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2-12 帰路



 あれから三日後。


 ステフの荷馬車に揺られて、あたしはクラノヘイムの町へと向かっていた。道中、御者台に並んで座って、今回の事件についての話をした。ステフは言った。


「王族なんていうのはさ、どこの国の王族も大体同じようなことをするんだ。民に立派な演説をする一方で、自分たちはやっちゃいけないことをしている。どうだい、反吐が出るだろ?」


「反吐が出ますね」


「あの子供の王子、パミュリーノって言ったっけ? 可哀想だねー。ありゃあ人間不信になってもおかしくないよ。あの子は王城なんて飛び出して、遠くに逃げた方が良いぐらいだ」


「助けてあげられませんでした」


「あんたのせいじゃないよ。人間にできることなんてちっぽけなもんさ。人を助けるよりも、まず自分が生きていくので精一杯。誰だってそうだよ」


「ステフさん」


「ん?」


「あたし、決めたことがあるんです」


「何だい?」


「あたし、旅に出ます」


「いいんじゃないかい? 若い頃は色んなところを巡って、博識を高めておいで。だけど言っておくよ。王族や貴族なんて連中は、どこに言ったって同じ事をしているよ」


「そうですか」


 それからも世間話をした。世間話が尽きるとステフさんはタバコの箱を取り出してタバコを吸った。ぷふーと煙を吐き出す。


「あたしにも一本くれます?」


「吸うのかい?」


「一本だけ、吸ってみようかなーと思って」


「やめとけやめとけ。吸って癖になったらお金がかかるだけだよ」


「一本だけ」


「そうかい。じゃあ一本だけ」


 あたしはタバコを一本もらう。マッチも貸してもらい、タバコに火をつけて吸った。煙が肺に入るとやけに苦しくて、ごほごほと咳をしてしまった。


「最初はそうなるよ」


「まずい……ステフさんはどうしてこんなものを吸っているんですか?」


「さあ、どうしてだろうね」


 あたしは意地になって、そのいがらっぽい味のタバコを一本吸いきった。体が重くなって、ちょっとだけめまいがした。だけど不思議と悪い気分ではなかった。今回の事件の記憶に煙がかかって見えなくなりますように、そんなことを願った。


 町に戻ると、大通りに出たところで荷馬車を止めてステフさんから護衛料金をもらった。道中モンスターが出なかったため、またしてもあたしは働くことがなかった。彼女はそれでも悪い顔一つせずにお金を支払ってくれる。そして言った。


「イリア、旅に出るのはいつ?」


「そうですね。三ヶ月後ぐらいには」


「そうか。じゃあ、また会うね」


「はい。これからもよろしくお願いします」


「ああ。良かったら店舗にも顔を出しておくれよ」


「行ってみます!」


「イリア」


「はい?」


「今回のこと、気にしない方が良いよ」


「ありがとうございます」


 あたしは一礼し、ヒューイを連れて荷馬車から離れた。歩き出す。髪を切るために理容室に向かった。あたしは思い切って髪をバッサリと切ろうと思った。そして実際ショートカットにしてもらったのだけど、自分で言うのもなんだが中々似合っている。その後食材屋に寄ってから帰宅し、アパートの家具を眺めながら考える。旅に出るために、この家具はどうしたら良いものだろうか?


 大家さんのラルフに相談しに行った。近い将来旅に出ることを告げるとびっくりされた。出て行く際、家具は売っても良いが、そのままにしておいても良いと言われた。次に入居者にそのまま使ってもらうらしい。あたしはそのままにすることにした。


 心残りがあるとすればそう、ディアスのことだ。その夜、彼に手紙を書いた。お元気ですか。良かったら、またお仕事を教えてください。あたしは元気です。そのようなことを書いて送った。


 数日後、冒険者ギルドに顔を出すと、ディアスが待っていてくれた。


「よお、イリア」


「おはようございます。ディアス」


「がるあーう」


「お前、髪切ったのか?」


「はい♪ 似合っています?」


 ディアスは落ち込みから回復したのか、もう普段通りの様子だった。あたしたちはまた一緒に仕事をして、それが終わると一緒にお酒を飲んだ。あたしは今回の事件の顛末を語って聞かせた。ディアスはなんとも言えない表情で、あたしの話を聞いてくれた。


「ねえ、ディアス」


「どうした?」


「あたし、旅に出たいんだ」


「旅? 旅ってどこへ行くんだ? 俺も行くぞ」


「一緒に来てくれる?」


「当然」


「行く場所はまだ、決まってなくて」


「ふーん。行く場所が分からないのに旅に出るのか? はははっ」


「笑わないでください」


「まあ、強くなりたいんだったら、とりあえず武器か?」


「武器?」


「ああ。鍛冶場で有名な村が大陸の東の東にあるぞ」


「ふーん、じゃあそこに行ってみよう」


「やけに安直だな」


「安直でいいの。大陸の要所を一つ一つ回りたいだけなんだから。最初にどこへ行こうと同じでしょ?」


「まあ、そりゃそうだ」


「じゃあ、三ヶ月後に」


「かなり間のある話だな」


「だってまたお金を貯めないといけないもの」


 そんなこんな。



 終わり


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