2-5 出生の秘密
王城の一室。そこは特務騎士団の会議室だった。いま席に座っているのはあたしとセフィだけである。調度品は、立派な直方体の振り子時計と、天井にはシャンデリアがあった。長テーブルがコの形に並べられている。床は赤い絨毯が敷き詰められており、壁も天井も良い材質のものが使われていた。さすがは王城と言った高級感であり、あたしは小さく息を飲んだ。
セフィは入れてくれた紅茶の香りを楽しみながら、あたしたちは会話をしていた。
「先ほどは殿下がすまなかった」
「いえ、良いですけど。あれは本当に第七王子なんですか?」
小声である。こんな失礼な発言を他の誰かに聞かれたらまずいと思った。
「ええ。殿下は昔からああいう気性で、国王様にも、外に出るなと言われている。おかげで国民にも殿下の顔はほとんど知られていない」
「外に出てはいけないんですか?」
「うん。殿下はビーストテイマーだが、そなたも見たであろう? ビーストはスライムだ。あまりこういうことを言いたくないが、国民に見られたら笑いものにされてしまう。それこそ話のタネだ」
「ま、まあ、そうなりますよね」
「ああ。普段は、面倒見の良い第一の王女のマリン様が、パミュリーノ様をつきっきりで面倒を見ている。あまり、甘やかしすぎるのは良くないと私は思うのだがな」
「へー、色々あるんですね」
「ああ。特にパミュリーノ様は出生に秘密がある。そのせいで国王様からは王位継承権をもらえずに、他の王子様たちはパミュリーノ様を相手にしないのだ。それどころか、先ほどの子供のようにいじめることさえあるぐらいだ」
「出生の秘密?」
「ここだけの話、パミュリーノ様の母上は元奴隷の方だ」
「え!? それって!」
「ああ。その上ビーストがスライムだろ? この王城にもそなたの村と同様に、孵化授与式が存在する。国王様と王子様たちは、その出生の秘密ゆえ、殿下が軟弱なビーストを神に賜ったのだと思っている」
「で、でも、じゃあ、殿下は他の強そうなモンスターを野良でテイムすれば良いんじゃないですか?」
「まあ、それが一番だろうな。だけど、そなたがいま言った通りのことをしようにも、パミュリーノ様の魔力は弱い。強いモンスターをテイムするにも年月をかけて修行することが必要だろう。しかし殿下は怠惰ゆえに、修行や勉強をしない。それなのにマリン様は殿下を甘やかすときた。これでは殿下の将来は、暗いものになるかもしれぬな」
「ふーん。何とも良い難い話ですね」
「うん。まあパミュリーノ様にはパミュリーノ様の人生があるという話だ」
そこであたしたちは紅茶をすすった。品の良い香りと甘みがしてとても美味しい。
「ところでそなた。特務騎士になる覚悟は決まったのか?」
「あ! それなんですが、ならないことにします」
「どうしてだ?」
「え、えっと。やっぱり、貴族としての生活は、あたしには向いてないかなーって」
頭の後ろを右手でさする。
「そうか。私は強制をせんよ。ただ、今後の王様の考え方次第によっては、強制を持ちかけることもあるということだけ、頭に入れておいて欲しい」
「あ、はい……」
「ああ、ところで、今回はどうしてルティオルに?」
「それはですね!」
あたしはヒューイを訓練所に預けたという話をした。セフィは特務騎士になれば、訓練所の訓練費を全額免除にできるのに、と嘆くようにこぼした。あたしは思った。全額免除なんて、そんなのちっとも面白くない。自分たちでお金をコツコツ稼いで、少しずつ強くなっていくから人生は楽しいんだ。だから特務騎士になることにはちっとも惹かれなかった。
小一時間が経っただろうか。あたしは「そろそろ」と言ってお開きにしてもらった。セフィは王城の外まで見送りをしてくれると言ったが、遠慮した。会議室を出る際、セフィがお菓子の入った手提げ袋を持たせてくれた。ありがたいよね、こういうの。あたしは泊まっている宿屋を教えて、用事があったら来てくださいと言い残し、会議室を一人で出た。
王城の赤い絨毯を歩いていく。ふと、左手の通路からパミュリーノが飛び出した。
「おいお前! 出てくるのが遅いんだよ!」
「は? どうしたの?」
「オイラはずっと待っていたんだからな! お前に用事があるんだ!」
「あたしに用事? 何の?」
「お前! 名前は!?」
「イリアよ」
「イリア! 七日後にレムレリアの森の入り口に来い! いいか、これは命令だ!」
レムレリアの森と言えば、王城の池を挟んで後ろにある森のことである。
「命令?」
「そうだ! オイラは、オイラは第七王子なんだからな! 偉いんだ!」
「何をしに行くの?」
「その時に話す。とにかく。七日後だ、いいか? 七日後だぞ?」
あたしは眉をひそめた。
「貴方、森なんかに行ったら、王様に怒られるんじゃないの?」
「うるさい! 七日後を忘れるなよ! いいな! お前は強いと見た。だから特別に随従を許す! 分かったな!」
「どうして七日後なの?」
「七日後には、姉ちゃんの用事があるんだ。お茶会みたいなんだけど、そんなことはどうだっていいんだ! とにかく、ちゃんと来いよ! イリア!」
そう言って、パミュリーノは走って行った。あたしは首を傾げて、それからため息をついた。七日後と言えば、ヒューイの訓練が終わる日と同じである。大体、時間は何時なのだろうか? 森に行って何をするのだろう。王城の人間に見つかったら、パミュリーノだけでなくあたしまで怒られてしまうのではないか? そう思うとお腹が痛くなってきた。
……とりあえず、食堂を探して食事にしよう。
あたしはそう思い、王城の通路を歩いて階段を降り、また通路を歩いて城を後にするのだった。
次は19時20分です。




