造の建物の中、ザイラックは椅子に座ってタバコを吸っていた。憂鬱だった。最近楽しいことがない。あるとすれば女遊びぐらいだ。しかし毎晩同じ女を抱くとなると、さすがに飽きる。


 暇だからと言って何か始めたとしても、上手く行っている時は良い。やがて右下がりになる。恥をかいて、死のうかなあと思って、また何か始める。人生はその繰り返しだとザイラックは思っていた。


 彼はベッドで本を読んでいる愛人に話しかける。


「おい、セフィ。何か楽しいことねーか?」


「ありませぬ」


 セフィが本のページをはぐった。本の表紙からして魔法書を読んでいるようだ。セフィはビーストテイマーである。テイマーが魔法書を読んで呪文を覚えたところで、意味があるのかどうかザイラックには疑問だった。


 ベッドの足下にはセフィのビーストであるヴァルウルフが伏せっている。ヴァルキュリーウルフを短くした言葉だ。その名の通り、ウルフの顔にはどこか神々しさがあり、鋭い牙はどんな硬い物でも切り裂く、そしてメスだった。



 ……セフィも女なんだが。だけどこの女、抱いてもちっとも面白くねえんだなあこれが。



 ここは山賊のアジトである。ザイラックはそのキャプテンであった。最近儲け話がやってこない。こんな日は、仲間と町の酒場に行ってビールをたらふく飲んで騒ぎたい気分だった。


 そんな折りである。建物の玄関の扉から足音がした。扉が叩かれて、部下が告げる。


「キャプテン! 客人がいらっしゃいました」


「通せ」


 ザイラックが言うと、一人の部下が扉を開けて入ってくる。その後ろには見たことのある冒険者がいた。



 ……ああ、なんだ。ジルドじゃねーか。



「失礼します」ジルドは一礼した。


「今日はどうしたんだ? ジルド。まあそこに座れ」


 ザイラックは自分の対面の席を指さす。ジルドはもう一度「失礼します」と言って、腰掛けた。ジルドを連れてきた部下は扉の前に待機するようだ。


 ジルドが語り出す。


「旦那。実は昨日、町でオッドアイの女を見かけました」


「本当か!?」


 その言葉はセフィも興味を示したようで、枕から顔を上げる。彼女もオッドアイだった。右目が黄色、左目が緑色である。


「ええ。おそらく、旦那たちが探しているフュージョナーとか言うのと、合致していると思いますぜ」


「名前は?」


「イリアとか、年は10代後半に見えやした」


「イリア? 10代後半か。ふーん、女か。ビーストは?」


「緑色のウルフのようなドラゴンでした」


「ドラゴン~?」


「おい、その女はいずこで見かけたのか?」とセフィ。


 ジルドがセフィに顔を向ける。彼女もフュージョナーである。同族の情報は聞き捨てならないのだろう。


「冒険者ギルドの前っす。中に入っていったんで、冒険者だと思いますがね」


「ふーん、捕らえよう。ザイラック、私が行こう」


「おい待てセフィ。焦るんじゃねえ。事は慎重に運ばなきゃいけねんだ。まずは段取りだ」


 そこでジルドが両手をもみほぐす。


「旦那ぁ。情報料ははずんでくださいよ」


「ちっ。分かってる。上手く行ったら、お前には金貨を浴びるほどプレゼントしてやるよ」


「ありがとうございまぁす」


 ジルドは頬にしわを寄せて微笑んだ。セフィはベッドに腰を下ろし、ヴァルウルフをなで始める。


「おいザイラック、その女には手を出すなよ」とセフィ。


「わかってらーい」


 セフィは夜の相手をさせるなと言っているのだ。


「その代わりと言っちゃなんだが、お前はもっと良い声で鳴け」


「何のことだ?」


「ふっはっは。しらばっくれやがって。まあいい。さて、仕事の始まりだ」


 久しぶりの色気のある仕事がきた。ザイラックの憂鬱はどこかへ吹き飛んでしまった。それから三人は仕事のこと、イリアの誘拐計画について会議を始める。




今日はもう一つアップします。一時間後です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ