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カ・シチ遺跡奪還戦 その2

 戦闘班からの要請を受けてアーデン達遊撃班は合流の為急いでいた。駆けつけた時目にしたのは、多くの負傷者を出した戦闘班の姿だった。


「き、来てくれましたか…」


 戦闘班の担当をしているギルド職員も負傷していた。すぐさまミィナが駆け寄る。


「中の様子は?」

「まだ戦っている冒険者はいます…。しかし防戦一方で私もこのザマです」


 多くの負傷者がいるなか、アーデンは壁を背に座り呼吸を荒らげている一人の冒険者に近づいた。負傷者の中では比較的まだ話しが出来そうだった。アーデンは跪くと声をかける。


「大丈夫ですか?水飲めますか?」

「あ、ああ、ありがとう…」


 アーデンが差し出した水筒を受け取るが、手の力が入らずに落としてしまう。それを拾い上げ、アーデンは水を飲みやすいように背を手で支えるとゆっくり水を飲ませた。


 水を飲ませながら気がついた。アーデンが介抱している冒険者は、班分けの際に真っ先に声を上げて揉め事を起こした人だった。その時の勢いなどすっかりと失せて、痛みに体を動かせないでいた。


「ふう…、悪いな。一息ついた」

「いいえ。それより中の様子を聞いてもいいですか?何があったんです?」


 情報が足りない。アーデンは少しでも話を聞き出そうとした。


「な、中は地獄だ。俺は俺のダチに突然襲われた。何度呼びかけても返事もしやがらねえ、まるで生きていないみてえだった」

「冒険者に襲われたんですか?」

「そうだ。奴ら全員生気のない虚ろな目で襲いかかってきやがった。問答無用だ、誰も彼も話を聞きもしないし口を開きもしねえ。寝返るとかそんなんじゃあねえ、もっと何か…何か…」


 そこまで話た所でまたうめき声を上げた。限界だとアーデンは悟ると、もう一度そっと座らせた。


 ミィナを中心に置いてアーデン達は集まった。情報の共有をする為だった。


「先行した斥候班は、魔物がまったく出現しない遺跡内を進みルートを確保すると、そのまま戦闘班と合流しました。話にあった巡回などはしておらず、この先の部屋に全員集まっていたようです」

「動きはなかったということか」

「待ち構えてたのかもね」


 ジョアンとカナがそう言うとミィナは頷いてから続けた。


「しかし数の上では圧倒していました。だから当初の想定通り突入して制圧する手筈でしたが、ここで想定外のことが起きました」

「想定外って?」

「どれだけ致命的な攻撃を受けても相手が止まらなかったそうです。腕が吹き飛ぼうが、頭が落ちようが、上半身と下半身が分かたれようが、突撃してきたとのことです」

「…それは」


 アンジュは口を噤んだ。しかしそれはから続く言葉は全員考えていることが同じであった。


 それはまるで魔物の一種アンデッドと同じではないかと思った。死者の体が魔物と化したもので、ゾンビ、スケルトン、マミー等種類は多岐にわたる。


 ただし腑に落ちない点もあった。アンデッドは得てして一目でそれと分かる外見をしている。肉が腐っていたり、骨だけとなっていたり、生きていた時の原型を留めている魔物はいない。


 しかし中にいる遺跡漁りと冒険者達は、見た目がまったく同じままだった。アンデッドとしての特徴は見受けられず、人の形を保ったまま襲いかかってきた。


「中にいるのは一体何なんだ…」


 アーデンが呟いたその一言で全員の間に緊張が走った。自分たちが一体何を相手にしているのか、それが分からないことの恐怖に戦闘班も飲み込まれたのだ。


 それでもまだ中で戦っている冒険者がいる。ミィナはぐっと拳を握りしめると顔を上げた。


「戦闘班の担当は私が引き継ぎます。遊撃班はここで解体、アーデン様のパーティーとジョアンさんのパーティーで分けます。片方は戦闘班に加わり、もう片方は負傷者の撤退にあたってください」


 ミィナの覚悟がこもった眼差しを見て、全員は頷いた。




「じゃあ気をつけろよアーデン」

「私達もなるべく早く駆けつけるから」


 ジョアンとカナの二人が負傷者を引き受けることになった。アーデンはしっかり頷いて応える。


「よし、行くぞ!」


 アーデンの掛け声で全員が動き出した。武器を手に戦闘が続いている部屋の扉を開いた。


 残った冒険者の数は十もいなかった。防戦一方ながら、皆で集まって踏みとどまっている。


 一人の冒険者に襲いかかろうとしていた敵目掛け、アーデンはファンタジアロッドを鞭のように伸ばし、しならせて叩き潰した。レイアもブルーホークとレッドイーグルを構え撃ち抜く、アンジュは魔法によってまとめて敵を焼いた。


 援軍がきた事に安堵の表情を浮かべる戦闘班。しかしそんな様子とは裏腹に、アーデン達三人は眉を顰めた。


 手応えがない。


 ダメージを加えた手応えというものをまったく感じなかった。煙を相手にしているのかと錯覚するような不気味さがあった。


 さらに不気味なことが起きる。アーデンが叩き潰した敵が、レイアが風穴を開けた敵が、アンジュによって焼き尽くされた敵がみるみる内に元に戻っていく。


「気をつけろッ!そいつら倒しても倒しても復活するぞッ!」


 残って奮闘を続ける冒険者がそう叫んだ。一人一人は大した強さではないので倒すこと事態は容易い。だが時をまたずして復活するそれらが束になって襲いかかってくるのは恐怖でしかなかった。


 三人は戦闘班を庇うように前に出た。アーデンが声をかける。


「今の内に回復を。傷が深い奴は撤退してくれ、外で支援してくれる人がいる」

「助かった。援軍に来てくれて感謝する!」


 アーデン達は時間稼ぎにしかならない戦闘を繰り返し、何とか再起を図ろうとする。しかしこのままでは人数が増えた所で復活し続ける敵に押しつぶされるだけだった。


 襲い来る敵を前に、思考を巡らせ突破口を見出そうとしたのはアンジュだった。戦闘をしながらも敵の様子を観察し、どうして敵が元に戻るの考察をしていた。


 アーデンが敵を斬り払った瞬間を目にし、アンジュはそれを見つけた。アーデンのロッドが体を斬った瞬間、細かな粉のようなものが体からこぼれ落ちるのが見えた。


 すぐさましゃがみ地面を指でなぞった。指についた物を確認してその正体をアーデンとレイアに告げる。


「アーデンさん、レイアさん、灰です!敵の体は灰で出来ているんです!」

「灰だって?それで手応えが全然なかったのか…」


 どれだけ体が欠損したとしても、灰が集まって固まりもう一度体を再構成してしまう。それこそが敵の正体だった。アーデン達が相手をしている敵は全員死んでいて、その遺灰によって体が構成されていた。


「こんなデタラメなこと自然に起きる訳がありません!こんな魔法も聞いたことがない。恐らくこの状況を作って操っている奴がいます!」

「レイアッ!」

「よし行けフライングモ!」


 アンジュのアドバイスを受けてアーデンはレイアに指示を出す。何をすればいいのか伝えるまでもなくレイアはフライングモを飛ばした。それが向かう先は、竜の手がかりである特殊なアーティファクトがある場所だった。


「そこだッ!!」


 フライングモが止まった場所目掛けてアーデンはロッドを伸ばして攻撃を加えた。攻撃が防がれた感覚があって、そこに誰かがいるというのをアーデンは確信した。


「レイア!アンジュ!あそこに全火力ぶち込め!!」


 アーデンはロッドでフライングモを回収し二人に指示を出す。隠れていた敵は、その場所がもう安全ではなくなったことを悟ると声を張り上げた。


「待った!待った待った!!アッシュゾンビ共に攻撃を止めさせる、俺もそっちに出る、だから攻撃は待ってくれないか!?」


 敵の攻撃の手がピタリと止まった。アッシュゾンビと呼ばれたそれらは整列すると直立不動の姿勢を取る。それからシャンシャンという音を立てて物陰から人が出てきた。


「いやあ危なかったなあお前ら、俺様を殺していたらアッシュゾンビ共を助ける方法はなくなっていたぜ。ははっ賢い賢い。俺様の名前はロタール。どうだ、一度小休止といこうじゃあないか」


 ロタールと名乗った男はシャンシャンと錫杖を鳴らした。アーデン達は武器を下ろすことなく相手に向けたまま、その場は膠着状態となった。

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