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2-7 ダンジョン



「お、お、お、お前! 来るのが遅いんだよ!」


 パミュリーノは真っ赤な顔で怒っていた。腰にはこの前はしていなかった帯剣をしている。あたし肩をすくめた。


「そんなこと言ったって、貴方。時間を指定しなかったじゃない」


「うるさい! そいつはお前のビーストか?」


 パミュリーノがヒューイを指さす。


「がるあう」


「うん。そうだけど?」


「この前は連れていなかったよな」


「訓練に出していたのよ」


「ふーん、なるほど。ちょっと格好良いビーストだな」


「ありがとう。それより、パミュリーノ様? 今日はここで何をするの?」


「パミュでいいよ」


「パミュ?」


「お前には特別にオイラを愛称で呼ぶ権利を与えるって言ってるんだよ」


「ふーん、それはどうも」


「今日は何をするかって言うと。ここからすぐ近くに王家のダンジョンがあるんだ。オイラはこれからダンジョンに潜って最下層の五階に行く」


「それは何て言うか、いってらっしゃい」


「お前も来るんだよ! イリア」


「……まあ、そう言うと思っていたけどさ」


「分かれば良い。それじゃあ行くぞ?」


「待ちなさいよ。王家のダンジョンの五階に行くって言うのは、どんな意味があるの?」


「五階には王子の証があるんだ。それは国王様が王子たちのために用意したもので、試練を乗り越えてそれを取ってきた王子にのみ、王位継承権が与えられるんだ」


「あなた、国王になりたいの?」


「国王になることには興味ねーよ。というかオイラは、王子の証を取ってきても、別に王位継承権を貰えるってわけじゃない。オイラは、その、母上が……だから。ただ、オイラはダンジョンを攻略してその勇気を、兄さんたちに示したいだけだ」



 ……なるほどね。



「ふーん、ちなみに、ダンジョンにモンスターは出るの?」


「一階降りるごとにボスがいるんだ。ボスは騎士団が外で捕獲してテイムしたモンスターなんだ。だから俺たちで倒すぞ」


「なんであたしが倒さなきゃいけないの? って気分なんですけど」


 さすがに苦笑した。だけどまあ、パミュの気持ちも分からなくはないんだよね。セフィの話だと、パミュはお兄さんたちに相手にしてもらえず、いじめられることもあるということだ。見返すために王子の証を取りに行くというのは、ちょっと勇敢だよね。


「そんなの当たり前だろ? このダンジョンは普通、三人の仲間と四人で潜るように言われているんだ」


「あのねパミュ」


「何だ?」


「あたしは冒険者よ。あたしを連れて行きたいのなら、お金で雇いなさい」


「冒険者? い、いくらするんだよ」


「そうね。金貨10枚で雇われてあげるわ」


「そんな安くていいのかよ! 金貨10枚なんて、いくらでもやるよ!」


 パミュが胸ポケットから白金貨1枚を取り出した。近づいてきてあたしに渡す。白金貨は1枚につき金貨10枚の価値である。


「まいどあり」


「おう! それじゃあ行くぞ! イリア」


「はいはい。それじゃあ仕事を片付けちゃいましょうか」


 そしてあたしたちは歩き出した。ダンジョンの入り口はすぐのところにあった。大きなビーストでも入れるように、階段が大きく作られている。石造りであり、ところどころに苔が生えていて、長年の歴史を感じさせられた。土汚れもひどかった。


「よ、よし、行くぞ」


「ええ」


「い、イリア。お前が先頭を行ってくれ」


「まあ、仕事だし。いいわよ。ヒューイ!」


「がるあー」


「先頭を行きなさい。ゆっくり歩いてね」


「がうるう!」


 ヒューイがゆっくりと階段を降りて行く。あたしたちはその背中に続いた。ダンジョンの中は暗かったので「ライト」と唱える。右手から光りの玉が現れて空中に浮いた。


「お前、ライトが使えるのか」


 パミュが少し驚いたようにつぶやいていた。


「うん。魔道具のおかげでね」


「なるほどな」


 階段を降りると、四方が広い部屋にたどり着く。天井も高く、大きさだけで言えばまるで王城のエントランスホールのようだ。そして部屋の中心には赤い両目をしたオークがいる。顔や胸にはいくつもの傷があった。頭にはねずみ色の毛が生えている。……あれはオークソルジャーだわ。抜き身の剣を持っている。


「がるるうううぅ!」


 ヒューイが威嚇の声を発しながら、顔だけ振り返ってあたしを見た。今にもオークソルジャーに飛びかかって行きそうである。その頭に手を置いてあたしは「待て」と言った。


「イリア、あいつをやっつけろ!」


「何を言っているの? パミュ。これは貴方の試練なんだから、貴方が戦いなさいよ。あたしは援護に回るわ」


「そ、そんな! ふざけるなよ、金を払っただろ!?」


「パミュ、お兄さんたちを見返したいんでしょ? だったら頑張りなさい」


「くっ! そんなこと言ったって、あいつ、凄え図体だぜ」


 パミュは恐る恐る帯剣していたショートソードを抜いた。そして足下のスライムに声をかける。


「おい、ボルフレア、今からあいつをやっつけるぞ!」


「ぎゅぎゅっ」


「オイラが隙を作るから、ボルフレアはその隙に攻撃だ」


「ぎゅぎゅっ、ぎゅう!」


 パミュがオークソルジャーに向けて歩き出す。あら、中々勇気があるじゃない。あたしがそう思い感心していると、オークソルジャーがこちらへ走りだした。パミュはびびったようで、引き返してくる。


「やべえぇぇぇぇえええ! 退却だあぁぁぁぁああああ!」



 ……感心して損したわ。



「ヒューイ、エアロウインド!」


「ガルアルンガ!」


 オークソルジャーが宙に浮き、地面に叩きつけられる。


「ぐはぁう!」


「ほら! パミュ、チャンスよ。オークソルジャーに攻撃しなさい!」


「そ、そんなこと言ったって! できるかよ!」


 ヒューイの体を掴んで、パミュは足がぷるぷると震えている。あちゃー、これはダメだわ。


「パミュ、王子の証を取りに行くのはまた今度にした方が良いわね」


「な、何でだよ! せっかく来たって言うのに!」


「貴方、戦う気が無いじゃない!」


「う、うるせえ! 金で雇ったんだから、お前が倒しておくれよお!」


「あのねえ」


 ため息をついた。こういう時はどうした方が良いだろうか? あたしはパミュに近寄り、その頬を思いっきり張った。


 パシンッ!


「痛でっ!」


「パミュ、貴方いまのままで良いの? 戦わなかったら、一生負け犬よ。お兄さんたちを見返したいのなら、戦いなさい!」


「い、イリア……」


「大丈夫よ。貴方が死なないように、あたしが援護するわ。あのオークソルジャーに、思いっきり剣を振り下ろしなさい」


「……わ、分かったよ」


 パミュがヒューイの体から離れて歩いて行く。途中にいたスライムがぴょんぴょんと跳ねた。


「ボルフレア、やるぞ」


「ぎゅぎゅっ」


「ぐっはあーおー!」


 オークソルジャーが立ち上がり、おたけびを上げてまた剣を構えている。あたしはヒューイの背中に手を当ててささやいた。


「ヒューイ、危ないと思ったらすぐにエアロウインドよ」


「がるあう!」


 パミュが剣を右斜め上に構えた。走りながら唱える。


「ルティオル流剣術王家の秘技、月朧(つきおぼろ)!」


「ぐっはおー!」


 オークソルジャーが剣を振るう。パミュはジャンプして敵を飛び越えた。相手の一撃を見事に躱し、背後に回る。


「ボルフレア!」


「ぎゅぎゅっ!」


 スライムが跳ねて行き、オークソルジャーの顔面にタックルをかます。


「ぐはうっ」


「ルティオル流剣術、三段突き!」


 パミュがオークソルジャーの尻、背中、首に連続で突きを放った。


 ザクザクザクッ!


「ぐばあぁぁぁぁああああ!」


 オークーソルジャーは体から血を噴出させて床に倒れた。ジタバタとした後で動かなくなる。地面に血だまりが出来た。あたしとヒューイが駆け寄っていく。パミュはぜーぜーと息をしていた。


「パミュ! ボルフレア! やるじゃない!」


「へへへ! こんな雑魚モンスター、オイラの敵じゃないやい!」


「ぎゅぎゅぅ! ぎゅぎゅぅ!」


 スライムが跳ねて喜んでいる。あたしはパミュの肩に手を置いた。


「貴方、強かったのね。セフィさんから修行を怠っているって聞いたけど」


「何言ってんだ! 男ってのはなあ、女の見ていないところで男を磨くんだよ!」


「そうなの?」


 パミュは実は修行熱心なのかもしれなかった。セフィが知らないだけなのかもしれない。


「でも。じゃあ貴方、どうしてこの間は町でいじめられていたの?」


「そ、そりゃあ、剣が持って無かったからだよ。う、うるせえやい!」


「なるほどねえ」


「がるあう」


 ヒューイも吠えて、喜びを伝えた。オークソルジャーはびくびくと痙攣していたのだが、やがて動かなくなった。


「さて、どうするの? パミュ。次の階へ行くの?」


 前方の右角に、下へと続く階段が見える。


「行くに決まってんだろ! 王子の証は、五階にたどり着かないともらえないんだからな!」


「そうね。じゃあ行きましょうか」


「がるあー」


「ぎゅぎゅっ」


 そしてあたしたちは歩き、地下二階へと続く階段を降りる。




次は19時20分です。

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