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カ・シチ遺跡奪還戦 その3

 ロタールは錫杖を肩に担いで座った。そしてアーデン達に語りかけた。


「お前たちも座ったらどうだ?こっちから攻撃する気はねえからよ」

「…遠慮する。それよりお前は何者だ?アッシュゾンビとはなんだ?」


 アーデンは冷たくそう言い放った。ロタールはそれに恐れるでも怯えるでもなく、ただニヤリと笑った。


「まあまあ、そう言わずに話そうぜ?俺様だって本当はこんなことしたくないんだよ」


 ロタールは錫杖を地面に打ち付けた。すると冒険者の一人が突然燃え上がった。アッシュゾンビからの攻撃を多く受けて負傷が激しい者であった。


「ギィィイイイイアアアアアアッッッッ!!」


 身の毛がよだつ絶叫を上げながらその冒険者の体は炎に包まれた。アンジュが魔法を使って消火を試みようとするも、魔法の効きが悪く炎は消えなかった。


「ど、どうして…」

「そんなやわな魔法じゃあ消えねえなあ。こいつの炎は激しいからよ」


 その炎は激しいという言葉で収まるものではなかった。炎に包まれた冒険者はボロボロと体が崩れていき、あっという間に燃え尽きて灰になってしまった。誰も何もすることが出来ず、崩れ落ちた灰から立ち上る煙を見ているだけしか出来なかった。


 ロタールは錫杖をシャランと鳴らして振った。すると地面に落ちた灰がみるみる内に寄せ集まっていき、どんどんと人の形に固まって燃える前の姿とそっくりそのまま同じ姿になった。


「どうだい、生き返ったようにしか見えないだろ?でも残念だなあ、このままじゃあ死んだままなんだよなあ。アッシュゾンビはただの灰の塊だから」

「お前…ッ!!」

「怒るのは結構だがよ、いいのか?俺様はアッシュゾンビを元の人間に戻す方法を知ってる。というか俺様にしか出来ないぜこりゃ」


 ファンタジアロッドを構えロタールを睨みつけたアーデンだったが、その言葉を聞くと動くことは出来なかった。話していることの真偽が分からない以上、ロタールの殺害はアッシュゾンビにされた冒険者全員の殺害と同義である。


 武器を下ろすアーデンを見てロタールはくくっと短く笑った。


「いい子だいい子だ。そうじゃあなくちゃな」

「何がしたいんだお前は」

「何か…、何だろうなあ。何だと思う?」


 馬鹿にした態度を改めないロタールに、アーデンは苛立ちを露わにした。それを見て更に楽しそうにロタールは笑う。


「そう怖い顔するなよ。俺様の話を聞いてくれや」


 ロタールはべらべらと自分のことを話し始めた。その場にいる全員は、それを黙って聞くしかなかった。




 ロタールの一味は遺跡漁りを生業にしている集団だった。目的とする所はアーティファクト等の一攫千金ではなく、冒険者になりたての初心者を狙って数で襲いかかり、殺害して装備品等々を剥ぎ取って売っていた。


 ロタールの一味は特定の場所で留まらず、あらゆる遺跡を転々としていた。一定期間留まっていると遺跡漁りの大所帯は目立つ、本来もっと早く討伐されていてもおかしくない集団だったが、ロタールは引き際というものを心得ていた。


 のらりくらりと要領よく悪評を避け続け、ロタールの一味は初心者冒険者を殺害して回っていた。カ・シチ遺跡に目をつけたのは偶然だった。


 いつものように遺跡に潜み襲撃のしやすい場所を探す。そして偶然見つけた一室にそれはあった。


 アーティファクト、燐命の錫杖。ロタールは手に取った瞬間にその使い方がすべて分かった。


 即座に他の仲間を殺害、燐命の錫杖の力を使ってアッシュゾンビを作り上げると、ロタールはカ・シチ遺跡を占拠した。




「のこのこやってきた冒険者共を殺すのは面白かったぜえ。アッシュゾンビは初見じゃ絶対に性質を見抜けやしないからな、すっかり手駒が増えちまってよお。ここで次の獲物が来るのを待ってたって訳よ」


 その場にいた全員が戦慄した。ロタールが楽しそうに語る悪事のすべてが不快だった。吐き気を催す者もいたし、怒り心頭で今にもロタールに飛び掛からんとする者もいた。


 しかしただ一人冷静に発言した者がいた。


「あんた馬鹿じゃないの?」


 レイアだった。冷たい声が部屋に響く。この時だけは全員が呆然となった。


「レ、レイア…」

「いやだって馬鹿でしょ。燐命の錫杖を手に入れた所まではいいけど、その後の行動意味不明過ぎない?まあ独り占めしたくて他の仲間をやったんでしょうけど、すぐにこの場所から逃げるべきでしょ?ここに留まる意味って何?」

「そ、それはそうですけど…」


 アーデンとアンジュがレイアをたしなめようとするも、レイアの言は止まらなかった。それに改めて冷静に説明されたことで、ロタール以外の全員がそれに納得していた。


 何故ロタールはここに留まったのか、仲間を殺して奪い取ったアーティファクト、普通の遺跡漁りであればその場をすぐに離れて金に変える方法を考える。


 どんなに特別な理由があるのだろうか、ロタールに全員の注目が集まった。視線を注がれたロタールは恥ずかしげもなく語った。


「そんなもん、俺様のこの力を見せつける為に決まってる。どんだけ冒険者が束になっても俺様には敵わないんだぜ?」

「あんた本当にとびきりの馬鹿ね。そのアーティファクトがどれだけ強力なのかは分かるけど、このままここに引きこもり続けてたら死んでたのよ?この遺跡に閉じ込められたらどうするつもりだったの?」

「は?閉じ込められる?」

「水もない。食べ物もない。今まではアッシュゾンビ使って取りに行かせてたのかもしれないけど、各個撃破する分にはアッシュゾンビはそれほど脅威じゃないもの。あっという間に対応されてたわよ?」


 レイアの理詰めにロタールは追い詰められていた。信じられないことに、ロタールはただ本当に力に酔いしれそれを見せつけることだけを考えていて、それ以上のことは何も考えていなかった。


 ロタールは手に入れた力によって得られた圧倒的万能感に浮かれ、カ・シチ遺跡を支配しているという自己満足に浸っていたのだ。


「ば…」

「ば?」

「ば、馬鹿にするんじゃあねえよッ!!」


 怒りに我を忘れたロタールは立ち上がり錫杖を振り回すとレイアにそれを向けた。放たれた灼熱の火炎がレイアに迫る、アーデンはその前に飛び込んだ。


 アーデンはロッドを伸ばすと、ロタールの放った火炎に向けて放った。火炎を絡め取るようにロッドの刀身をらせん状に渦巻かせると、進行方向を上に逸して火炎を無効化した。


「お前無茶苦茶言うなあ!」

「疑問に思ったことを口に出さずにいられなかったの!今のはちょっとヤバかったわね」

「やめてくださいよレイアさん!心臓止まるかと思いました!」


 アーデンとアンジュはレイアの元に集まる。三人は互いをカバーし合うように戦列を整えた。


 図星を突かれて激昂したロタール。錫杖で地面をトンと叩くとアッシュゾンビ達がまた動き出した。加えて今度はロタールもその戦いの中に参加する。


 最悪なことにロタールの手に入れた力は本物であった。強力無比な特別なアーティファクト、竜の手がかりとは知らずにロタールはその力を振るう。


 戦闘の激化は目に見えていた。レイアの煽りでロタールから冷静さを奪うことに成功したが、アーティファクトホルダーとその意のままに動く下僕達、それらすべてがアーデン達に襲いかかることになる。


 ロタールは愚かだが実力がない訳ではない。ここまで生き残り、実力者揃いの冒険者達を圧倒し続けたことに変わりはない。否応なしに緊張感が高まった。


 しかし事態が悪化した訳ではなかった。ここに残った冒険者達はロタールが自分で作った無駄な時間で回復が間に合っていたし、冷静さと覚悟を取り戻させていた。


「お前らやる気かあ!?俺を殺してこいつらがどうなるのかわかってんのか!?」

「そんなもん分かるかよ。でも絶対に分かることはある、死んだ命はもう元に戻らない、当たり前のことだ。お前を殺して皆の敵討ちだ」


 冒険者の一人がそう言い放った。もしロタールがアッシュゾンビを生者に戻せることが本当だったとして、要求に大人しく従う訳がないと分かっている。


 死人は生き返らない。当然の覚悟を決めた冒険者達の強い意思はロタールを狼狽えさせた。


 ロタールと率いるアッシュゾンビとの戦闘は再開される。劣勢は続くが、心に火を灯した冒険者達が勇猛果敢に攻め入っていった。

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