表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/225

方針決定

 俺とカイトはレイアとアンジュに合流した。案の定な姿をしていたレイアをアンジュから受け取って代わりに抱えると、そのまま宿屋へと戻る。


 部屋に戻ったレイアは、それからずっとこもりきりでフライングモに手を加えているようだ。集中しているから入ってくるなという雰囲気が、扉の向こうから漏れ出ている。


「おうアー坊、お嬢の様子はどうだい?」

「手出し無用」


 俺の部屋に集まったアンジュとカイトに一言で現状を伝えた。それを聞いてアンジュは苦笑いをした。


「ごめんなアンジュ、それとありがとう」

「いえ。アーデンさんからも任されてましたから」

「本当に助かったよ。アンジュに頼んでよかった」


 どこかで限界がくるだろうと踏んでいたが、話し合いを終えるまでとは頑張ったなと思った。今はその疲れを回復する為にも物作りに没頭中なのだろう。


「それでアンジー、俺達の聞いてきた話と合わせてどう思う?」

「概ねアーデンさんとカイトさんの意見と同じです。というより確信しました。メイルストロムは手に入れた力を持て余しています」

「やっぱりアンジュもそう思うか」


 俺が隣に座るとアンジュは頷いた。


「宝玉を見つけた事も偶然だったんでしょうね、作戦に嵌って完全に追い詰められたメイルストロムは、暗き海底に光る赤玉を見つけてしまった」

「ニンフの歌か」

「推測になってしまいますが、探せ海原という歌詞にもあるように、最後の赤い宝玉は海底遺跡の中ではなく外にあったのかもしれません」

「そっか、海底遺跡は海に沈んでいるけど、地に完全に埋まってる訳じゃないから外観が見えるのか」

「ですね。他の遺跡とは大きく異なる点で、冒険者にとって盲点となりやすいと思います。歌の中にちゃんとヒントがあったという事です」


 成る程と俺とカイトは頷いた。遺跡の中ではなく外に宝玉があったとすれば、ニンフの歌のヒントとも辻褄が合う。


 暗き海底に光る赤玉、遺跡の中からは絶対に見つからない。探せ海原、見つからないなら探す場所が違うのだと示している。もう一度成る程と頷いた。


「しかし今回はそれが最悪な方向へ転がっちゃったって事だな」

「…うーん、そうですね」

「あれ、違った?」

「あっ、いえ、違わないです。アーデンさんの言う通りなのですが…」


 アンジュはもう一度うーんと唸って考え込んでしまった。何だろうと俺が思っていると、カイトが声をかけてくる。


「アー坊、ちょっといいか?」

「ん?何?」

「いいから。ちょっと付き合えって」


 俺は何なんだと首を傾げながらもカイトの後に続いて部屋を出た。アンジュは何だか不安げな表情で俺達のことを見送った。




 カイトに連れられて人気のない通路へと来た。もういいだろうと俺はカイトに声をかける。


「カイト、どうかした?」

「アー坊はどうして冒険者になったんだ?」

「急に何だよ。今じゃなきゃ駄目か?」

「今答えてくれ」


 いつになく真剣な表情をするカイトに俺は答えた。


「伝説の地に行くんだ」

「だったら危険を冒してまで今すぐメイルストロムを倒す必要があるか?聞いた限りだと、あいつは宝玉の力を持て余している。身に余る力は必ず身を滅ぼす。奴に時間を与えればきっと弱る。アンジーが言いにくそうにしていたのはそれだ。自滅という選択肢が浮かんだんだろ」


 カイトはそう言い切った。それでようやくアンジュの様子に説明がついた。俺に言いにくくしていた理由も分かった。


「カイト、それは駄目だ。確かにメイルストロムは力を持て余しているし、アンジュやカイトの言う通りになるかもしれない。だけど今俺達が何もしなかったら、その間奴は暴れ続けて被害は大きくなる。何より…」

「何より、何だ?」

「話を聞いていて思った。きっとメイルストロムは手に入れてしまった宝玉の力に苦しんでる筈だ。なんとかしてあげなきゃ」


 俺の言葉にカイトは目を丸くして驚いた。


「沢山の人の命を奪ったんだぞ」

「魔物と人間の関係は常にそうだ」

「お前は魔物を助けるっていうのか?」

「生きる為に戦わなきゃならない相手でも、苦しませていい訳じゃあないだろ?戦う時はお互い命がけだけど、今のメイルストロムは違う。ただ苦しみにもがいているだけだ」


 戦えば血が流れる、魔物と戦う時相手の嫌がる事、弱点、急所、如何にダメージを与えるかを考えて俺は動く。だけどそれを楽しんだ事は一度もない。


「助けるとか助けないじゃない。俺は俺が誇れる自分でありたい。だから今、メイルストロムを放っておくって選択肢はありえない」

「…それがどれだけ危険な選択だとしてもか?」

「ああ、それが俺の冒険だ。それにさ、まだメイルストロムの本当の様子は分からないだろ?動こうと思ったのなら動かなきゃ」


 俺の答えを聞いてカイトはぼそりと小さく呟いた。


「…そうか、お前はそういう奴なんだな」

「うん。俺はこういう人間なんだ。合理的じゃないし、皆を危険にさらしてしまうかもしれない。だけど俺は、今ここでメイルストロムと立ち向かわない選択肢は選ばない」


 カイトはふっと表情を緩めると、柔和な笑顔を浮かべて言った。


「アー坊にはかなわんな。確かにメイルストロムを放置した場合のリスクもある。嫌な事聞いて悪かったな」

「いいよ。寧ろ損な役回りさせてごめんな。アンジュの代わりに言ってくれたんだろ?ありがとう」

「…アンジーが心配して待ってると思う。先に帰ってやってくれ、俺はちょっと寄る所に寄ってから帰るよ」

「そう?なら分かった。待ってるよ」


 俺はそう言って立ち去るカイトを見送ってから宿屋へと戻る事にした。




 部屋に戻るとアンジュが心配そうな表情で駆け寄ってきた。上目遣いで俺に聞いてくる。


「あ、あのう、アーデンさん…」

「大丈夫、カイトから聞いたよ。言い難かっただろ?放置って選択肢は」

「カイトさんは気がついていたんですね、悪いことをしてしまいました」

「そんな事ないさ、カイトならきっと気にするなって言うに決まってる」

「…そうかもしれませんね」


 不安そうなアンジュの表情が少し和らいだ。俺は改めてアンジュに向き直ると、気になっていた事を聞いた。


「それにしても、自滅の可能性は思いつかなかったよ。アンジュはどうして思いついたんだ?」

「一番の理由は私自身にあります。ほら、私も身に余る力のせいで魔法が暴走した事があるじゃないですか」

「うん」

「私はあの時テオドール教授のお陰で、正しい知識と技術を勉強する場と機会をいただけたので魔法として昇華する事が出来ました。しかしそうでなかった未来を考えると、恐らくいつか私は誤った力の使い方をしていたと思います」

「そういう事だったんだな。うん、納得した」


 アンジュは固有魔法のブーストを編み出した。しかし今まで初級魔法にしかこれを使っていない。中級、上級、どの魔法にも使えるのだが、扱いきれないのだ。


 勿論過去の出来事からの心の傷も理由の一つだが、身に余る力の制御の困難さは身を持って知っているのだろう。だからこそ、メイルストロムの弱点の一つに気がついた。


 ならカイトはどうしてこの事に気がついたんだろう。ふとそんな考えが頭をよぎった。でも、意外と察しがいい所があるから、自分の経験からというよりもアンジュの様子を見て気がついたのかもしれない。本人に聞ける機会があれば後で聞けばいいかと俺は思った。


「で、実際問題メイルストロムの弱体化はあり得る話なのか?」

「調査してみなければハッキリとは分かりませんが、十分ありえる話だと私は思います。ただやはり、自滅に至るまでどれだけ時間がかかるのかという問題はありますね」

「メイルストロムが宝玉の力を使いこなすって可能性は?」

「ないでしょう。今ここに攻め込んで来ていない事が証明かと」


 散々痛めつけられた暴れん坊が、今は大人しく海に留まっている。偶然でも新しく手に入れた力を使えば、シーアライドの国を沈める事も簡単に出来る。


 それをしないという事が証明になる。成る程なと思った。


「取り敢えず方針は決まった。俺達はメイルストロムの早期討伐を目指す。アンジュはそれでいい?」

「問題ありません。寧ろそれでこそと思います」

「ありがとう。レイアとカイトにも後で確認しなきゃな」


 それに王城にも報告しなければならないだろう、そっちはカイトに任せるとして、冒険者ギルドの方には俺達で行く必要がある。どのように話が進むにせよ、メイルストロムが宝玉を手にしている以上、関わらないという選択は出来ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ