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1-5 バルバロス(下)



 森を抜けた。


 なだらかな丘の上に三匹のバルバロスが集まっているのが見える。あそこだな! あたしは全速力で走って向かって行った。


「グワオワゥワゥワゥワゥワゥワゥ」


 ヒューイの怯えた声が響いている。あたしは丘を登りきるとバルバロスを追い払うように両手の短剣を振るった。


「もうっ! あっち行ってってば!」


「「バローウ!」」


 バルバロスが翼をはためかせて後方に飛び上がった。


 見るとヒューイの体が傷ついている。くちばしでついばまれたのだろう。お腹の出血がひどい。あたしは肩でぜーぜーと息をしていた。


「ヒューイ、あたしが! あたしが絶対に絶対に! 守ってあげるからね!」


 バルバロスはまた空高く舞い上がった。あきらめて、どこかに行ってくれれば良いと思ったのだが、甘くは無かったようだ。翼を滑空させてこちらへと一匹が突っ込んでくる。



 ……絶対に許さない!



 あたしはヒューイを抱えながら地面を転がって避けた。そしてズボンのポケットの中から鈴のイヤリングを二つ取りだした。耳に装着する。それは(いくさ)舞踏(ぶとう)をするときのイヤリングだった。


 りんっ。


 鈴が鳴る。あたしは思考にメロディーが流れ始める。そして戦歌(いくさうた)を口ずさんだ。


「いーくさ、いくさー。斬れや斬れやで、猛者の体を踏んでは踊れ~」


 りんっ。


 バルバロスが一匹、翼をはためかせて突っ込んで来る。あたしの短剣とかぎ爪が交差した。瞬間である。


 バシュッ。


 あたしの短剣がバルバロスの足が吹き飛ばすように切断した。バルバロスが墜落し、地面でもがく。


「バロオォォォォ!」


 悲鳴を上げている。


 空を泳いでいた二匹目は躊躇していたのだが、やがてこちらへと突っ込んでくる。あたしは歌い、そして踊り続ける。


 りんっ。


「かーなし、かなしー。血が吹き血が舞い血が踊る~、討てよ倒せよ殺しましょ~、あたしの後ろにゃむくろが笑う~」


 ザシュッ。


 二匹目の足も切断した。


「バロォオォオォオォオ!」


 そのバルバロスも地面に墜落し、翼をはためかせるのだが上手く飛び上がることができなかった。三匹目も来るかと思ったのだが、空中で「バロー! バロー!」と鳴き声を上げて、森の方へと飛んで逃げて行った。


 あたしは踊るような足つきでバルバロスに近づき、その喉をかっきる。二匹とも同じようにした。「ガー!」という断末魔を上げて、バルバロス二匹が死体となった。


 りんっ。



 ……はー、はー、何とか倒した。



 あたしはその場にどっかりと崩れた。適正では無い魔法ウインドムーヴをさっき使ったせいで、体力の消耗が半端なかった。く、くそ、立てないな。ヒューイは、大丈夫なのかな? 早く、無事を確かめないと。だけど体が持ち上がらない。


「がるぁーん」


 肩で息をしていると、近くでヒューイの声がした。顔を向けるとあたしのドラゴンがいて、体の傷が治っている。ヒューイは自分にヒールをかけたようだった。ああ、無事である。本当に良かった。


 ヒューイは何を思ったのか、あたしの顔をベロベロと舐め始めた。そして一声吠える。


「がるあー」


 あたしの体に緑色の光が降った。ヒューイがヒールをかけてくれたのだ。モンスターというのは不思議な生き物で、使える魔法であれば呪文を唱えることを必要としない。


 木枝や藪でこすれて傷ついた体や、失った体力が回復していく。あたしは両手を地面につけてヒューイに顔を向けた。


「ヒューイ、ありがとう!」


「がるあーん」


 ヒューイがベロベロとあたしの顔を舐める。くすぐったくて仕方無かった。だけど、もしかしたら懐いてくれたのかもしれない。きっとそうだ! それはすごく嬉しかった。


「ヒューイ!」


 あたしはドラゴンの頭に抱きついた。


「心配したんだから! バルバロスに食べられちゃったかと思ったよ! もう~!」


「がるるあーん」


 そしてあたしたちはひとしきり喜びを分かち合ったのだった。その後、リュックを取ってくるために再び森へと戻る。歩いてみると20分ほどの距離であり、森の出口からすぐのところで野宿をしていたことが分かった。


 その日は野宿する場所を移動し、たき火をまた起こして、あたしは眠らずに過ごした。ヒューイは本当に懐いてくれたようで、あたしが座るその隣で身を横たえて眠った。




今日の投稿はここまでです。


明日からは一部ずつの投稿になります。

調子の良い日は二部以上を投稿することもあります。

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