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船の上の二人

 ニンフの手がかりである一つ目の白い宝玉を手に入れた俺達、すっかり回復したアンジュを交えて一室に集まり手記を開いた。




 ようアーデン、これを見てるならまた四竜の手がかりを見つけたって事だな。何匹目かは知らんがよく頑張ったな。うん、父さんは鼻が高いぞ。


 ニンフは特に大変だろう、遺跡はすっかり海の底だからまず行くまでが大変だ。でも、他では出来ない特別な体験って感じがして父さんは好きだ、潜るのは大変だけどな。


 おっと悪い、ついつい無駄な話を書いてしまうな。さっさと教えろって思ってるだろ?急くな急くなと言いたい所だが、要望に応えよう。


 ニンフは水を司るドラゴン、あまねく大海を力で統べる秘宝の護り神。荒ぶる激流によりすべてを洗い流す破壊の神なり。


 まあ怖い印象をもつかもしれんがニンフ自体はそんなに怖くないぞ、寧ろ一番話が通じる部類じゃないかな。


 一番強い力を持っているのも確かだけどな、その辺はニンフから直接聞くといい。父さんから聞くよりよほど勉強になるさ。


 宝玉を手に入れれば自ずと道は開かれる、頑張れよ。




 手記を読み終えるとレイアが言った。


「ニンフと破壊の神って、何だか結びつかないな。勝手なイメージだけど」

「俺も同じこと思った。伝承でも加護って呼ばれてるくらいだし、優しい感じのイメージだった」


 レイアと顔を見合わせてうんうんと頷き合っていると、アンジュが口を開いた。


「お二人の言いたい事も分かりますが、破壊の神とまではいかなくとも水が強い力を持っているのは確かですよ」

「そうなの?」

「激しい嵐や長く続く大雨に影響を受ける作物、川の増水による土石流などの水害、船を砕く荒波津波は時に都市一つ飲み込みます。海を支配し水を司るニンフが、何か大きな力を持つ事は間違いないかと」

「そう言われると確かにそうね。うーん、でもブラックさんが言う通りなら話が通じないって訳じゃなさそうだし、一体どんな存在なのかしら」

「それは…、分かりませんね」


 レイアとアンジュは同時に首を傾げる。確かにすごく気になるが、今は切り替えなきゃなと思いパンと手記を閉じた。


「どのみち宝玉を見つけてニンフに直接会うまでは何も分からないさ。兎に角今は次の宝玉を目指そう」


 俺の言葉に二人は頷いて応えた。次の遺跡はデ・クラ遺跡、すでに船でカイトが待っている。




 アーデン達一行はセリーナ号に乗り込んで海原を進む、操舵輪を握り船を操るカイトの傍らには、海図とコンパスを手にしカイトを補佐するレイアの姿があった。


「順調ね」

「ああ、快晴でいい船旅日和だ」

「アーデンはまた船酔いだけどね」

「はっはっは、まあアンジーが見てくれてるから大丈夫だろ」


 気分良く鼻歌を歌うカイトにレイアは聞いた。


「宝玉はどうなったの?」

「やっぱり城で預かる事になった。でも要請すればいつでも見て触っていいってさ、オリガ女王のお墨付きだから心配ねえよ」

「別に心配してない」

「そりゃ失礼しました」


 会話が途切れると波の音が大きくなる。大体二人になると、レイアとカイトの会話は必要最低限でいつも終わっていた。


 暫くは波の音だけが騒いでいた。レイアの短く的確な指示や、カイトの経験に裏打ちされたアドバイスのやり取りだけが偶に交わされる。それ以外は静かなものだった。


 そんな静寂を破ったのは意外にもレイアの方だった。


「あんた何か聞きたい事があるんじゃないの?」

「何だよ藪から棒に」


 それは本当に唐突だった。しかし唐突でもカイトはそれ程驚いた様子も見せずに海の向こう遠くを見つめている。


「聞いてもいいのか?」

「今なら全部答えてあげる」

「お嬢のスリーサイズもか?」

「それには弾丸で答えてあげる、あんたの眉間が風通しよくなっておすすめ」

「それは遠慮しておこうかな」


 また暫く会話がなくなる。レイアはその沈黙にも平気でいたが、カイトは少しそわそわとしていた。そして会話を切り出したのはカイトだった。


「これまでどんな冒険をしてきたんだ?」

「どんなって?」

「お嬢達の冒険の内容、教えてほしいんだよ」

「そうね、ええと…」


 レイアはアーデンと共に出発した冒険の数々を事細かに話し始めた。シェカドで起きた数々の事件、出会った人々や鼻持ちならないと思っているリュデル一行の存在、暗躍していたグリム・オーダーのザカリーがしていた悪行の数々についてを話した。


 石板とロゼッタを巡る戦いを、アーデンとリュデルの即興コンビが制した事。そしてそれからの冒険の指針となる四竜の存在を知った事を説明した。


「それから私達は、ロゼッタから貰った書簡を持ってサンデレ魔法大学校に行ったの、テオドール教授を尋ねてね。その時にアンジュと出会ったのよ」


 アンジュとの出会いと協力関係を結ぶに至るまでの話の流れに、サラマンドラの手がかりを求めて遺跡の探索を始めた話をした。


 レイアは最初こそぎこちなかったアンジュとの関係性が、冒険を経てどんどん改善されていった事は特に楽しそうに話した。ピンチも多かったけれど、多くの学びと成長を得たとレイアは語った。


「私、アンジュに会えてよかった。あの子と一緒に冒険をして、夢を語らって、心の底から仲間だって思える存在になったの。頑張りやさんだし、知識も豊富でいつも助けてもらってるわ」

「今のアンジーからは想像もつかない程ツンツンしてたんだな。あ、でも俺に対しては割りとツンツンしてるな」

「そう簡単に仲間になれると思わないでよね」


 それからサラマンドラの手がかりを追って、特殊なアーティファクトの存在と、それを見つけて辿っていく度にサラマンドラの居場所が判明していった事を話した。


 ヤ・レウ遺跡のサラマンドラの姿が描かれていた壁画、ユ・キノ遺跡でグラウンドタートルが尻尾の先に灯していた消えずの揺炎、カ・シチ遺跡では焼き殺した相手の遺灰をアッシュゾンビとして再生させる燐命の錫杖とそれを手に入れた遺跡漁りが起こした事件について。


 すべてを乗り越えた先でサラマンドラに出会い、その際に聞かされた事や与えられた物、そして伝説の地へ至る為の竜の印をアンジュが授けられた事を話した。


「で、シェカドのロゼッタが私達の為にまた手がかりを見つけてくれて、教えてくれたのがシーアライドのニンフの加護。それを求めて私達はヨンガイであんたに出会ったって訳」


 レイアは本当に最初から最後まで全部を事細かく話した。それは過剰なまでにすべてを話した。聞いたカイトがたじろぐ程だった。


「…どうして急にこんなに話す気になったんだ?」

「はあ?別に黙ってるつもりもなかったけど?あんたが聞かないから教えてあげただけ」

「俺ぁ別に…」

「聞きたかったんでしょ?」

「…」


 いつも饒舌なカイトはレイアの問いかけに答えず黙った。それを見て、レイアは視線を海図に戻して言った。


「まあ別に聞きたくなかったならそれでもいいわよ。私がただ話したかっただけって事にしてあげる。それよりほら、そろそろの筈よ」

「ああデ・クラ遺跡だ。お嬢、アー坊とアンジーを呼んできてくれ」

「分かった。錨の打ち込みは任せたわよ」


 レイアは船室にアーデン達を迎えにいった。一人になったカイトは立ち止まり、少しの間何もない水平線を目を細め眺めた。やがて船尾へと歩きだし、錨を打ち込んでアーデン達を待つのだった。

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