1-2 追放
帰宅すると、お父さんとお母さんはあたしを家に入れてくれなかった。やがて扉から顔を見せたお母さんは、大きなリュックを両手に持っていたんだ。それをあたしの背中に担がせる。
「イリア、しきたり通りすぐに村を出て行きなさい。森を抜けて町へ行くんだよ。これからは町で暮らすの。必要なものはリュックに入れておいたからね」
「お母さん、ありがとう」
「しきたりだから、村の外までは見送らないよ。さあ、行きなさい」
「うん。私、元気で頑張るから! お母さんもお父さんも、お達者で!」
「ああ!」
そう言ってお母さんは扉を閉めた。
あたしの後ろにはマジカルドラゴンがいた。前足で顔を一生懸命洗っている。その姿は可愛いのだけれど、今はふてぶてしく映った。あたしはドラゴンの名前を呼ぶ。
「ヒューイ。行くよ」
それは、私が孵化したモンスターに付けようと思っていた名前であった。
「がるあ?」
ヒューイは自分の名前のことを分かっているのかいないのか、疑問形で鳴いた。
あたしは村の出口へと歩き出す。かなりリュックが重い。その後ろからヒューイが着いてきた。
村道を歩いている途中、やはり村人とすれ違った。あたしに同情の視線を投げかけている。人によっては「あんたは早く出て行け! 災厄が来たらどうするの!?」とか「オッドアイの女なんて、そもそも縁起が悪いんだよ」などと叫んでくる人もいた。
……あたしだって、好きでドラゴンを孵化させたわけじゃないのに。このオッドアイだってそうだ。
だけどあたしは思ったんだよね。村を出て行くにしても、どうせ生きるのなら楽しく生きたい。そして、このドラゴンを大切に育てよう。とりあえず、生活するためにはお金が必要だ。私は剣が得意だから、冒険者をやるのが一番手っ取り早い。
村の出口にたどり着く。誰もいないだろうな。そう思ったんだけどね。村の友達たちが何人もいて、あたしを見送りに来ていた。
「イリア! 元気でね!」
「イリア、達者で暮らせよ!」
「イリア、風邪引かないようにね」
「そのドラゴン、きっと強いよ! 大丈夫!」
「「イリア!」」
紙吹雪まで降らせてくれている。
あたしは歩きながら、もう堪えることができなくってね。ぽろぽろ、ぽろぽろと涙をこぼした。泣きじゃくりながら、それでも後ろを振り返らない。前を向いたまま、あたしは言った。
「みんな、ありがとう」
それが精一杯の返礼の言葉だった。