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 ディアスはあたしたちを守るように前に出た。ロングソードを下から構えてセフィに近づいていく。


「てめえか! 俺の相棒のイリアを、こんなふうにいじめやがったのは?」


「誤解です。私はルティオルの特務騎士です。王様から、フュージョナーの保護の任務を仰せつかっています」


「フュージョナーの保護ぉ? フュージョナーって何だ?」


「私の目」


 セフィが人差し指で自分の両目を指さす。


「オッドアイでしょう? イリアも同じです。私とイリアはフュージョナーです。フュージョナーとは、ビーストとの融合魔法を行使できる者のことを指します」


「よく分かんねーよ。分かんねーけど、お前はこの国の特務騎士って言ったな? どーして国の騎士様が、この森でイリアをこんなにボロボロになるまで攻撃したんだ?」


「捕まえるためです」


 あたしは大声を上げた。


「おかしいよ! じゃあどうして国の騎士なのに、セフィさんは山賊をやっているんですか?」


「山賊? はて、なんのことやら。私は山賊ではありません、国の騎士です」


 ディアスが瞳を細めて、それから唇を歪めた。疑問そうにつぶやく。


「何か話が食い違っているな。セフィさん、おめーまさか、山賊の親分にマインドコントロールの魔法をかけられているんじゃねーか?」


 その言葉であたしも閃いた。魔法書にはマインドコントロールという魔法が記載されている。ビーストテイマーのあたしなんかじゃ全文を読んだって使うこともできないAランクの魔法だ。魔法使いなら、行使ができる。


 セフィは眉をひそめた。


「マインドコントロール? はて、何でしょうかそれは?」


「人の心を操ることのできる魔法のことだな」


「んんん?」


 セフィは両手を胸に組んで首を傾げる。そこでディアスは断定するように言った。


「間違いねえ。あんた、操られているぞ?」


「そうですか。私はこう見えても強いので、操られるなどと、そんなことはあり得ないと思うのですが」


「そんなこと知らん、とりあえず、魔法を解除してやっからよ。町まで着いてこい。解除の魔法を使える魔法使いを、俺が知っているからよ」


「ふむ。納得はできませんが、そう言うのであれば行きましょうか。ベルゼル、町まで行きますよ」


「ワオン!」


 そしてセフィとベルゼルが歩きだそうとした。


「おいセフィ! どこへ行くって!?」


 左手の方の木々の合間から、ザイラックの声が響いた。ハンチング帽をかぶったその男が顔を見せる。舌の傷は治っていないようで、未だに左手で唇を押さえている。ザイラックの後ろには子分たちが大勢かけつけていた。


「セフィ、その赤い髪の男が邪魔だ。殺せ!」


「おおお! ザイラックではないですか。ふむ。では赤い髪の男を殺すとしましょう。ベルゼル、一気に片付けます。融合しますよ!」



 ……セフィさんの態度が急に変わった、やっぱり、ザイラックに操られているんだわ。



「わ、わおん……?」


 ベルゼルは疑問そうな声で鳴いた。たぶん、ベルゼルの方はマインドコントロールの魔法をかけられていないんだと思う。


 セフィが呪文の詠唱を始める。


「古より来たりて力。新たなる未来の幕開けに希望。群衆よ、喝采を響かせたもう。遙かなる空、我に敵を打ち倒す(つるぎ)を与えたまえ。フュージョン!」


 瞬間、セフィとベルゼルの体が銀色の光に包まれた。二つの体が一つに溶け合い、融合していく。


「な、なんだこの魔法?」とディアス。


「がるあうぅぅ」ヒューイが鼻にしわを寄せて吠えた。


 あたしはその魔法のセリフを覚えて、心の中で何度も暗唱していた。あたしもセフィと同じフュージョナーという話である。だったら、同じ魔法を使えるのかもしれない。


 光がやんで、その場に大きな人狼が立ち上がった。体を覆っている毛は白銀であり、瞳の色はやはり、右目が黄色、左目が緑だ。口はウルフと同じ獣のものだった。服は無い。身長はディアスよりも高く、腕や足の筋肉が猛々しく盛り上がっている。両手のひらが大きく、鋭い爪が生えていた。お尻には尻尾が生えている。



 ……何か、やばいのが出て来たんですけど。



「アオォォォォオオオオオン!」


 月を見上げて吠え声を上げた。


「ワーウルフってことか!」


 ディアスが言って、舌打ちをする。こちらを振り向いた。


「おいイリア! 俺がこのワーウルフを抑えているから、お前はそこのザイラックとかいう男をやれ! できるか!?」


「分かった!」


「ザイラックはおそらく魔法使いだ。殺せばセフィにかけられているマインドコントロールが解けるはずだ!」


「そうなの!?」


「俺をやるだと? げはははははっ。やってみなよお嬢ちゃん。言っとくけどこう見えても俺、魔法使いだからよぉ」


「今度は仕留めてやるわ! ヒューイ! 行くよ!」


「ガルアーウ!」


 立ち上がり、あたしは走った。双短剣を構えて、ザイラックへ駆けていく。向こうはシミターを抜剣して応戦する構えだ。すぐに山賊の子分たちがザイラックの前に立ちはだかる。


「キャプテン、お下がりください!」


「「キャプテン後ろへ!」」


「おお、お前ら、気が利くじゃねーか。じゃあ、頼むわ」


「卑怯者!」とあたし。


 子分が邪魔だ。あたしはそれらの首を目がけて双短剣を振るう。シミターと短剣が交差した。カーンカーンと音がなり、火花が散った。


「ヒューイ! エアロウインド!」


「ガルアルンガ!」


「げははははっ! マジックドレイン」


 ザイラックが魔法を唱えた。風が起こったと思ったのに、風が止まった。しまった、マジックドレインは打ち消しの魔法である。


「ガウアウ!」


 ヒューイが勇敢に吠えた。山賊の子分に目がけて走って行く。突進である。


「ウォールシールド」とザイラック。


 山賊たちの前に薄いピンク色のバリアが現れる。



 ……くっ、さっきから無詠唱で魔法を発動させるなんて。



 ドンッ。


「がるあっ!」


 ヒューイはバリアにぶつかり、痛みに声を上げて頭を回した。


「ヒューイ、下がって!」


「お嬢ちゃん、そう怖い顔すんなって。後でいっぱい気持ち良いことしてやるからよぉ。げははははっ」


 笑いながら、左手では舌の切れた口を押さえている。


 あたしはどう攻めれば良いのか分からなかった。ウォールシールドを突破するには効果が切れるまで時間を待つしかないと思うけど。だけど、そんなの待ってはいられない!


 あたしはディアスの方をちらりと見た。彼はフレイムソードの魔法剣を使っており、剣の刀身が燃えていて、長くなっている。相手の攻撃を弾きながら後退していた。防戦一方である。ワーウルフの動きが速すぎる! ディアスも本気を出しているのか、必死に剣で防いでいる。激しい攻防。だけど、状況は劣勢だ。


 あたしはもう賭けるしか無かった。


「ヒューイおいで!」


「がう!?」


「お? 嬢ちゃん、今度は何をする気だ? 泣いてその場で三回回ってごめんなさいと言ったら、許してやらんこともないぞぉ?」


「ヒューイ、融合するわよ」


「が、がるあ?」


「あたしが、セフィさんと同じフュージョナーなら、お願い!」


 そしてあたしは記憶していたその呪文を、唱えた。


「古より来たりて力。新たなる未来の幕開けに希望。群衆よ、喝采を響かせたもう。遙かなる空、我に敵を打ち倒す剣を与えたまえ。フュージョン!」


「何だと!?」


 ザイラックが驚きの声を響かせていた。


 瞬間、あたしとヒューイの体がエメラルド色の光に包まれた。二つは溶け合うように一つになり、融合してその場に立ち上がる。顔は竜のように神々しく。双眸は右目が赤、左目が青だった。硬い皮膚には緑色の毛が生えそろっている。背中には生まれたての小さな翼。お尻には尻尾がある。身長二メートを超えるだろう。筋肉が盛り上がっており、手のひらの鋭い爪は大木の幹であっても簡単に引き裂けそうだ。同時に、体には爆発しそうなほどの魔力が溢れていた。


「ど、ドラゴニュートだと、くそう……」とザイラック。


 名前はドラゴニュートというようだ。今ならどんな魔法でも使えそうな気分である。ああ、すごく気分が良い。


 魔法使いではないあたしはもちろん様々な魔法の呪文を暗記していない。だけど、今なら無詠唱でも行使できそうだ! 魔法の名前だけなら、魔法書を読破したこともあるので様々知っている。


「エクスプロージョン」


 あたしが右手を掲げて唱えた。


「マジックドレイン!」


 ザイラックも唱える。魔力同士がぶつかり合い、空気がピシンッと割れるように鳴った。あたしの魔力の方が(まさ)った。相手の魔力をねじ伏せるように、エクスプロージョンが起動していく。


 山賊たちの頭上から炎のイカズチが一直線に降った。


「くそがあぁぁぁぁあああああ!」


 ザイラック横に飛んで炎を躱そうとした。しかし遅い。炎は地面にぶつかって爆発し、爆風がザイラックと山賊たち襲った。


「「ぐわあああぁぁぁぁあああああああああ!」」


 山賊たちは焼かれると共にその身が弾ける。たくさんの人間がその体を肉塊へと変えた。


 ザイラックは爆風で向こうへ吹き飛ばされていた。あたしは走って追いかける。ザイラックの体を見つけると、また右手を掲げて唱えた。


「エクス……」


「ま、待て! 話せば分かる。なあ! 話せば分かるからなあ! 俺たち同じ人間だよなあ! 話そう! 話して解決しよう! 魔法を唱えるのだけは待て!」


 命乞いである。ザイラックの目が血走っていた。


「さようなら。ザイラック。エクスプロージョン!」


 空から降る炎のイカズチがザイラックに直撃した。


「俺が! こんなところでえぇぇぇぇえええええええええええ!」


 爆発し、その体砕け散る。地面もろともザイラックは破裂して肉塊となった。



 ……はあ、はあ、やったわ。



 あたしは踵を返し、ディアスの元へと走った、すごい速さで移動することができた。自分の筋力が凄い。まるで風になった気分である。


 そこでは木々がいくつも焼け焦げていた。ディアスは一本の木を背にして、燃える剣を構えている。唇には血が伝っている。服の脇腹の部分が破れていて傷があった。殴られたのだろう。口から血を流しているところからして、内臓にダメージが出たのかもしれない。


 ディアスの前に立っていたワーウルフは、はっと目覚めたようにつぶやいた。


「は? 私は何をして?」


 あたしはディアスに駆け寄った。


「ディアスさん!」


「お前、その姿は!?」


「イリアです! あたし、ヒューイと融合したの!」


「融合?」


「セフィさんの唱えた呪文を覚えていたんです」


「そうか! お前、ザイラックはどうした?」


「倒しました! 倒しました! 倒しましたよ! 倒しましたからね! ディアスさーん!」


「そうか。はあ、はぁ、良かったぜ……」


 セフィが唱えた。


「フュージョン、解除」


 ワーウルフがまた銀色の光に包まれる。そしてセフィとベルゼルの二体に戻った。それはもう攻撃をしないというセフィの意思表示でもあった。ザイラックを倒したことにより、セフィにかかっていたマインドコントロールの魔法が解けたのである。


 セフィはあたしたちに近づいて地面に膝をついた。


「すまない! 私は操られていたようだ。本当にすまないことをした!」


「いいって、あんた。それより、回復魔法が欲しいな」


 そこであたしは気づいた。右手をディアスの胸に当てる。


「ヒール」


 ディアスが緑色の光に包まれる。彼の傷と体力が回復していく。


「ナイスだ、イリア」


「えへへ、どういたしまして!」


「イリア、可愛いぞ」


「それは、えっと、まあ、何ていうか、あたし照れちゃいます」


 あたしは右手で頬をぽりぽりとかいた。


 何はともあれこうして、あたしたちは山賊のキャプテンを倒し、セフィを救うことができたのだった。それからあたしも融合を解除した。あたしとヒューイの二体に戻る。ヒューイは喜んであたしの足に抱きついた。


「がるあ♪ がるあ♪」


「ヒューイ! あたしちょっと、目眩がするの。すごく疲れた気分だわ……」


「がるぅ?」


 融合で莫大な力を得た反動だった。ふらふらとよろめきながら歩く。


「おい! 大丈夫か? イリア!」


「イリア?」


「がるあー!」


 あたしに緑色の光が降る。ヒューイがヒールをかけてくれた。おかげであたしは体力が回復した。しっかりとその場に立つ。


「ありがとう、ヒューイ」


 その頭に優しく手を置いた。


「がるあーう♪」


 それから、町へ帰ろうということになりみんなで歩き出した。セフィは何度も何度もあたしたちに謝罪の言葉を述べた。同様に助けてくれた感謝の言葉も。謝礼にお金を払うとさえ言った。ディアスとあたしは謹んで遠慮をしたのだけど、それでも彼女は後で払うつもりみたいだ。セフィは国の特務騎士ということで、どれくらいの謝礼をくれるのか、あたしはこっそりと気になった。


 空を見ると大きな月がほんのりと大地に明かりを照らしている。


 道中、セフィが話してくれた。町にはまだ山賊の協力者がいて、そいつはジルドというらしい。あたしの情報をザイラックに持って行ったのもその人のようだ。だけどジルドと言えば、確かディアスの相棒じゃなかったっけ?


「マジか……ジルド」


 ディアスは苦々しい顔をして小さくつぶやいた。まだ、事件の残り火はくすぶっているのかもしれない。あたしはジルドを許せない気持ちと同時に、ディアスに同情した。これから、ジルドとディアスの友好関係はどうなっちゃうんだろう? ディアスはジルドと次に会ったら、どんな話をするつもりなんだろう?




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