1-21 小さな幸せ
結局、ジルドはどこを探しても見つからなかった。彼が住んでいた町のアパートの契約もそのままで、遠方に逃げてしまったというのがディアスの見解だった。あたしを山賊に売り飛ばしたせいで、もうディアスに合わせる顔が無かったのだろう。ディアスは怒っている様子だった。そしてそれは同時に寂しそうな横顔でもあった。彼は相棒を一人失ってしまったのである。聞くと、ジルドとは冒険者を始めた頃からの付き合いだったそうだ。せめて最後に一言、文句を言ってやりたかったとディアスは言った。
セフィは無事にルティオルの王城に帰還することができたらしい。その際、王様や家臣、上官にはこってりと叱られることになったようだ。数日後、彼女はあたしのアパートを訪ねて来て、自分がどうして山賊の仲間になってしまったのか詳細を語ってくれた。セフィはクラノヘイムの町の酒場でザイラックと出会い話しかけられたらしい。会話の中で、セフィは自分がフュージョナーであることを喋ったようだ。それを聞いたザイラックは、セフィの力を悪用しようと思ったのだろう、こっそりと酒に睡眠薬を入れて飲ませた。眠ってしまった彼女は、マインドコントロールの魔法かけられてしまった。確かに、そりゃあ仕方無いよね。
セフィは特務騎士にならないかとあたしを誘った。王様は軍事力拡大の一環として、フュージョナーの血を一カ所に集め、増やしていきたいようだ。フュージョナー同士を結婚させて子供を産ませれば、その子供もフュージョナーである確率が高いのだという。セフィは言った。特務騎士になれば、騎士爵をたまえわれるのだと。一番下の階級だが貴族になれるということだ。とても良い話である。だけどあたしに貴族としての振るまいや、貴族同士の付き合いができるかどうか……。あたしは本当に迷った。迷った末、考えさせてくださいと返答した。セフィはいくらでも考える時間を与えると言ってくれた。
その日の朝、あたしはヒューイと共に、いつも通り冒険者ギルドに仕事をしに向かった。ギルドの建物の玄関では、今日もディアスが待っていてくれた。
「おはようございます。ディアスさん」
「おう、イリア」
そこでディアスは不満そうに表情をしかめた。
「おいイリア。そろそろ慣れてきただろ。俺のことは呼び捨てで良いって」
「そうですか? では、ええっと、ディアス!」
「おう! それで良い。それじゃあ今日も、いっちょ仕事をするか!」
「はい!」
「がうるうっ!」
ヒューイが元気に鳴き声を上げた。あたしたちは肩を並べてギルドの玄関をくぐっていく。
カウンターに行くと、事務仕事をしているスキンヘッドのランディがいた。ディアスが右手を掲げて声をかける。
「おはようございまっす。ランディさん」
「おう! ディアスか、元気がいいな」
「当ったり前でしょー。俺は元気だけが取り柄だからさー」
「そうかそうか。今日もイリア嬢ちゃんとヒューイが一緒だな」
「はい!」
「がるあ!」
「よーし。それじゃあちょっと待てよ。お前らにぴったりな依頼が来ているんだ。今、用紙を出すぞ」
そう言えばなんだけど、あたしはフェルメル村の両親や友達に手紙を書いて送った。内容は、いまクラノヘイム領の町で冒険者をやっていること。親切な先輩がいて、仕事を教えてもらっている最中であること。アパートも無事借りることができて、あたしもヒューイも元気で暮らしていること。他にも、ラスクという美味しいお菓子があるので食べて欲しいということ。手紙と一緒にラスクの箱も送った。
今回の事件のことは書かないことにした。知らせても心配させるだけである。それに、あたしたちはこうして無事であったのだから、みんなに不安を煽る必要はない。両親と友達たちには、暇が出来たら町に遊びに来てねとも書いた。もし来てくれたら、あたしはクラノヘイムの町を案内してあげなければいけない。本当に来るかもしれないので、あたしはもっともっと町の観光地や名所、おいしいご飯屋さんを知ろうと思った。もちろんディアスに聞くのが早いので、そうすることにしたけどね。頼むとディアスは笑顔で了承してくれた。本当、良い先輩に巡り会ったものだ。
あたしの当面の目標は、ヒューイの育成である。ヒューイだけでも魔人を狩ることができるようにするというのが最終目標だ。魔人なんてどこにいるのか分からないけどね。そのためには進化もさせなきゃいけないし、潜在能力も引き出さなきゃいけないし、魔法ももっと覚えて欲しい。やりたい事は山積みであった。だけどあたしとヒューイなら乗り越えられる気がしているんだ。
「ね、ヒューイ」
「がるあーう!」
これからきっと様々な困難があたしたちを待っている。だけどヒューイや冒険者の先輩であるディアスに囲まれて、ちょっと良い気分なんだ。幸せって、日常のそういう些細な良い気分のことを言うのかもしれない。あたしの夢である結婚はまだまだ遠いけど、それでもあたしはいま確かに言える。
小さな幸せ、見つけた。
終わり
読書をありがとうございました。感謝(*^^*)




