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1-13 露天風呂



 宿屋に荷物を置いた。とは言っても荷物なんてリュックぐらいしかあたしは持ってきていない。隣の部屋を借りたディアスに誘われて、あたしとヒューイは出かけることになった。なんでも、王都見物に連れて行ってくれるという話である。


 ディアスの発案であたしたちは展望台のある高台まで登ることにした。歩いている途中、あたしは彼に聞いた。


「ディアスさんはどうして、こんなにあたしに親切にしてくれるんですか?」


「ばっきゃろー、後輩の面倒を見るのは、先輩として当然だからだ」


 その顔がちょっと赤い。


「それだけの理由なんですか?」


「当然だろ」


「ふーん、ありがとうございます」


「ああ、これからも困ったことがあったら、何でも相談してくれ」


「がるるん」


 後ろから着いてくるヒューイが少し寂しそうな声で鳴いた。あたしは立ち止まり、ドラゴンの首をよしよしと撫でる。すぐに機嫌を良くしたようで、あたしの手をベロベロと舐めてくれた。


 顔を上げると、ディアスも立ち止まっていた。


「その、ヒューイは、いま何才なんだ?」


「まだ0才です。一週間前に生まれたばかりなので」


「一週間前!?」


「はい」


「お前はどこの出身なんだ?」


「フェルメル村です」


 また並んで歩き出す。それからあたしは自分の身の上を語って聞かせた。孵化授与式でドラゴンを引いてしまったこと。ドラゴンを引いた者に対するフェルメル村のしきたり。村を追放されたので、仕方無く冒険者をやって食べることにしたこと。他にも、村の剣道場であたしは一番強かったことなどを話した。


「ふーん、戦歌(いくさうた)なんてあるのか。一度聞いてみたいな」


「今度歌ってあげましょうか?」


「おう、いま歌ってくれ」


「それはちょっと恥ずかしいので遠慮します」


「イリアは恥ずかしがり屋だなー」


 やがて展望台に到着した。そこからは王城や街の景色が一望できた。


「わー、綺麗」


 城は池に囲まれていた。入り口には橋があり、上げたり下ろしたりできるようになっているようだ。戦争に備えた作りになっていた。


 池にはたくさんの鳥がやってきており浮かんでいた。どれも小さくって可愛い。


「がるるーん♪」


 ヒューイも隣に来て、木の柵から眼下の光景を眺める。


「ヒューイ、綺麗ね」


「がうがうがう♪」


 こんな絶景を見ていると、自分の境遇のことを忘れそうになる。もう帰る場所なんてないこと。この世界でヒューイと二人きりであること。収入が赤字なこと。だけどここからの眺めは綺麗だ。


「どうだ。良い場所だろう」


「はい!」


 あたしとヒューイはしばらくぼーっと見つめていた。ディアスは後ろの木のベンチに腰掛けている。ポケットからキャンディを取り出して口に含んでいた。あたしは池を指さして言った。


「ほら、ヒューイ。小舟に乗っている人もいるよ」


「がうるー♪」


「すごいね。あたしたちも乗りたいね」


「がうあう♪」


 街を歩く人々が粒のように見えた。あたしは人々を観察し、どこへ行くのか目で追った。人々には様々な目的があり、どこかへと向かって歩いている。人それぞれに理由があり、人それぞれにゴールがあって、誰かが待っていてくれる。それはあたしにも言えたことなのかもしれなかった。それから小一時間も経っただろうか? 日が傾いてきていた。ディアスが言った。


「おーい、お前ら。そろそろ、食事をしに行かないか?」


「あ、そうですね!」


「がうがう」


 あたしたちは展望台を出た。来る時には気づかなかったのだが、すぐ左手に看板が出ていた。ルティオル露天風呂温泉はこっち、と書かれてある。ディアスが笑い声を上げて指さした。


「行ってみるか?」


「いいですね、いきましょう」


「がうあう♪」


 あたしたちは食堂に行く前に温泉に入ることになった。少し道を歩いて、見えてきたその木造の建物に入っていく。店員に入場料とタオルの貸し出し代金を払った。聞くと、どうやらビーストも一緒に入って良いようだ。さすがビーストの国である。ただし、湯船に入る際は、ビーストの体を洗ってからにするようにと念を押された。二人と一頭で脱衣場へ行く。そこであたしはしまったと思った。


「あ、あの、ディアスさん!」


「ん? なんだ?」


「こ、こ、ここ、こここ混浴なんですか!?」


「ああ、混浴だけど、それがどうかしたか?」


 ディアスは恥ずかしげも無く、剣を置き、ジャケットとシャツ、パンツを脱いで、裸になった。脱いだ物をロッカーに入れる。お尻や大事な部分が丸見えである。どこかユーモラスその光景に、あたしは口をぽかーんと開けて硬直した。顔は真っ赤だったことだろう。


「じゃあ、先に入るぜ」


 ガラガラと引き戸を開いて、ディアスは行ってしまった。あたしは泣きたい気持ちになった。しかしそこで思い直す。旅の恥はかき捨てである。だったら、少し大胆な気持ちになったって良い。


 服と下着を脱ぐ。それらをロッカーに入れて、バスタオルを体に巻いた。引き戸を開けて、ヒューイと一緒に温泉へと足を踏み出す。湯船の近くでディアス床に腰掛けて体を洗っていた。他にお客さんはいないようだ。あたしはディアスの隣に行き、風呂桶でお湯をすくった。


「なんだ、イリア。バスタオルなんか体に巻いて。さては恥ずかしいのか?」


「そりゃ恥ずかしいです……」


「恥ずかしがりだなー、冒険者ってのは、裸の付き合いも重要なんだぜ? 裸を隠していると、他人に笑われるぞ?」


「て、手加減してください……」


 あたしはヒューイの体にお湯をかけた。


「がるあるぅ♪」


 気持ちよさそうにヒューイが鳴き声をあげる。それから小さなタオルを石鹸で泡立てた。両手に泡を持って、ヒューイの緑色の毛の生えた体をもしゃもしゃと洗っていく。ヒューイはオスである。きちんとお尻まで洗ってあげた。お湯をかけて泡を洗い流す。その間にもディアスは体と髪を洗い終えたのか、湯船に入っていく。


「あー、気持ち良いぜー」


「ほら、ヒューイ。湯船に入っていいわよ」


「がるあーん♪」


 ヒューイが湯船に勢いよく入っていく。ザブンと水しぶきが立った。ディアスが迷惑そうに右手で顔をガードしていた。次はあたしの体を洗う番だ。


「あの、ディアスさん、こっち見ないでくださいね」


「何言ってんだお前、さては男に免疫ないな!」


「ありません。だから、あっちを見ていてください」


「ちっ。たく分かったよ。ガン見しててやるからな!」


 ディアスが風呂の端に両手をついて、手に顎を載せる。あたしの裸を見る気満々である。


「本当にやめて欲しいんですが」


「お前、俺に短剣でかかってきた時の勢いはどうしたんだ? まさか、戦うよりも裸を見られるのが怖いのか?」


「怖いですから」


「じゃあ俺が鍛えてやる。誰に裸を見られても恥ずかしがらないようにな! ほら、バスタオルをはずせ!」


「本気ですか!?」


「本気も本気だよ。戦争が起こったら風呂なんて入れないかもしれないんだぞ?」


「戦争は起こっていません」


「いいから脱げって。別に取って食ったりしねーよ」


「あ、あの……」


「何だ?」


「笑いませんか?」


「何を笑うって?」


「だから、あたしの裸を見て」


「笑うわけねーだろう、あはははっ」


「笑ってるじゃないですか!」


「今のは違う笑いだ」


「がうるーん♪」


 少し離れたところではヒューイが気持ちよさそうに泳いでいる。あたしはため息をついて覚悟を決めた。確かにディアスの言うとおりである。裸を見られることぐらいで恥ずかしがっていれば、馬車での移動中にトイレもできない。それでは冒険者の仕事をする上で困ると思った。


 ハラリ。


 バスタオルをはずす。自信の無い裸体が露わになった。ディアスはしげしげと眺めて、それから感想を言った。


「お! イリア、中々どうして、色っぽい体をしているじゃねかーか!」


「何も言わなくていいです」


 それからあたしは自分の体を洗った。タオルで体をごしごしとこする。髪も洗った。その時に気づいたのだが、ブロンドの髪が少し伸びてきていた。


「イリアお前、綺麗な髪だなー」


「そうですか?」


 恥ずかしくって、体が火照って仕方無い。


「お前、俺の嫁さんに来ねえか?」


「あはっ、あたしを嫁にもらってくれるんですか?」


 あたしは洗い終えた後、何度も体にお湯をかけて、それから湯船に入った。丁度良い湯加減である。あたしはディアスの隣に腰掛けた。


「あー、気持ち良いな。まるで天に昇る気分だ」


「もう天に召されるんですか?」


「馬鹿違う、それぐらい気持ち良いってことだよ」


「確かに、気持ち良いですね」


 それからあたしたちはゆっくりと温泉に浸かったのだった。


 夕食はディアスの知っているお店で摂ることにした。王都名物の海鮮料理が出てきて、大きなエビやカニがとても美味しかった。あたしたちはどうしてかテンションが上がっていて、頻繁に会話を交えた。


 宿屋に帰宅し、自室であたしはぐっすりと眠りについた。




今日も二つ投稿します。一時間後です。

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