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再訪に強敵現る

 アーデン達一行はもう一度ン・ヲカ遺跡を訪れていた。海に潜るのは二回目、流石に体も心も準備が出来ていてスムーズに事が進んだ。


 濡れた服や体を乾かしてから装備を整える、全員の準備が出来てからアンジュは地図を頼りに渦巻きの出発点に立った。先頭にカイト、その後ろで指示を出すアンジュ、レイア、アーデンと並んで進む事となる。


 魔物との戦闘は必要最低に留めた。戦闘の際道を大きく外れてしまう事を懸念した。どれだけ正確に道を辿る必要があるのか未知数だったので、アンジュがそう提案したのだった。


 戦闘を避ける事、大いに活躍したのはカイトだった。兎に角前に突き進んでいく、出現する魔物を殴り飛ばし蹴り飛ばし進んでいく。討ち漏らした魔物は、離れていても攻撃が可能なアーデンとレイアが担当した。


 全滅をさせる必要はなく、数を減らせば力量差に大体の相手は逃げ出す。不意打ちのダメージにも怯む事がないカイトの頑丈さも、相手を気圧すのに役立った。


 地図を見て周りを確認しながらアンジュは指示を出して歩みを進めていく、構造が単純だからか、位置の把握は存外難しかった。しかしそこはアンジュの持ち前の頭脳でカバーしていった。


 一つ一つ丁寧に道を進んでいくと、ようやく渦巻きの終着点である小部屋へとたどり着いた。外観に変化はなく、本当に手順通り来れたのかと先頭を歩くカイトは一瞬不安を覚えた。


「大丈夫ですカイトさん、間違ってないです。きっと何かある筈です」

「ふっ、アンジーにそう言われちゃ日和ってる場合じゃあねえな。よし開けるぞ」


 カイトの言葉に全員頷いた。そして小部屋の扉が開かれる。


 外観の変化はまったくなかったが、中は大きく変化していた。小さく狭い小部屋だった筈が、広い大部屋へと変わっていて奥が見えないくらいになっていた。急激な変化に戸惑うも、推測が当たった事に対する期待感が全員の中で高まる。


 しかし、アーデンが最後に足を踏み入れた瞬間に、扉は勝手に閉まり壁と同化して消えてしまった。それだけでなく、全員が強大な敵の気配を感じ取っていた。


 部屋の奥からシュルシュルと何かが這う音が聞こえてくる、真っ白な体にチロチロと伸びる舌と怪しく光る金色の目、魔物シーサーペントがゆっくりとアーデン達に近づいてきた。




 とぐろ巻く海の大蛇はアーデン達を見下ろしていた。敵対心をむき出しにしており、アーデンはファンタジアロッドを抜いて構える。レイアとアンジュも、それぞれ武器を構えた。


 カイトは拳を構えると真っ先に飛び出した。他の三人と違ってそれしか出来ないからだった。前に出て敵を引き付ける、そうすれば後ろの仲間がなんとかしてくれる、そう考えていた。


「カイトッ!!」

「ッ!?」


 しかしその動きを制したのがアーデンだった。ロッドを伸ばしてカイトの腰に巻きつけると、力づくで引き寄せた。


 動き出した勢いもあってカイトの体はそこまで動かなかった。しかしアーデンに止められた直後、鼻先をかすめるくらいの近さにシーサーペントの尾が振り下ろされた。叩きつけられた地面にヒビが入って割れる、威力は察するに余り合った。


「すまんアー坊!助かった!」

「いや、それよりどうする。そう簡単には近づけないぞ」


 しなやかで鞭のようにしなる尾は、速さも破壊力も桁違いだった。殴りつけようにも不用意に近づけないカイト、そしてロッドを伸ばしただけでは有効打になりそうもないアーデンも近づく事が出来ない。


「なら私がッ!」


 レイアが左手に構えたブルーホークを連射する、魔力弾は連続で同じ場所に着弾するも、煙が少し上がった程度でダメージにならなかった。


 シーサーペントの体を覆う鱗は厚く、全身に鎧を纏っているも同じだった。ブルーホークの弾丸では出力不足と判断すると、レイアはすぐさまレッドイーグルでの高威力魔力弾へと切り替える。


 しかしレッドイーグルの弾丸もブルーホークと大差なく、シーサーペントの体にダメージを与えるに至らなかった。レイアは口や目、鼻の穴を狙って魔力弾を撃ち込むも、中々大きなダメージにはならない。


 威力不足。レイアはそれを痛感した。


『ブースト・氷弾!!』


 アンジュが詠唱を終えた魔法を放つ、固有魔法で威力と性能を底上げしたもの、まっすぐに氷の刃が飛んでいきシーサーペントの分厚い鱗と皮膚を貫いた。刺さった箇所から急激に凍りついていき、シーサーペントは痛みと苦しみに悶えた。


「効いた!…けどっ」


 シーサーペントは身を捻り、地面に擦り付けて刺さった氷を粉々に砕いた。アンジュの魔法は効果がある、しかし決定打には欠けていた。


 今自分がどうするべきか、アンジュは魔法の効き目を確認してからすぐに思考を切り替えた。この魔物を仕留める為に、自分の攻撃の有意性と必要性を自覚したからだった。


「皆さん、少し時間を稼いでください。私に考えがあります」


 アンジュは三人にそう言った。自信満々という訳ではなく、少しの不安の混じった声、しかしアーデンとレイアは即答した。


「任せろ!そんで任せた!」

「頼んだわよアンジュ。なんとかやってみるから」


 その返答を聞いてアンジュは、今度は安心と自信に満ちた声で答えた。


「任せてくださいっ!」


 そのやり取りを見て、少しだけ出遅れたカイトは拳を手のひらにパンと打ち付けた。


「アンジー!俺もお前に賭けるぜ!」

「怪我しないでくださいねカイトさん。運びにくそうだから」


 アンジュの言葉にアーデンとレイアが笑った。カイトは不満げに唇を尖らせたが、すぐにぷっと吹き出して共に笑みを浮かべた。




 方針の定まったアーデンとカイトは、敢えて二人で前に出た。巨体を用いた強力な攻撃がすぐさま飛んでくるが、二人を同時に狙う事は難しい。


 二人同時にまとめて押しつぶし事も出来るが、面の広い攻撃を行うと狙いが甘くなる。それに加え、アーデンとカイトは先程の経験を活かして機動力を上げていた。


「アー坊!!」


 カイトが掲げた腕目掛けてアーデンはロッドを伸ばして掴む、そのままカイトが腕を振り回すだけで、掴むものが殆どない遺跡の一室でもスイング移動のような機動力が得られた。


 細かく移動をして攻撃を積み重ねるアーデンに、機動力こそ劣るものの攻撃を受け止めて殴り返すカイト、咄嗟に考えた作戦ながら二人の連携はシーサーペントを翻弄していた。


 シーサーペントはちょこまかと動くアーデンから、まだ狙いをつけられるカイトへと攻撃対象を移す。口を大きく開いて勢いよく噛み付いてきた。


「待ってたぜ!お嬢!」

「顔気をつけなさいよ!」


 カイトが頭を少し避けると、その横をレイアがレッドイーグルで放った弾丸が通った。大口を開けたシーサーペントの口内へ弾丸が吸い込まれる、鱗に阻まれて攻撃が通らなかったレイアの炎の魔力を込めた弾丸が口内を焼いた。


 噛みつく攻撃が必ずくるとカイトとレイアはそのタイミングを待っていた。口を閉じる前にカイトは突っ込むと、牙を掴んで引き抜いた。そして引き抜いた牙をそのまま口内に突き刺して鼻先を蹴り飛ばす。


 顔にダメージが集中したシーサーペントは怯んで動きを止めた。首を引っ込めて体を奥へと戻した。それが身動きを大きく制限すると分かっていても蓄積したダメージがそうさせた。


 一方時間を稼いでくれと頼んだアンジュは、アーデン達が攻撃を積み重ねる間に魔法の詠唱を続けざまにしていた。基本的に一度発動した魔法はその場ですぐに行使される。炎弾であれば詠唱して発動すれば飛んでいくのを止めてはおけない。


 しかし一発ずつでは駄目だと分かっていたアンジュは、その場で新しく術式を組み直し、新しい詠唱を考え魔法に組み込んでいった。高度で緻密な作業と、集中し加速される思考、鼻からは血が垂れてきていたがアンジュはそれにも気が付かない程集中していた。


「発動と固定…威力の収束と安定化…一度に留めておける魔法の数とマナ消費量…」


 ぶつぶつと呟きと詠唱を止めないアンジュの背後に、氷弾が発射される前の状況で留まっていた。一個二個三個と数をどんどん増やしていき、六個目が生成された時アンジュはカッと目を見開いた。


「皆さん退いてくださいっ!!」


 アンジュの声を聞きすぐさま全員退避する、そして杖がシーサーペントへと向けられた。


『ブースト・氷弾六点バーストッ!!』


 背後で生成された氷の刃が一斉に放たれ、同時に着弾し炸裂する。そしてシーサーペントの体を貫き真っ二つに引き裂いた。二つに分かたれた体は、着弾地点からピキピキと音を立てて凍りついた。


 アンジュはぶはっと息を大きく吐き出した。鼻からはまだぼたぼたと血が流れていて、シーサーペントに勝利した後、ふっと意識が途切れて気を失った。


「おっと!危ねえ」


 倒れて地に落ちる前に、カイトが滑り込んでアンジュの体を抱きかかえた。勝利を掴んだ小さな体を支えるカイトは、優しく頭を撫でて鼻血で汚れた顔を拭いてやるのだった。

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