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カイトの根回し

「お集まりいただきありがとうございます。冒険者ギルドでメイルストロム対策担当の責任者になりましたダグ・エルソンです」


 各所の偉い人や役人が集まる会議場の中、とても場違いな空気で俺は矢面に立たされていた。正確には三人の仲間が後ろにいるのだが、代表して俺が席についていた。


 どうしてこんな事になったのか、それはレイアが発明した物が関係していた。




「出来た。行くわよアーデン」


 そう言ってレイアは俺を無理やり引きずり出した。急のことで混乱したものの、眠っていないのか目がギンギンに見開かれていて興奮気味のレイアは有無を言わせない迫力があった。


 冒険者ギルドに向かうと言うので、その道すがら何をしにいくのか俺は聞いた。すると手に持っていた物を手渡して口早に答える。


「そのフライングモを改造したの。物を探知する機能を取っ払って、そのリソースを長時間の飛行に回した。これで遠くからメイルストロムに近づける。これを合計十個作った」

「十個も!?」

「ええ、本当に心苦しいけどある程度は使い捨てにするつもりよ。メイルストロムに限界まで近づけて能力の計測をする。多分攻撃されると思うけど、避けられるような性能はない。でもその代わり、集めた情報を魔石に記録してそれを他のフライングモに送る事が出来る。安全な場所に飛ばしたフライングモは確実に情報を受け取れるって訳」

「…捨て身の作戦って事だな」


 レイアはこくりと頷いた。前をどんどんと歩いているので表情は見えなかったが、きっと苦々しい表情をしていたと思う。


 作った物を「この子」や「あの子」など子と表現する事が多いレイア。発明品を使い捨てにするのは断腸の思いだろう。


 俺はレイアの前にずいっと出るとその手を掴んだ。そのまま無言で手を引き、彼女を引っ張って歩いた。覚悟を感じ取ったから、それを支えるのは仲間の役目だ。人混みをかき分け、俺はレイアの手を引いた。


「…と、このようにして遠くから能力の観察と情報収集を行う事が出来ます。ある程度自律して行動する事も出来ますし、魔法の素養がある人でしたら遠隔で簡単に操作する事も出来ます」

「成る程…、これは実に有用ですね」


 冒険者ギルドの職員ダグさんに取り次いでもらい、レイアは開発したフライングモの説明を行った。まったく口出しの余地のない俺は黙ってそれを見ているだけだった。


「運用方法については任せます。そういうのは私より組織立って動ける方が効率がいいと思いますので」

「そうですね。しかし操作方法等の助言等でレイア様がお近くに居られなければ困るかと」

「うっ、えっとそれは…」


 レイアがあからさまに狼狽えた。物だけ用意しておけばいいと思っていたのだろう、操作方法等も書いて記しておけば後は自由にやってくれると踏んでいたんじゃないかと思う。


 自分の基準で考えがちなレイア、それに加えて自分が大勢の中に混ざって関わろうという気がない。変な話だがそれが出来ないという自信が人見知り極まれるレイアにはあるのだ。


「すみません。ちょっといいですか?」


 助け舟を出すならここだ、俺は話の間に割って入った。


「レイアが簡単に操作出来るというなら、絶対簡単だと思います。でもそう簡単に信頼出来るとは思えませんので、俺が代わりにやります」

「アーデン様がですか?」

「レイア、確認するけど俺にも操作って出来るのか?」


 頷くレイアを見て俺もまた頷いた。


「大丈夫だそうです。運用方法についても書き記してもらうので、俺がレイアの代わりに相談役として参加させてもらえませんか?」


 これも適材適所だ。俺は粘り強くダグさんに交渉して、レイアの代わりにメイルストロム調査団に参加する事になった。




「こちらの準一級冒険者アーデン・シルバー様と、そのパーティの協力を得て今回メイルストロムについて多くの情報を手に入れる事が出来ました。まずは貢献に感謝を」


 ダグさんがお辞儀をするのに合わせて、他の人々もこちらに向けて会釈をした。俺も慌てて頭を下げた。


「メイルストロムが水流を操作出来るのは、自らを中心として約半径1kmで、メイルストロムに近づくにつれ水流の勢いが強くなります。逆にメイルストロムから遠ざかる程弱くなる、以前脅威的な能力ではありますが有効範囲が定まった事は大きな成果です」

「ああ、我々としても安全圏を確保出来る事はなによりだ。しかしそれだけ離れていると遠距離での有効な攻撃も限られる」

「砲撃を準備している隙を突かれ、メイルストロムが近づいてきて能力圏内に入っただけでも船は沈む。水流に巻き込まれれば砲撃どころではない」

「魔法使いを集めた部隊で、魔法の同時発動による魔法砲台も選択肢に入りますが。やはり距離が問題です。魔法が届いたとして威力は大分減衰してしまうので」


 各部署の役人達の議論が白熱してきた。当然俺に発言出来るような知識もなく、大人しく椅子の上で縮こまっていると、ある一言が飛び出てきた。


「やはりここは報告にあった放置からの弱体化を待つ戦法を取るのがいいのではないかね?」


 いつかはその発言が出ると思っていた。そして俺は咄嗟に手を上げてしまった。


「…何かね?シルバー殿?」


 刺すような視線が俺に集中して注がれる。緊張のあまり一瞬で喉が干上がったが、目の前に用意されたお茶を一気に飲み干すと俺は発言を始めた。


「弱体化を待つ耐久作戦には賛成出来ません。メイルストロムは今叩くべきだと考えます」

「理由は?」


 主たる理由はメイルストロムへの同情心なのだが、人命が犠牲になっている以上その事に言及するのは不謹慎だと思い避けた。


「このままメイルストロムを放置すれば、奴は更に暴れて海の平穏を乱すでしょう、メイルストロムの気性の荒さとずる賢さは脅威です。被害が増える前に討伐に出る必要があると思います」

「しかし君達が開発した。ええと、フラ、フライングモだったかな。それがあればメイルストロムの動向を監視するのは容易だ。安全圏からメイルストロムを監視し、能力の弱体化を待って行動を開始する方がリスクは少ないのではないかな?」

「既に多くの人的被害を出してしまった以上、我々は慎重に行動しなければならない。協力には感謝するが、ここから先は大人の話し合いだ。子供は黙っていなさい」


 キュッと自分の喉が鳴ったのが聞こえた。言い返したい事は沢山あるけれど言葉が出てこない。大人達から注がれる鋭い視線と冷めた雰囲気に飲み込まれてしまいそうだった。


 黙ってはいられないけれど言葉も出てこない。一体どうすればいいとギュッと目を閉じた時、背後から豪快に笑う声が上がった。


「ハッハッハ!お偉方、これは面白い事を言う。この期に及んでメイルストロムに尻込みとは、武に身を置く者の発言とは思えませんな」


 立ち上がったのはカイトだった。そのままつかつかと前に出る。


「ここで弱気になってどうしますか。メイルストロムが塞ぐ航路が使えなければ、シーアライドに入港する船はどんどん減りますよ。手前共サルベージャーのような小回りの効く船ならまだしも、大型船は確実にメイルストロムの影響を受けます。これはシーアライドの国益を大きく損なうのではありませんか?」

「うっ…、それは、だが…」

「だが?だが何ですか?遅かれ早かれメイルストロムの脅威とは対峙せにゃならんのです。確かに奴が能力に飲み込まれて弱体化するのは目に見えていますが、能力を掌握発揮しきれていない今が一番安全に早く叩ける最後のチャンスでもあるんです。ここで我々が日和るのは如何なものかと思います」

「君っ!無礼であろう!」

「ええ!無礼承知の上です。なぜならこちらにはこれがありますから」


 そう言うとカイトは懐から1枚の紙を取り出した。それを見て会議に出ていた人々がざわめいた。


「そ、それはまさか…」

「見たら分かるでしょう。オリガ女王からの王命ですよ。偽物とかではありませんよ、確認してもらって結構です。討伐隊の任務を私達に任せてくださいました。申し訳ありませんが、一番槍はいただきます」


 カイトは取り出した紙を机の上に置いた。大人たちは獲物に群がる狼のようにそこへ詰めかけ、押し合いながらそれを読むのだった。


 鼻歌混じりで戻ってきたカイトに俺は声をかけた。


「カイト、いつの間にあんなすごいものを?」

「アー坊と話した後ちょっとな。ま、討伐隊とは名ばかりで、実態は期待されていない威力偵察のようなもんさ。だけどこれで介入するお膳立ては整った。ぶちかましてやろうぜアー坊よ、俺達でメイルストロムをぶっ飛ばしてやらあ」


 あの呑気な笑顔と笑い声が、これほど頼もしく見えるとは思わなかった。俺はカイトの手を取ると、ギュッと力を込め握りしめ頷いた。

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