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ニンフの歌

 俺とレイアは、アンジュとカイトと別行動をしていた。今はレイアの部屋のベッドの上で寝転んで天井を見上げている。


「まさか通るとはなあ…」


 アンジュとカイトは、今王城の図書室にいた。ダメ元の要望が通り、人数制限に監視付きという条件の元蔵書の閲覧を許された。


 カイトは王城側から指名されていたので、俺達は三人の中から一人一緒に行く人を選ぶ事になった。せーので指差し選出をした所、俺とレイアがアンジュを指さして決まった。


「通ったんだからいいじゃない。それで何か分かるかは別だけど」

「そうだな。カイトは分からないけど、アンジュなら何か掴んでくる筈。期待して待ってよう」


 とは言うもののやることはあまりなく、結局俺はレイアの部屋でダラダラとしていた。一人でいると部屋が広すぎて落ち着かない、レイアは色々な資材を広げているから部屋がごちゃっとしているけど、逆にそっちの方が落ち着く。


 今もずっと何かを作っているのか手を動かしている。俺はごろっと転がってレイアの方を向いた。


「で、今度は何作ってるの?」

「何って言われると難しいかな。色々試してるとこだから」

「試すって何を?」

「これよ、これ」


 レイアが手のひらを広げると、そこにボッと炎が灯った。サラマンドラから与えられた消えずの揺炎、本物の炎でありながらアーティファクトでもある、何とも不可思議なものだ。


「これもアーティファクト何だよな?」

「どういうものなのか全く分からないけどね」

「レイアでもか?」

「手を尽くして調べてはいるけど、あまりに常識外過ぎるかな」


 流石のレイアでも消えずの揺炎には手こずっているようだった。扱いかねているというよりは、どう利用するべきなのかに困っている感じに見える。


「何かアイデアとかも無いの?」

「無い事もないけど…それが実現可能なのか…」

「珍しく弱気だな」

「うるさい」


 投げつけられたクッションを受け止める。俺はそれをレイアに投げ返して言った。


「大丈夫だよ」

「何がよ?」

「レイアなら絶対何かすごい物を作るよ。俺はそう信じてるし、ずっとその姿を見てきた。絶対何か思いつくよ」


 レイアは少し顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。でも俺は心の底からそう信じているし、レイアの力を誰よりも知っている自負がある。


「ふんっ、まあ見てなさい。アーデンがあっと驚くようなすごい物作って見せてあげる!」

「期待してるよ。あっ、名付けは任せてくれよな」

「それは絶対に嫌。私が名付ける」

「ケチ!」

「うるさいっ!」


 投げつけられたクッションを受け止めてふふんと鼻を鳴らすも、続けざまにもう一個投げられたクッションは顔面に直撃した。




 一方、アンジュとカイトは王城の図書室へ訪れていた。華美な装飾もさることながら、目が回るような数多くの蔵書にアンジュは圧倒されていた。


「凄いですね。サンデレ魔法大学校には流石に及びませんが、これだけの数を貯蔵しているとは」

「アンジーはそこの大学出身だよな?」

「はい。これだけの本を目の前にすると、やっぱりワクワクしてしまいますね」

「俺にはさっぱり分からないけど、アンジーがそう言うなら全部読ませてやりたいなあ」


 カイトの言葉に監視に付いた司書が咳払いをした。言葉にはしないが、閲覧出来る本は限られていると暗に伝えていた。


「お目付け役がうるさいからさっさと片付けちまうか」

「カイトさん、思っていても言葉に気をつけないと。そのうち本当に侮辱罪とかで捕まりますよ?」

「思ったことを思ったように言えないなんて、世知辛い世の中だねぇ」

「世の中のせいにしないでください。カイトさんは遠慮と配慮が足りないだけです」


 アンジュとカイトが喋っていると、司書がもう一度咳払いをした。さっさとしろと目が語っている。


「じゃ、アンジーよろしく」

「ですね、任されました」


 カイトは最初から自分の頭を頼りにしていなかった。文字も多く分厚い本を読めるだけの集中力はないと自負していたし、そもそも自分も監視役だと分かっていたからだ。


 王城側からカイトが指名されたのは、アーデン達一行よりはまだ面識があって信頼がおける相手だったからだ。国の重要な書物を見せるリスクを取るとなれば、仲間内からも監視の目が必要だとカイトが指名された。


 アンジュもそれが分かっていた。そして自分が仲間から期待されて指名されている事も自覚していた。両頬をぱんぱんと叩くと、気合を入れて本のページを開いた。




 コチコチと時計が鳴る音と、ページを捲る音だけが図書室に響いた。長い長い時間をかけてアンジュはページの隅から隅まで読んで調べる。その真剣な眼差しに口を挟める者はいなかった。


 そうそうに居眠りし、首をがくがくと上下させるカイト。監視役を任された司書はそうはいかず、ずっとその様を見守るしかなかった。しかしあまりに静かで動きのない状況に、徐々に司書も船を漕ぎ始める。


 窓から見える景色が暗くなり始めた頃、アンジュの大きな声が図書室に響いた。


「見つけたっ!!」


 ふがっと間抜けな声を上げるカイトと、必死に眠気と戦い続けた司書がその声でばっちりと目を覚ます。カイトは目をこすりながらアンジュに聞いた。


「アンジー、何を見つけたんだ?」

「ふふん、見つけましたよカイトさん。これがン・ヲカ遺跡の謎を解く鍵です」


 アンジュはページを開いてカイトにそれを見せるも、寝ぼけ眼のカイトに理解が出来る訳もなく、びっちりと書かれた文字の羅列に逆に気分が悪くなった。


「分かった分かった。判明したならそれでいいんだ」

「解説しなくていいんですか?」

「後で聞くよ。それより今は本を閉じてくれ」

「何故です?ほら、ここにある記述とか」

「ちょっ!本当に勘弁してくれ!」


 えずいて口を抑えるカイトの姿を見てアンジュは首を傾げる。監視についていた司書は、ようやく終わったかと深い溜息をついた。




 宿屋で待っていた俺達の元にアンジュとカイトが戻ってきた。何故かカイトは気分が悪そうで顔を青くしていて、アンジュは逆に肌をつやつやとさせて微笑んでいた。


 一体何があったのかと気になる所ではあったが、アンジュがぱっと近づいてきて俺に話しかけてきた。


「アーデンさん!分かりましたよ!ン・ヲカ遺跡の地図を見せてください」

「地図?」


 俺がレイアの方に視線を送ると、レイアが地図を取り出して渡してきた。それを受け取って机の上に広げると、アンジュが皆を手招きして引き寄せた。全員で上から地図を覗き込み、アンジュの説明を聞く。


「ン・ヲカ遺跡はそれ程広くなかったので、一日で大体回り切る事が出来ました。多少抜けはあるかもしれませんが、この地図は概ね正しいものだと思います」

「だな。構造も結構単純だったし」

「そうです。しかしそれだけに私達は怪しい所を見つける事が出来なかった。だけどそれこそがン・ヲカ遺跡の宝玉を隠す仕掛けだったんです」


 どういう事かとアンジュ以外の三人が首を傾げると、ペンを取り出してアンジュが地図に何かを書き込み始めた。


「ニンフと宝玉について書かれた本の中に、確かにオリガ女王が挙げた遺跡の名前が書かれてました。しかし話はそれだけではなく、一見すると無意味に思える記述もあったんです」

「無意味って何が?」

「歌の詩といいましょうか、よくある口伝の文言といいましょうか。兎に角一瞥しただけでは意味が分からないものです。ええと…」


 アンジュは見てきた文言を空で言い始めた。


 ニンフは歌うニンフは歌う、渦巻く白波泡立つ白玉、落ちる滝壺水底の青、暗き海底に光る赤玉、ニンフは歌うニンフは歌う、辿れ道々下れ大滝探せ海原。


「確かに歌詞みたいだな」

「それだけ聞くと意味はよく分からんな」

「ですね。しかしこれを宝玉の場所を示していると考えて、この地図を辿ってみると」


 書き込まれた地図には線が引かれていた。単純な通路をなぞっていくつかの扉をくぐっていくと、渦巻きの線が出来てその先端には小部屋があった。訪れた時に、何も無かったただの小部屋だ。


 しかしようやくアンジュの言いたい事が分かってきた。俺はそれを口に出す。


「もしかしてン・ヲカ遺跡は、この通りに歩くと自然とこの部屋に辿り着くようになってるのか?」

「恐らくそうです。そして歌の内容からその手順こそが大切だと推測できます」

「成る程、辿れ道々ね」

「ですです!」


 得意げに笑顔を浮かべるアンジュ、レイアが頭を撫でるとより嬉しそうに笑った。


「よし!アンジュが見つけてきてくれた手がかりを頼りに、ン・ヲカ遺跡再挑戦だ!」

「アー坊よ、俺もその場にいたんだが?」

「カイトさんはずっと寝てました」

「あんたよく手柄を主張する気になったわね、厚かましいって言葉知らない?」


 カイトに集まった顰蹙のせいで一度気が削がれたが、俺は気を取り直して拳を前に突き出した。三人もそれに合わせて拳を突き出してきて、全員で一緒にコンッと拳を合わせた。

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