1-11 先輩
翌日の朝、冒険者ギルドへ行くと、玄関前の壁にディアスが背中を預けていた。昨日とは違い、黒のレザージャケットを着ている。腰には帯剣もしていた。あたしたちに気づくと右手を上げる。
「イリア、おっはよーう!」
「ディアスさん、どうしたんですか?」
「ガウアルゥ!」
ヒューイが怒ったような声で鳴いた。だけど突進していかないところを見ると、昨日よりも警戒が解けていた。ディアスが壁から背中を離す。そして近づいてきた。
「イリア、これから仕事か?」
「はい。そうですが、ディアスさんは?」
「俺もこれから仕事なんだ。はは、良かったら、一緒に仕事をしない?」
「あたしDランクですけど」
ディアスはもっと高いだろうと思った。仕事の回数をこなせば冒険者ランクは上がるというランディの話である。実際その通りだったようで、
「俺はCランクだ。DランクとCランクの冒険者が一緒に仕事をやるのなら、ランディさんはCランクの仕事を請けさせてくれるはずだ。イリア、一緒にCランクの仕事をやろう」
「良いんですか? 報酬が半分になりますけど」
「いいっていいって」
「まあ、それなら良いですけど」とあたしは小さい声でつぶやく。
「よおっしゃあああああ! それじゃあ中に入ろうぜー!」
……やっぱり面白い人だ。
「ぐるるぅ」ヒューイが鼻にしわを寄せて鳴いた。
あたしたちはディアスを先頭にしてギルドの中へと入っていった。朝だからだろうか、食事をしたり樽ジョッキをあおったりしているような人々はいない。三人で一直線にカウンターを目指す。
事務作業をしているランディに、ディアスが話しかけた。
「おはよう、おっちゃん。仕事をくれないか?」
「ディアスか! おはよう。今日は相棒のジルドはどうした?」
「あいつは今、町を離れているんだ」
「そうか。実はなあ、お前さんに頼みたい依頼が来ているんだ。請けてくれるか?」
そう言ってランディは木製のクリップボードに挟まれている紙を抜き取り、カウンターに差し出した。
「ランディさん、今日は後ろにいるイリアも一緒に仕事をするからな」
「ん? イリア嬢ちゃんも一緒に仕事? おいおいディアス。お前こんな年端もいかない娘に手を出したのかよ」
「ち、ちげーって!」
あたしは前に出た。
「違うの?」
「い、いや、違うわけじゃねーけど。まあなんだ、その、ランディさん。イリアはめちゃくちゃ強いんだ。だから一緒に仕事をやるって、そういうわけさ」
「ふーん……」
ランディは意味ありげに鼻をならして数回頷いた。ディアスとあたしの顔を見比べる。
「まあいいや。とりあえず、依頼用紙に目を通してくれるか?」
「おう!」
「はい」
依頼 クラノヘイム領から王都ルティオルの道中に出現するオウルベアーの討伐。
理由 春になり、冬眠から目覚めたオウルベアーが餌を求めて行商人などの荷馬車を襲う被害が出ているため。
報酬 オウルベアー一頭につき、金貨三枚。
期限 三日間
注意事項 オウルベアーは体格が大きく、凶暴である。討伐後は、オウルベアーの目玉を採取し持ってくること。目玉の納品報酬については別途で支払う。
あたしは悩んだ。オウルベアーの狩猟をする際、あたしは良いのだがヒューイにはまだ危ないと思った。オウルベアーに殴られて大けがをするかもしれない。しかしディアスは乗り気なようで、
「OKおっちゃん。オウルベアーは何頭いるんだい?」
「分からん。今のところ二頭が確認されているが、森にはもっといるだろうな」
「ふーん。イリア、お前も良いか?」
「あたしはやりません。ヒューイに戦わせるには、まだ危険なので」
そこでディアスは悩んだように右手を顎につけた。そして言った。
「じゃあイリアとヒューイは今回、先輩の仕事の見学ってことで着いてきな」
「い、いいんですか?」
……というかディアスさんはそんなに強いんですか?
そんな疑問が浮かんだが、ディアスはすでに用紙にサインをしている。あたしは気になって聞いた。
「あ、あの、あたしの報酬はあるんですか?」
「おう! 半分分けてやるぜ」
「いいんですか? そんな大盤振る舞いをして」
「良いってことよ。イリア、冒険者ってのはさ、こういうふうに先輩に教えてもらって成長していくんだ」
ランディも頷いた。
「嬢ちゃん、良い冒険者の先輩がいて良かったな」
あたしは小刻みに顎を引く。なるほど、これから今日あたしは先輩に仕事を教えてもらえるようだ。それはそれで嬉しかったし、報酬ももらえるならありがたいことこの上ない。
それから、ディアスはランディにオウルベアーの出現位置の詳細を聞いた。以前、荷馬車が襲われた地点を地図にマークしてもらう。
そして、あたしたちはギルドの建物を出て出発したのだった。
今日も二つ投稿します。一時間後です。




