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水底の青 その2

 細く頼りない水に沿ってカイトは落ちていく。飛び込んだ先に待つのは、滝壺とも呼べない浅い水たまり。


 しかし宝玉探しの頼りとしているニンフの歌には、落ちる滝壺という文言があった。現状、デ・クラ遺跡で見つける事が出来た滝と滝壺はこの最奥の部屋以外にない。


 穴から差す青い明かりが、段々と地面へと近づいていくのをカイトに見せる。アーデンが事前に確認した通り、水が落ちる先には浅い窪みしかない。


 それでもカイトは飛んだ。アーデン達を信じた。根拠は特になかった。ただ一緒に冒険をしていく内に、アーデン達を信用するに足りる人だと分かった。


 アーデンが慣れないながらも仲間の為にリーダーシップを取ろうとしているのも知っている。レイアがそれを支えようと知恵を振り絞っているのも知っている。アンジュが仲間の為に自分ができる事を探して見つけて実行しているのを知っている。


 彼らの事なら信じられる、カイトはそう思った。そして彼らの為に自分ができる事を考えた。人より頑丈な自分が体を張るのが一番だと思った。他の三人には出来ない事だと知っていた。


 いよいよ地面が近づいてきた。カイトは勢いよく小さな窪みへと落ちた。その瞬間、上でそれを見ていたアーデン達は穴から発せられた眩しい青い光りに目を眩ませた。


「な、何だっ!?」


 三人は咄嗟に腕で光を遮る、一瞬ではあったがカイトから目を離した。すぐに穴を覗き込む。


「カイトは無事!?」

「す、姿が見えません!」

「一体何が…」


 そして三人は変化に気がつく、カイトが落ちた先に人が飛び込んだ飛沫のようなものが見えた。それどころか、小さな水たまり程度しか無かった場所の窪みが大きく広がり、そこになみなみと水が張っていた。


 何が起きたのか把握出来ないでいると、ぶくぶくと泡立つ水面からカイトが顔を出した。そして掲げた手には青い宝玉が握られていた。


「見つけたっ!!見つけたぞ皆!!水底の青だ!!」


 カイトがぶんぶんと青い宝玉を握った手を振る、探し求めていた物が手に入った喜びと、カイトが無事だった事への安心から、三人も怒るより先に笑顔で手を振って応えた。




 アーデンはロッドを伸ばしてカイトを引き上げた。カイトが穴の縁を掴んで這い出ると、濡れた体が冷えてぶるっと振るえた。


「それで、一体何が起こったんだ?」

「ううん。それが俺にも突然の出来事でなあ。上手く説明出来るか分からんが…」


 カイトは首を傾げううんと唸りながら説明を始めた。


 穴の上にいた三人が光に目を眩ませていた時、カイトの体は水の中にあった。固い地面に落ちたかと思っていたカイトは、自分が水中にいる状況に焦りを覚える。


 着地と同時に水中へと落ちたのだが、その時は分からなかった。しかし混乱しながらも、カイトには水底に一際青く光る球体が目に入った。


 上に戻るよりも先にカイトは下へと潜った。もう一度この水中へと戻れる保証はない、ならばあの青く光る球体が何なのかを確認するのが先だと思った。


 思っているよりも水深が深く、突然の事に空気を十分に吸っておけなかったので息はギリギリだった。もがくように水底を目指し、必死になって青く光る球体へと手を伸ばした。


「と言う経緯でこの宝玉を手に入れたって訳よ!」


 自慢気に語るカイトをよそに、レイアとアンジュは話し合っていた。


「恐らく飛び降りる、落ちるという行為が仕掛けを発動させる仕組みになっていたのでしょう」

「やっぱり宝玉の在り処は、ニンフの歌の歌詞に擬えられてるようね。となると次は…」

「ちょちょ、ちょっと!お嬢もアンジーも酷いぜ!俺ぁ決死の覚悟で飛び込んだって言うのによ」


 話を先に進める二人にカイトは自分の勇敢な行為の結果を主張した。しかし二人の反応は冷ややかなものだった。


「はいはい。無事でよかったわね」

「自分で大丈夫だって言ったんじゃないですか」


 冷たくあしらわれがっくりと肩を落とすカイトに、アーデンがぽんと優しく肩を叩いて言った。


「勘弁してやってくれよ、二人共カイトの事を心配してたんだ。急に一人でぽんと飛び降りちゃったからさ。愛ゆえにだよ愛ゆえ」

「アー坊っ!」

「まあそのせいで怒らせてるんだけどね」

「アー坊…」


 アーデンから慰めと叱りを受けて、カイトはもう一度がっくりと肩を落とした。




 俺達はデ・クラ遺跡を出て船の上へと上がる。ン・ヲカ遺跡の時と同じく外はもうすっかり夜の帳が下りきっていた。そして今回は以前よりもっと長く遺跡に潜っていた為、時間も深夜を回っていた。


 雲のない月夜で真っ暗闇という程でもなかったが、それでも全然先は見えない。夜の海は暗闇の中に投げ出されたような不安な気分になる。


「カイト、これからどうする?シーアライドに戻るのか?」

「近くに船を停められる港もねえし、戻るしかねえな。疲れてるだろうがもう一仕事頼むぞ」

「分かった。よろしくな」

「了解、任せておけ」


 操舵をするカイトが一番神経を使うだろうが、疲れも見せずにいる。俺達に気を使ってなのかそれとも体力が無尽蔵なのか、どっちが理由だろうかと考えたがどちらもありそうだなと思った。


 夜の海相手にはあまりに頼りない明かりで船は進む、それでもカイトは迷いなく鼻歌交じりに舵を取っていた。


 俺はカイトから渡された二つめの宝玉を手にとって眺めた。青く美しく輝くそれは、サラマンドラの時の物とは違いお宝という印象が強い。


「何見てるの?」

「レイア。これだよこれ」

「宝玉?何かあった?」

「いや、サラマンドラの時とは趣が大分違うなって思ってた」

「成る程、確かにそうね」


 隣に立ったレイアに宝玉を手渡した。それを手に取ったレイアも、俺と同じ様にしげしげと宝玉を眺めた。


「それもアーティファクト何だよな?」

「間違いなくそうでしょうね、ただサラマンドラの時は特異な能力が目立ってたけど、こっちの宝玉にはそういった物はなさそうね」

「やっぱりレイアから見てもそう思う?」

「見た感じだけどね。三つ集めた時に何か起こるって可能性はあるかも」

「そっちの方が夢あっていいなあ」

「どうかしら、いきなりドカンと爆発ってこともあるかもよ?」


 俺がうへえと嫌な顔をすると、レイアは楽しそうにくすくすと笑った。


「何にせよ次で最後の一つね」

「歌の内容はどんなだっけ?」

「暗き海底に光る赤玉。です」


 そう語りながらすっと隣に並んだのはアンジュだった。途中から話を聞いていたらしい。


「これはどんな意味だろうな。他の歌詞と違ってヒントみたいなものがなくないか?」

「私も思いました。少し漠然としていますよね」

「普通に考えれば海底遺跡に赤い宝玉があるって事だろうけど、他二つに比べて簡単過ぎるわよね。私達より先に他の誰かが見つけててもおかしくないと思う」


 レイアの意見に俺もアンジュも頷いて同意した。ン・ヲカ遺跡もデ・クラ遺跡も、宝玉を見つけるまでの仕掛けで守られていたから人の目に触れる事がなかった筈だ。それだけ複雑なものだった。


「まあ今から色々考えても仕方ないか!なるようになる、俺達はいつも通り冒険を続けるだけだ」

「それもそうね。見つけた時に答えは分かるんだから」

「私もっと頑張ります!シーサーペント戦で掴みかけた新しい魔法も完璧なものにしたいです」


 俺達は三人で拳を突き合わせてから掛け声と共に空へと掲げた。そんな様子を見ていたカイトがぽろっと一言呟いた。


「お、俺もいるんだけどなぁ」

「勿論!カイトもほら、オーッ!」

「オーッ!」


 俺と一緒に拳を突き上げると、レイアとアンジュも小さくそれに応えた。二人共まだ少し怒っているのかむすっとした表情ではあるが、カイトは嬉しそうに声を上げて笑った。

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