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カイトの協力要請

 シーアライド国王がいる城は、国の中心にある王城だった。この城も海の上に建っている。長い一本橋を渡って行くと門衛に止められた。


「待て。身分に所属、登城の目的を明らかにせよ」


 当たり前だが物々しい雰囲気だ、カイトはずいっと前に出て話す。


「俺はカイト・ウォード。個人でサルベージャーをやってる者だ、国王オリガ様の依頼を受けて参上致した。後ろの三人は仕事の為に雇った冒険者、登録タグを確認してくれれば身分ははっきりする筈だ」


 門衛の一人が駆け寄ってくる。


「失礼、タグをお預かりしてもよろしいですか?」


 俺達三人は登録タグを手渡した。確認は簡単に済む、それほど待たずして門衛は俺達に登録タグを返してくれた。門衛は戻って報告をすると、その報告を受けたこの中で一番豪華な鎧を身に着けた門衛がカイトに歩み寄ってくる。


「お待たせ致しました。お話は伺っております。サルベージャーのカイトさま、そして冒険者のアーデン様、レイア様、アンジュ様。入城の許可が下りましたので私がご案内します」

「突然悪いね」

「いえ、事情は承知しておりましたし、オリガ様からいつ登城しても、本人と確認出来次第お通しするようにと命令を受けています。こちらへどうぞ」


 そうして俺達はシーアライド城の中へと入った。重厚で大きな門に、厳かで絢爛な装飾、外観からも立派な城な事が伺い知れて、場違い感に少し気後れしてしまった。




 俺達は一度応接室へと通された。城内を少し歩いたが、やはり豪華な城だと思った。


「オリガ様の謁見までこちらでお待ち下さい。お忙しい方ですので、少々お待たせしてしまうかも知れませんがご了承ください」

「いやいや、突然の登城にも対応してくれて感謝してるよ。オリガ様によろしく」

「では失礼します」


 ふかふかのソファに座ると、緊張がふっと解けて脱力した。しかし気になる事がいっぱいあって俺はガバッと身を乗り出した。


「カイトって国王様と面識があるの?」

「ん?まあ、そうだな。そう多くはないけど」

「しかもこんな突然来て突然会えるの?」

「まあ向こうから呼びつけてきた訳だし、便宜を図ってくれてるんじゃないか?」


 そんな特別待遇されるもんなのかなと、俺は母さんの事を思い出していた。政務官の母さんでさえ、面会するには色々なハードルがあると人から聞いた事があったのに。


「ねえ、オリガ様って言ってたけど、もしかしてシーアライド王って女王様なの?」

「そうそう、お嬢と負けないくらい美人な人だぞ」

「はいはいそりゃどうも。しかしシーアライドって女王様が治めていたのね、知らなかったな」

「私は国王様にお会いするのが初めてなので楽しみです!謁見中は流石に大人しくしてますけど」


 この会話をきっかけに、レイアとアンジュが楽しそうにお喋りを始めた。レイアもアンジュも肝が据わってるなあとそれを眺めていると、扉が開いて俺達は呼び出された。




 玉座の間にてオリガ女王と謁見する。入室する前に教わった通りの挨拶とお辞儀をした後、俺達は改めて向き直った。


 カイトの言う通り、オリガ女王は実に美しい方だった。クリーム色のロングヘアをセンター分けにしており、美しい顔立ちがはっきりと目立つ。頭のティアラや、手にしている王笏、そして身につけた宝飾品の数々に負けない存在感を放つ人だった。


「久しぶりだなカイト。今回は突然呼びつけてすまなかった。しかし応えてくれて感謝しているぞ」

「いえ、国王様直々のご依頼とあれば駆けつけない訳にはいきません。それに俺ぁ美人のお誘いを断る程野暮じゃあないんで」


 俺達はぎょっと目を丸くしてカイトを見た。王様相手にもそんな軽口を叩いて大丈夫なのかとヒヤッとした。しかしオリガ女王はくすっと笑うと言った。


「相変わらず口がうまいなお前は」

「お褒めに預かり恐悦至極」

「ふふっ、この馬鹿者に付き合っていると苦労も多いだろう?冒険者よ」


 突如話を振られて慌てる、ちらっとレイアを見ると、緊張からか口をぱくぱくとさせ限界そうで、アンジュは俺しかいないと無言の圧をかけてくる。腹をくくって俺は口を開いた。


「そ、そうでもないですよ。た、楽しくやってます」

「そうか?まあそれならよい。カイト、中々豪胆な仲間を見つけたじゃないか」

「ええ皆気のいい奴らですよ。そんな事よりオリガ様、ご依頼に関してのお話をお聞きしたいのですが」


 俺は心の中でほっと息を吐いた。カイトが上手く矛先を変えてくれて助かった。そしてここからが俺達の聞きたい事だ、気合を入れ直して俺はオリガ女王の話に耳を傾けた。


「ああそうだったな。実はここ最近、我が国の海路を塞ぐように海の魔物が多く出現する事態が多発している。原因について調査を行った所、一つの伝承に行き着いてな。それがニンフの加護と呼ばれるものだった」

「ふむ、してニンフの加護と魔物がどう関係しているので?」

「伝承を伝え聞く者曰く、海が魔物によって荒れる時、海底の遺跡に眠るニンフが目を覚まし、荒ぶる海を鎮めると言われているらしい。それがニンフの加護と呼ばれているそうだ」

「成る程。しかしオリガ様、シーアライド周辺の海底遺跡はサルベージャーによってあらかた調べつくされております。それでも俺ぁニンフなんて聞いた事もありませんがね、何ものなんですかそいつは」

「詳しくは分からん。しかし王室で保管されている文献の一つに、ニンフという名の竜の存在を示唆するものがあった。そしてニンフを呼び出す為に必要な三つの宝玉についても書かれていた」


 竜という単語と三つの宝玉、サラマンドラの時と状況が似ていると思った。アンジュに目配せをすると、同じことを思ったようで小さく頷いた。


 恐らくその三つの宝玉が、竜の手がかりである特殊なアーティファクトだろうと推測出来る。ニンフを呼び出す為に必要というのも、宝玉を辿っていけば自ずとニンフに出会う事が出来るという意味だろう。


「竜がどんな存在なのか、そもそも実在しているのか疑わしい所であるが。文献の調査によって宝玉があるとされる三箇所の遺跡の名前が上がった。ン・ヲカ遺跡、デ・クラ遺跡、そしてン・リニ遺跡の三箇所。お前なら場所と名前も知っているだろう?」

「無論です」

「竜という不確定要素に、眉唾ものである三つの宝玉、こんなに馬鹿げていて危険な仕事を任せられるサルベージャーは、私が知る限りお前しかいない。成否は問わず報酬は出す。私からお前に依頼するのは、伝説を追えという漠然としたものだ。どうだ、やってくれるか?」

「引き受けましょう。俺ぁそういう仕事が大好きです。あるかどうか分からない伝説なんて聞いた日には、探し求めて海に漕ぎ出さずにはいられませんよ」


 カイトはそう即答した。その返答を受けてオリガ女王は笑った。


「お前ならそう答えると思っていた。国の凶事だ、支援は惜しまんぞ。必要ならすぐに申し出るがいい」

「そりゃありがたいです」

「窓口役の人員を常に城に置いておく、調査の報告も受け付けているから事細かに頼むぞ。他に何かあるか?」

「そうですね、彼らに宿を用意してやってもらえませんか?俺ぁ自分の船があるからいいけど、生憎一等客室とはいかないので」


 えっと声を上げそうになるが慌てて飲み込んだ。そんな事頼んで貰わなくていいのに、でもここで断りを入れても不自然だから黙っているしかない。


「何だそんな事か、勿論用意させるぞ。本当にお前の部屋はいいのか?」

「俺ぁ海の子守唄を聞いて波に揺られてる時が一番よく眠れるんでさ。心配は御無用です」

「分かった。では諸々手配させよう、皆下がってよい。後で使いをやるから、よくよく話を聞いてくれ」


 オリガ女王はそれだけ言うと、玉座から腰を上げて去っていってしまった。お辞儀をして見送ると、俺達はもう一度応接室へと案内された。




 人がいなくなったのを見計らってから、俺はカイトに詰め寄った。


「カイト、流石にやり過ぎだって!」

「ん?何が?」

「何がじゃないよ!俺達情報を聞く為にここに来て、カイトに雇われた冒険者って設定だったろ?それが宿まで用意されちゃったらもう」

「あー悪い、ちょっと外堀を埋めさせてもらった。いや騙すとかそんなつもりじゃないんだ。だから今ここでちゃんと申し込まさせてくれ」


 カイトは俺の目の前にスッと手を差し出した。


「どういう訳か俺達の目的は一致してるみたいだ、どうだ?本格的に組んでニンフって奴を追ってみないか?俺ぁお前達と組みたいと本気で思ってるんだ」


 いつになく真剣な眼差しに真面目な雰囲気、カイトが本気であるという事は聞くまでもなかった。しかし、あれよこれよという間に話が進んでしまった状況に、俺は戸惑いを隠せないでいた。

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