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同行者

 テオドール教授の宣言「四竜が存在する」それにレイアが早速異を唱えた。


「でもテオドール教授、四竜は象徴だってあなたが言ったではないですか」

「そうだね、私はその考えを間違っているとは思わないし否定もしない」

「じゃあ」

「しかし!四竜の存在を否定出来た者はいない!この長い魔法学の歴史において、四竜の存在を証明した者も否定した者もいない。存在していないと決めつけるのは勿体ないと私は思うよ」


 その言葉には、多大な期待と妙な説得力があった。教授の目は爛々と輝いていて、表情は夢と可能性を信じる無垢な子供のように自信に満ちていた。


「私が研究している魔法はね、原初魔法と呼ばれる最も古い魔法なんだ。沢山の道具と手順を要し、時間も手間もかかるもの。しかしそこには人の願望にかける情熱が込められている。知りたいと欲する探究心が残されている。古くから残された未知を探る、それが私の夢であり目標だ」


 教授は力強くそう言った。俺もレイアもお互いの夢を追う冒険者だ、なんだかとても心に響いた。


「おっと、つい熱くなってしまったね、失敬。ここまで言い切れるだけの根拠もあるんだ」


 教授が杖を一振りすると、紙束がさらさらと飛んできた。教授はそれを手に取ると、俺たちに見せてくれた。


「四竜と思われるドラゴンに関する証言を集めた。信ぴょう性のあるものだけを選んでみたのだが、その中にこれはというものがいくつかあってね、調べる価値はあると思う」

「これは…遺跡の名前ですか?」

「そうだ。ヤ・レウ遺跡、ユ・キノ遺跡、カ・シチ遺跡。この三つから火の竜サラマンドラに関連のありそうな手がかりが見つかっている。少々危険な場所もあるが、冒険者として君たちに聞く。行くか?行かないか?」


 その答えは決まり切っていた。それは新たな冒険への誘い、ここで断るようなら冒険者じゃあない。


「行きます。やらいでか」

「流石だ、ロゼッタ君と石板を集めた君たちが乗らない筈がない、探究心は止められないからね。で、物は相談なんだけど…」


 教授は俺たちに情報を渡す条件にある人物の同行を持ちかけてきた。その人の名前を聞いて俺は思わず聞き返した。


「俺たちは構いませんが、彼女は納得するんですか?」

「納得もなにも遺跡を探索を提案してきたのは彼女だよ。よく知らない冒険者より、ロゼッタ君の命を救った君たちなら私も安心して彼女を任せられる」


 そうは言うけれど、俺たちにあれだけ冷たい態度をとっていたのに、果たして打ち解けられるのだろうか。


 扉からノックの音が聞こえてきた。入ってきたのは、話に出ている人だった。


「アンジュ、遺跡調査を許可しよう。今日から彼らに同行しなさい」

「は?」


 突然の事で寝耳に水だったのか、アンジュは目をぱちぱちとさせその場で固まっていた。




 ようやく我に返ったのか、ハッとしてからアンジュは抗議の声を上げた。


「どういう事ですか教授、突然彼らに同行しろだなんて」

「色々と目処がついた。本格的にサラマンドラの調査に乗り出す」

「っ!それは…」


 教授がサラマンドラの名前を出した途端に、アンジュは体をこわばらせて止まった。一体どうしたんだろうと心配になったが、すぐに元に戻った。


「…彼らにそれだけの実力があると?」

「それは分からない。私は彼らの実力を知らないからね」

「それでは」

「しかしだ。私の盟友の大切な教え子を助けたという事実がある。そしてその彼女から彼らの力になって欲しいという嘆願もある。信用するに十分な理由があると私は判断する」


 そう言うと教授はこちらを向いてウインクをした。どう返したものか分からずに取り合えず小さく頭を下げておく。


「アンジュ、どのみち遺跡の調査には冒険者の協力が必要不可欠だ。我々だけでは遺跡探索は出来ない」

「では大学出身の冒険者に協力を要請すればいいじゃないですか」

「それは駄目だと分かっているだろう?既に大学を出た魔法使いにサンデレの門戸は開かれていない。非情かもしれないが、それが決まりだ」


 悉く意見を潰されたアンジュは俯いて黙ってしまった。沈黙に耐えられずに俺は手を上げて教授に質問した。


「あの、この大学そんな決まりがあったんですか?」

「うん?ああ、君たちは知らなくて当然だな。この大学の理念の一つでね、言ってしまえばとても保守的なんだ過剰なまでにね。アンジュ、大学の精神を言ってみなさい」

「…我々は古く灰まみれの知識を掘り返して深淵を探る者。埃を被ったローブを身にまとい、見向きもされない知恵を知る。そこに栄誉も名誉もなく、ただ真実があるのみ」


 スラスラと暗唱するアンジュにおおと思わず拍手を送りたくなった。


「要するにサンデレ魔法大学校はただ魔法の追求のみに力を注いでいるという事さ、世の為人の為ではなく、ただ魔法の為にのみ生きて死ぬ。そういう生き方を求めている」

「でもここで研究された魔法道具が世に出たりしますよね?」

「実はほぼすべて無料で外部に提供されているんだ。そこからの量産や流通はまったく別口なんだ」

「そうだったんだ…」


 驚きの声を漏らすレイア、かくいう俺も驚いた。技術を無料で外部に提供するなんて、そんな事やっていて大丈夫なのだろうか。


 母さんは言っていた。自国の産業と研究は何を置いても守らなければならないと。俺にはその真の意味までは分からなかったが、この話を思い出して、サンデレ魔法大学校は根本から世間とは違う考え方を持っているのだと思った。


「それで?アーデン君達が稼いでくれた時間で考えはまとまったかなアンジュ?」

「私は別にそんな事」

「頼んでいないって?ふふっ、子供じみた言い訳だ。頼んでいなくとも彼らに借りを作ったのは君だよ、そんな隙を見せるとはらしくないんじゃあないか?」


 テオドール教授はどんどんアンジュに詰め寄っていた。俺たちへの態度とはまったく違い、厳しく選択を迫っている。二人の間に何か特別な関係や感情があるように見えた。


「…私にサラマンドラの調査を一任してくれるという事ですか?」

「一任じゃあない。彼らと協力しなさい。そもそも四竜についての研究は君が強く関心を持って取り組んでいる事だ、自分の力で調べるというのは自然な事じゃあないかな?」

「どうしてもですか?」

「どうしてもだ。それが嫌なら四竜については諦めなさい、私はアーデン君達に情報だけ提供して、この研究からは下りる」


 そのまま険悪なムードにならないかとハラハラしたが、アンジュがため息をついて折れた。


「分かりました。彼らと協力してサラマンドラの調査をします」

「決まりだな。アーデン君、レイア君、アンジュの事よろしく頼むよ」


 教授は立ち上がると俺たちに手を差し出した。俺もレイアも慌てて立ち上がりその手を取って固く握手を交わす。四竜の手がかりを探す冒険に、サンデレ魔法大学校からアンジュが加わる事となった。

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