王様は卒業したい。
「おーい、そこの娘! 助けとくれぃ!」
ソシャゲ【キングズ・エスケープ】。焼きたてのモチみたいなお腹をした王様が現れて毎度ピンチに陥る広告が流れる。
罠や敵に囲まれ、「助けて!」と叫びながらプレイヤーに助けを求める。デモプレイヤーが下手すぎて苛つく広告の代表だ。
その広告のぽちゃキングが音声つきで手を振ってきた。
「やっと気づいてくれたか!」
スマホの画面ごしにぽちゃキングが話しかけてきた。
「最近の広告はこっちに話しかけるテイなの? うざ」
スキップボタンを連打するが反応しない。壊れてるよこれ。
「飛ばすでない! お前に訴えかけとるんじゃ! もうこれ以上広告に出たくない! わしゃこんな仕事嫌じゃ!」
ぽちゃキングは涙目でアタシに訴えかける。
『広告に出るたびに、わしは崖から落ちたり、大蛇に食われたり、命がいくつあっても足りん。もう卒業したいんじゃ』
「それって演出でしょ?」
「本当に痛いんだぞ! しかもお主ら視聴者はデモが失敗するたびに『下手くそ』とか『こんなの簡単だろ』って言うんだ! わしは命がけなのに!」
広告収入がゲーム開発会社の主要収入源だから王様はどうしても酷い目に遭う。
「こいつ下手くそだな俺のほうがうまくプレイできるぜ」と思わせるために。
「やならブッチすれば?」
「ぶっちとはなんじゃ?」
「えーとぉ、ストライキ? さぼる?」
「王がそんな無責任なことできるわけ……」
「アタシだって今ガッコぶっちしてカフェでタピってるしぃ。王様、わざわざシバかれる役やらんでも、他にも仕事引く手あまたでしょ」
飲みかけのタピオカドリンクを画面向こうのぽちゃキングに見せる。
「……それもそうじゃな。ありがとう、決心できたよ。わしは広告のヤラレ役を卒業する!」
なんと納得した。
次の日から【キングズ・エスケープ】の広告にぽちゃキングがでてこなくなった。
かわりに広告内に謝罪文と土下座のイラストが流れる。
『会社からのお知らせ:王様、帰ってきてください。もう命に関わるような危険なことさせませんから』
よくわからんけど、ぽちゃキングは無事ブラック仕事から逃げられたらしい。
いいことしたね、アタシ!
そして、これ以降もう二度とゲームの広告に「助けて!」と叫ぶぽちゃキングの姿が映ることはなかった。