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VS.メイルストロム その1

 対メイルストロム、アーデン達はカイトのセリーナ号に乗り込んで海の上にいた。波は穏やかで天候も良好、条件は悪くなかった。


「全員覚悟と準備はいいか?」


 カイトは全員を見渡してそう問いかけた。全員武器を手に取り頷く、意志を確認するとカイトは操舵輪を握る力を強めた。


「じゃあ行くか。とても正気の沙汰とは思えない作戦だけど、お前らとなら成功するってどうしてか信じられるぜ」

「そういうのいいから。任せたわよカイト」

「カイトさん、最後まで気合入れてくださいよ?」

「信頼が厚いようで嬉しいねえ。なあアー坊?」

「あはは…、ノ、ノーコメント」


 締まらないなとアーデンは思うも、それはそれで自分たちらしいと表情が緩んだ。死地に向かうとは思えない笑顔を浮かべ、アーデンはファンタジアロッドを構えた。


「さあ!行ってみようかっ!」


 アーデンの掛け声で船は進み始める。どんどんとメイルストロムへと近づいていった。




 メイルストロム戦でレイアが提案してきた作戦は単純でとんでもないものだった。


「セリーナ号の船首にこれを取り付けるわ」


 レイアが発明して用意してきたのは衝角だった。船ごと体当たりする為の武器、鋭く尖った切っ先には釣り針のような返しがついている。


「おい、まさかだよな?」


 カイトは額に冷や汗を浮かべた。


「カイトはなんとか水流を使って勢いに乗って、そして中心に向かって突っ込んでいくの。当たるか当たらないかなんて気にする必要ない」

「何で?そんな簡単に当たるもん?」


 アーデンがそう聞くとカイトが分かったという風に手を打った。


「成る程、水流の中心に必ずメイルストロムがいるのか」

「そういう事、狙うとか狙わないとかじゃない。兎に角水流の真ん中に突っ込んでいくだけでいいの。そうすればメイルストロムに絶対に当たる」

「ああそうか。位置の特定とか気にする必要ないのか」


 水流を操る力はメイルストロムを中心として行使される。それは水流の乱れている中心にメイルストロムがいるという事を示している。


「無茶苦茶言うなお嬢、確かに理屈はそうかもしれんが、渦に船が巻き込まれれば大破して飲み込まれるぞ」

「絶対に大丈夫とは言えないけど、考えなしに言っている訳じゃあないの。ね、アーデン」

「え、俺?」


 話を振られたアーデンは少し考え込んだ後、思いついたようにパッと表情を明るくして顔を上げた。


「そっかそっか!分かったぞ!」

「何だよアー坊」

「メイルストロムの水流操作についてだよ。力が上手く操れてないって話だっただろ?俺は調査に直接参加して見てきたから間違いなく言える、メイルストロムは一度に一定方向にしか水流を操れないんだ」


 メイルストロムは確かに水流を操る事が出来る、しかしそう複雑な操作は出来ないのをアーデンは見ていた。大きな渦潮を作ることが出来ても、流れは一定で乱れたものではない。


「それでも船に大きな負担がかかるのは間違いないけど、カイトは操船の経験値がある。潮流を読んで操舵すれば逆に勢いに乗れるかも」

「おいおい本気で言ってるのか?」

「本気も本気。あんたならやれるでしょ?」


 レイアの言葉にカイトは驚いた。その言葉には全幅の信頼が置かれていたからだった。面食らった表情をした後、カイトは笑って言った。


「了解お嬢。俺がなんとかしてやろうじゃあないの」

「任せたからね」




 メイルストロムは近づいてくる船の存在を感じ取った。身を捩り触手を振り上げると、体に埋め込まれた赤玉が光った。


「来なすったぞ!全員掴まってろよ!!」


 カイトは荒波の中必死になって舵を取る。渦の中に入った船はミシミシと音を立てている、それは悲鳴のようにも聞こえた。


 悲鳴を上げるセリーナ号を操りカイトは流れを捉える。決死の波乗りは、徐々にセリーナ号の速度を上げていた。


 水流に乗ったカイトは船が壊れてしまわないように注意を払いながら、少しずつだが渦の中心に向かっていた。


 メイルストロムへ船をぶつける機会を見計らう。しかしそれを黙って見ているような性格をメイルストロムはしていなかった。


 大きくて長い触手を伸ばして船に襲いかかる、それの迎撃に動いたのはレイアとアンジュの二人だった。


 レイアは特色の違う二丁拳銃を操り、伸びてくる触手の一箇所に攻撃を集中させた。連射が出来るブルーホークでダメージを蓄積させた後、一発の威力が大きいレッドイーグルでその場所を撃ち抜く。触手の先端を吹き飛ばされたメイルストロムはたまらず触手を引っ込める。


 アンジュはシーサーペント戦で編み出した新たな固有魔法を完成させていた。


『セット・炎弾』『雷弾』『氷弾』


 アンジュの背に発動直前の魔法が並ぶ、これが固有魔法一つ目の「セット」であり、これを一斉に発動し射出するのが「バースト」であった。


 多大な集中力を必要とする為、まだブーストとの併用は出来ない。やれたとしてもシーサーペント戦のように倒れてしまうとアンジュは分かっていた。


 今回はセットした魔法を使い分ける形で対処をしていた。元よりアンジュの魔法は通常発動されるものより威力が高い、属性を瞬時に使い分ける事が出来るだけでも十分に利があった。


 カイトが操船し、レイアとアンジュが触手の妨害で奮闘する中。アーデンはただ静かに見定めていた。目的の物はただ一つ、メイルストロムが取り込んだ宝玉であった。




「私達はメイルストロムの反撃を止めてみせる。だからアーデンは一番重要な役割に回って」

「重要な役割って?」

「決まってるでしょ。宝玉の回収よ」


 レイアの言葉にアーデンは異を唱えた。


「待ってくれ、メイルストロムの宝玉は体に埋め込まれてるんだろ?そう簡単に引きはがせるのか?」

「無理かもしれない」

「おいっ!」

「でもやるしかないわ。幸い宝玉は体の中ではなく表面から露出している。外部から引きはがせるなら試さない手はないでしょ?」


 そう言われたアーデンは考え込んだ。確かにそれが可能であるなら、根本的な問題が解決する。


 メイルストロムの水流を操る力は宝玉に依るものだ、それがなくなればメイルストロムはそう名付けられる前のクラーケンに戻る。それならば脅威度はガクッと下がる。


「私達の中でそれが出来そうなのは、ファンタジアロッドを持つアーデンだけよ。だからやって」

「だな。分かった任せろ」


 アーデンはレイアが差し出した拳を自分の拳にこつんと合わせた。




 渦の中心へ近づくにつれ、メイルストロムの全長が段々と明らかになってきた。大きな海の魔物は触手を海に打ち付け暴れまわっている。


 しかしその暴れる行為もどこか目的が定まっていないのをアーデンは感じ取っていた。苦しみにもだえていると表現する方が正しいと、ここまで肉薄してようやく分かった。


 目と目の間に位置する宝玉は、赤々とした光を煌々と輝かせていた。それはまるで血のようにも見える、アーデンは船に結ばれたロープにしっかりと掴まりながらそれを見定めていた。


「アー坊ッ!!」


 カイトがアーデンに声をかけた。それは船をぶつけるという合図だった。


「やってくれカイト!!」

「行くぞ皆ッ!!」


 操舵輪を操り船首をメイルストロムへ向けた。勢いに乗った船はそのままスピードを上げてメイルストロムへと突き進んでいく。


 触手の攻撃で妨害してくるのを、レイアとアンジュが必死に防ぐ。それでも防ぎきれない攻撃で、帆柱が真っ二つに折れた。


 しかしそれだけではもう船は止まらない。衝角がメイルストロムに深く突き刺さった。それと同時にアーデンは走り出した。狙うのは宝玉、ここまで導いてくれた仲間達の奮闘をつなぐ為、アーデンは躊躇せず船を飛び降りた。

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