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2-1 喧嘩

 第2章始まりました。



 あれから三ヶ月が経った。季節はすっかり変わって気温が高くなり、夏がやってきていた。ユークリッド国には四季があり、夏は暑く冬は寒い。とはいっても冬の雪は余り降らないのだけれど。


 いま、あたしはヒューイとディアスと共に獲物を狩っている。場所は星降り平原だった。二頭のサーベルボアを追い詰めていた。


「ヒューイ!」


「がうあう!」


 名前を呼ぶだけでヒューイが反応し、サーベルボアの行く先に回って威嚇する。あたしとディアスは追いかけて走った。


「ヒューイ! エアロウインド」


「ガルアルンガ!」


 二頭のサーベルボアが宙に浮き、地面に叩きつけられる。


「「ぶひぃぃぃぃい!」」


「何か余裕だなこりゃあ!」


 ディアスが駆け寄り、ボアの首に目がけて剣を振るった。


 ドシュンッ。


 胴体と首が切断される。もう一頭のボアは恐れたのか、立ち上がって必死に駆け回る。


「ぶひぶひっ! ぶひっ!」


「ヒューイ!」


「がるあぅ!」


 ヒューイがボアの行く先に回る。ボアは走る向きを変えてあたしの方に突っ込んできた。あたしは双短剣を構えてジャンプし宙に一回転。ボアをすり抜ける際にその両目を薙いだ。


「ぶひいぃぃぃぃいいいい!」


 両目を切り裂かれて視覚を失ったボアがつまずいた。すぐさまディアスが駆け寄っていき、ロングソードを振り下ろす。


「そおりゃ!」


 バツンッ!


 ボアは断末魔を上げることもできずに死体となった。おびただしい血が地面に流れる。よし! これで仕事が片付いたわ!


「がうあう」


 ヒューイがあたしに駆け寄ってくる。あたしはポケットからクッキーを取り出してその大きな口に入れてあげた。


「良い子ね、ヒューイ」


「がうっ、がうっ」


 カリカリと食べている。あたしは頭を撫でて上げた。可愛いったらない。


「それにしてもサーベルボアの狩猟なんて、俺たちはハンターにでもなったのか?」


「ディアス、別に良いじゃない。ランディさんに頼まれたんだから仕方無いのよ」


「たぶんこのボア肉、ランディさんは酒場の酒のつまみとして出すんだろーなー」


「たぶんそうよね」


 あたしは右手を口元に掲げてクスクスと笑った。


 それから、近くにあったリアカーをディアスが運んできた。ボアの首からの出血がある程度おさまってから荷台に載せる。切断された頭も載せるみたいだった。


「よーし、イリア、ヒューイ、帰るぞ」


「はーい」


「がうわん」


 ディアスがリアカーを引いて、あたしたちは星降り平原を後にした。冒険者ギルドまでかなりの距離があるのだが、ディアスは文句を言うことなくリアカーを引いた。ちなみに今回の任務報酬はサーベルボア一体につき金貨5枚である。ディアスと二等分するので、あたしのお財布には金貨5枚の収入が入ることになる。


 この三ヶ月間、あたしはお金を貯めていた。目標は金貨100枚を貯めることであり、もうすでに目標を達成している。いま、貯金は金貨130枚ぐらいあった。他にも、セフィさんからの謝礼としていただいた白金貨10枚がある。白金貨は1枚につき金貨10枚分の価値である。そのお金はヤバい時にしか使わないでおこうと思い、別にしてある。


 目標金貨100枚の理由は、王都ルティオルのビースト訓練所で、ヒューイを一週間訓練させるために必要な金額だからだ。訓練させれば新しい魔法を覚えることができるらしい。そして潜在能力を引き出せるらしい。しかし訓練が失敗することもあるようだ。ちょっと博打っぽいが、あたしは近々ヒューイを訓練させようと思っていた。


 ディアスと世間話をして、世間話が尽きても無言で歩き、やっとのことで冒険者ギルドにたどりつく。ランディにサーベルボアを引き渡して報酬をもらった。その際、ディアスが聞いた。


「ランディさん、このボアの肉、酒のつまみに出すんだろー?」


「当たり前じゃねえか。何を言っているんだお前は? 馬鹿か?」


「馬鹿ってひでえなー」


 ランディは含み笑いをしながら厨房のコックさんたちと一緒にボアの肉を運んだ。


 あたしたちは今日の仕事を終えたということで、ギルドでお酒を飲むことにした。メニューには書いて無かったが、ディアスがサーベルボアの肉を注文した。するとボアの肉が運ばれてくる。厚みのあるステーキである。その甘みが強くて弾力のある肉をあたしたちはむしゃむしゃと食べたのだった。ヒューイの分はボアの生肉の塊だった。幸せそうな顔をして、いま肉を頬張っている。


 その日はどうしてか、夜遅くまでギルドに入り浸ってしまった。夜が来ていることに気づいてあたしが慌てて帰ろうとすると、ディアスは家まで送ってくれると言った。あたしは悪い気がしつつもお願いしたのだった。


 夜の町を二人と一頭でよたよたと歩く。あたしたちは酔っ払っていて、ちょっとだけ千鳥足だった。ディアスは絡むように言った。


「イリア、お前の顔は綺麗だなぁー」


「何言っているんですかぁ? そんなこと言ったら、ディアスだって、相当のイケメンですぅ」


「いやいや、本当だって。お前はとびきりの美人だ」


「それを言うならディアスは貴公子ですよー」


「がぅがぅぅ」


 あたしたちが酔ってこういう会話を始めるとヒューイが決まって寂しそうに鳴く。その度にあたしはドラゴンの首をよしよしとさすって撫でた。ヒューイはお返しに手をべろべろと舐めてくれる。


 やがてアパートに着いた。あたしが鍵を開けて、扉を開こうとしたその時だ。ディアスがあたしを扉の壁に押しつけて、キスを迫ってきた。やばい!


 バチンッ!


 あたしはつい、思いっきりビンタをしていた。


「……おい、イリア、まだ、ダメなのか?」


 真剣な声である。しばらく無言で見つめ合った。


「イリア、俺は、お前のことが……」


「……まだとか、そう言うのじゃありません! ディアスは、あたしより弱いじゃないですか! 弱い男と、キスなんてできません!」


「弱い!? お前は俺の本気の力を知らないだけだ」


「じゃあ試してみますか? 今ここで」


「本気か?」


「マジです」


「がうあう!」


 ヒューイがディアスの足に突進をかました。彼はずっこける。千鳥足で立ち上がった。


「くそったれ」


「ヒューイ、いいの!」


「がうるう!」


 ディアスはまた近づいてきた。


「イリア、俺はお前のことを真剣になあ!」


「真剣に、何ですか?」


「俺は本当に本当に真剣なんだ。もう分かるだろ? イリア」


「分かりません。ちゃんと言葉にして言ってください」


「だー! 言わせるな!」


「言わないのなら、もう帰ってください」


「だから! 俺はお前のことが、す、って言ってるだろ?」


「は? 聞こえませんでした」


「だから、俺はお前のことが、分かるだろ? もう」


「分かりません。ここまで送ってくれてありがとうございました。では帰ってください」


「おいイリア、マジで言ってんのか!?」


「マジも何も、時刻は夜ですよ? 寝る時間です」


「だー! もう良い! 俺はもうお前とは仕事をしねえ!」


「はい、そうですか。それじゃあ、明日からはヒューイと仕事をします」


「がうるう」


「何なんだよ! 何なんだよ! お前は!?」


「何もありません。ディアス、おやすみなさい」


 あたしは扉を開いてヒューイを先に入れようとした。その時後ろから、右手を捕まれた。


「おい! イリア! 俺はお前がなあ!」


「はい。あたしが、何ですか?」


「すっ」


「す?」


「す、すす」


「はい」


「酸っぱいレモンだ!」


「レモンが食べたいんですか? それなら明日の朝に市場で買うと良いですよ。あははっ、それじゃあ、おやすみなさい」


 あたしはヒューイを中に入れた。そして自分自身も入っていく。最後に扉からあたしは顔を出した。


「ディアス、おやすみなさい」


「……しばらく、一人にしてくれ」


 ディアスはそう言って、とぼとぼと去って行った。あたしはその後ろ姿を見て、かなり気の毒になった。彼の言いたいことは分かる。気持ちも伝わってくる。だけど、だけど仕方がないのよね。だってディアスは、あたしより弱いんだもの。弱い男と、そういうことをする訳には、いかないよね、やっぱり。


 あたしは夜闇に小さくつぶやいた。


「ディアス、早く強くなってね」




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