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1-18 救援要請



 町の酒場で、ジルドとディアスは未だに飲んでいた。店に入ったからかれこれ10時間以上になる。ディアスはほとんど酔い潰れたような格好でベロベロだった。彼がうわごとのようにつぶやく。


「だからさぁー、俺はイリアを育てなきゃいけないんだよぉ。いっぱしの冒険者になれるように、よぉ」


「そうか。それは大変だな」


「だろー? 大体、イリアを嫁に迎えるにしてもだぁ。俺は冒険者だから、仕事に着いてこれるような女房じゃないと、いけないんだよぉ! 分かるかぁ? この気持ち。なあジルド。お? お? 分かるかぁ?」


「まあ、分からんでもないが」


「だからさぁ、イリアとセックスをするのは、イリアがもっと育ってからにしようと思うわけよ。ぐへへへへ。イリアはもうしたいって言うかもしれねーけどさぁ、俺としては、俺が認めるほどに仕事ができて、イリアが強くなってからにしようと思うわけだぁ。それまでは、我慢させるわけだ。甘い飴をいま渡せば、調子に乗るかもしれないだろぉ?」


「まあ、なんとも言えんがな」


「そうだろそうだろぉ? だけどイリアの瞳が俺に言うんだよ。もうあたしの胸を揉んでくだちゃーいって、なぁ。あたしのデカ尻を、引っぱたいてくだちゃーいって。だけどいまそんな事をしたら、調子に乗って修行を怠るかもしれねーじゃねーか! 俺は揉みたいんだぜぇ? 引っぱたきたいんだぜぇ? だけど、だけど我慢しなきゃぁいけねーんだ! くそったれ、もう何度イメージトレーニングしたことか、分からん!」


「ははは、ディアス、かなり酔っ払っているな」


「酔っ払ってる? いやいや、酔っ払ってなんていねーよ。全部本当のことだ。俺の言っていることは真実だ! ジルドォ、お前なら、信じてくれるよなぁ?」


「まあ、なんとも言えんがな、はは」


「そうだろぉ、そうだろぉ?」


 酔っ払った男同士の会話なんて、大体こんなものである。


 ジルドはディアスにひどく同情していた。もう彼とイリアが一緒に仕事をできることはないだろうからだ。イリアは今頃山賊のアジトにさらわれて、運が悪ければレイプされている。ザイラックならやりかねない。ジルドは今更になって、イリアの件をザイラックに報告したことに後悔してきていた。ディアスが可哀想であった。


「まあ、女なんていくらでもいるけどな」


「馬鹿! おめー、イリアのあの顔をちゃんと見たかぁ? 地上に舞い降りたエンジェルだぜぇ。ったくよぉ、その上、ダイナマイトバディと来やがった。俺は心配だよ。イリアが悪い奴に捕まって、娼館に売られでもしないかってさぁ。あるいは、貴族連中に目をつけられて、囲われやしないか。くそっ、これはマジで心配だ! よってイリアは俺が守る!」


 ドンッ。


 ディアスがテーブルを右手で叩いた。かなり悪酔いしている。


「まあ、貴族が手を出してきたら、俺たち平民じゃあなんともできねーわな」


「違う! 貴族が手を出してきたら、俺が守るんだ。必殺、フレイムソード。これで一撃って訳よ! なはははははっ。イリアの胸と尻は俺のものだ! 俺のものなんだ。うっきゃーおー!」


 周りの客が迷惑そうに顔をしかめる。


「おいディアス、奇声を上げるな。恥ずかしい」


「うるせえぞジルド。こっちは酔っ払ってるんだよ。おい、ビール追加だ」


「もうその辺にしとけ、ディアス」


「うるせえ! ビール追加だ!」


 ドンッ!


 その音はディアスがテーブルを叩いた音では無かった。音は酒場の入り口からした。ジルドとディアスが驚いて顔を向けると、そこには緑色のウルフのようなドラゴンがいた。突っ込んできたようで、扉が壊れて半分はずれている。ジルドは思い出した。あれはイリアの連れていたビーストである。名前は確か、ヒューイと言ったか。


「がるあぁぁぁああああん!」


 ヒューイは吠えると、辺りをキョロキョロと見回した。店員や客たちは何事かと驚きに硬直している。ディアスが立ち上がった。酔っ払っているというのにしっかりとした足取りである。ヒューイに駆け寄っていく。そして冷静な声で聞いた。


「おいヒューイ、どうした? ご主人のイリアは一緒じゃないのか?」


「がるあーる! がるあがるあがるあーう!」


 ジルドは舌打ちした。イリアとヒューイは今、山賊のアジトに捕らえられているはずである。そのヒューイがここに来たということは、アジトで何か不手際が起こったということだ。くそ、大丈夫なのか?


 ディアスはまた聞いた。


「ヒューイお前、さては匂いで俺のことを探して来たな?」


「がるある!」


「なんだ? 助けが必要なのか?」


「がるあるるー!」


「ちくしょう。言葉は分かんねーけど、イリアが危ないんだな!?」


「がうがう!」


 ヒューイは乗れというふうに、自分の背中をディアスに向けた。ディアスはその背中の鞍にまたがり、ヒューイの首に抱きつくように乗った。そして一言叫ぶ。


「ジルド! 酒の代金は任せた!」


 そしてヒューイは走り出した。ディアスを乗せたまま店を出て、夜の道を走っていく。まるで台風のような二人である。


 酒場に静寂が訪れた。ジルドは顔をしかめてため息をつく。やばいことになった。せっかく機転を利かせて、ここでディアスを足止めしていたって言うのに。結局駆けつけることになってしまった。ディアスが駆けつけたところで、あのフュージョナーの女、セフィに勝てるとは思えないが。しかしイリアの逃走を助け、二人は生き延びてしまうかもしれない。イリアは自分の身に起きたことをディアスに話すだろう。そうなれば……。


 ジルドとディアスの友情がここに砕けることになるかもしれなかった。それはこの町で冒険者をしていく上で、ジルドとしては避けたい出来事である。だけどもう、どうにもならなかった。




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