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発見報告に暗い影

 ザ・ノホ遺跡でまさかの石板発見、奥に進む体力も気力もまだあったが、今なら絶対安全に石板を運び出せると俺たちは二人で決めて外に出た。


 日も暮れかけていて夜が近い、本来ならこの辺で一泊してからシェカドに戻る方がいいのだが、今は一刻も早く戻ったほうがいいと思った。


 幸いにも俺たちにはレイアが発明したゴーゴ号がある、何とか夜までには戻る事が出来るだろう。レイアを後ろに乗せて俺はスピードを上げた。


 シェカドに戻ってからは手分けをする事にした。俺はギルドへ、レイアは石板を持ってロゼッタの所へ行く。依頼完了の報告をしてから合流する事にした。


 カウンターにはハンナさんがいた。よかったと思い俺はそこへ飛び込んだ。


「ハンナさんっ!お疲れ様です!」

「わっ!びっくりした…。そんなに慌ててどうしたんですかアーデンさん?」

「依頼達成したので確認お願いします。あ、あと、紙とペン貸してもらえませんか?」


 俺の剣幕にうろたえながらも、ハンナさんはどうぞと言って紙とペンを渡してくれた。それを受け取ると、俺はトロイさん宛にザ・ノホ遺跡で新たな石板を手に入れた旨を伝える報告を書き込み始めた。


「あら?お早いお戻りだとは思いましたが、中腹までしか行ってないんですね」

「えっ?」


 ハンナさんにそう声をかけられて顔を上げた。


「アーデンさんとレイアさんの実力なら、最奥とは言わずともその手前程まではたどり着けるかと思いましたが」

「ああその事ですか。実は俺たちもその予定だったのですが、ちょっと想定外の事が起きて…」


 俺がそう言うとハンナさんは少し深刻そうに眉を顰めた。


「…もしかして遺跡漁りと遭遇しましたか?」


 鋭いなと思った。というより俺は想像以上に顔に出るのかもしれない。どちらにせよ、それは事実であり理由の半分ではあった。


「…それも理由の一つです」


 嘘は言えない。俺は正直に話した。


「でも俺ハンナさんのお陰で助かったんです。ハンナさんの言葉を思い出したから行動出来ました。やらなきゃやられる。その通りでした」

「そうですか…。まずはご無事で何よりです。でも、私のお陰というのは違いますよ、アーデンさんには覚悟があった。負けないという強い意志があった。勝利し命を守りえたのはあなたの力です」


 その言葉は深く心に突き刺さった。俺はずっと手にかけたあの遺跡漁りの人たちの事を考えていた。


 どうして犯罪に手を染める事になったのか、どうして人を殺めてまでその行為にこだわるのか、その理由を探してしまった。


 でもそれは、俺があの人達に勝って生きていたから考える事が出来る事だ。あの時の不意打ちを避ける事が出来ず大怪我を負っていたとしたら、抵抗する間も与えられず俺もレイアも無惨にあそこで死んでいた筈だ。


 正当化はしたくない、法は俺を正当化してくれるけれど、やった事の言い訳には使わない。


 ただ俺たちの方が強かった。覚悟も信念も夢も俺たちが勝っていた。これはその結果だ、割り切れはしないが受け入れる事は出来た。


「ありがとうございます。ハンナさん」

「いえ。アーデンさん達の冒険がこんな所で終わる事がなくてよかったです。夢を追う高潔な心は決して穢されません、それだけは誰にも出来ない」


 それは何よりの励ましの言葉だった。俺はもう一度お礼を述べると、深々と頭を下げて感謝の気持を示した。


「ところで話は変わるのですが、依頼内容にあった通り少々報酬が減額されてしまいますがよろしいですか?まだ期間はありますけど」

「ええ構いません。実はもうザ・ノホ遺跡での目的は達成してしまって…。依頼主には申し訳ありませんが」

「それは問題ありません、重視されているのはサンプルの入手とそれを完全に持ち帰る事ですので。量も十分で誤魔化しもない、十分な仕事かと思います」


 俺は依頼達成の報告をし、減額された報酬を受け取った。そしてハンナさんに報酬と交換するようなかたちで書いたメモを渡した。


「すみませんハンナさん。そのメモをギルド長にお渡ししてもらう事って出来ますか?」

「構いませんよ。内容は確認させて貰いますけどいいですか?」

「勿論です」


 ハンナさんは受け取ったメモの中身を見た。そしてすぐに元の形に折りたたんで俺に頷いた。


「すぐに届けます」

「よろしくお願いします。俺はこのままロゼッタの所へ行ってきます」


 俺たちは同時に立ち上がった。ハンナさんは受付を他の職員に任せ、俺は早足でギルドを後にするのだった。




 いつものようにロゼッタがいる家の前には警護する人が立っていた。もうすっかり暗くて顔はよく見えないが、もう大体の人とは顔を合わせているので気軽に挨拶を交わす仲になった。


「こんばんは。お疲れ様です」

「はいこんばんは。レイアちゃんはもう中だよ」

「ありがとうございます」


 いつも通りのやり取りだったが、少しだけ引っかかった。挨拶と言葉を返してくれた人は問題ない、もう一人の方は言葉も発さなければ目も合わせようとしなかったからだ。


「ああ、こいつの事は気にしないで、ちょっと前に入った新人だよ。能力は高いんだけど、ちょっと人見知りでさ」

「そうでしたか、何か気分を害してしまったかと思いました」

「違う違う。な、新人」


 声をかけられるとぺこりと頭を下げた。なんだかレイアを思い出す。


「愛想はないけど勘弁してくれよな」

「いえ、レイアも慣れない人の前や場所では同じ感じですから」

「そういやあの子も中々打ち解けてくれなかったなあ…。今もちょこっと挨拶するくらいだし」

「あはは…、すみません」


 俺は挨拶と軽い雑談を終えると、軽く会釈してから家の中へ入った。




「無理は言わないけどさ、挨拶くらいは出来るようになろうな。練習が必要なら俺も付き合うからさ」


 ロゼッタの警護につく男は、アーデンを見送った後新人にそう声をかけた。帽子を目深にかぶり小さく頷くのを見て男はため息をついた。


 帽子の影から覗く目はやけに赤く妖しく、夜の街に光っていた。




 家に入ると真っ先にレイアの声が飛んできた。


「遅いっ!」

「悪かったよ、ちょっとハンナさんと話してたんだ。それにギルド長への報告も必要だろ?」

「まあまあレイアさん。無事でよかったじゃないですか」


 ロゼッタがそう言うとレイアが咄嗟に止めに入った。俺は座りながら言葉の意味を計りかねて聞いた。


「無事って?」

「レイアさん、アーデンさんの到着が遅かったので何かあったんじゃないかって心配してたんですよ。遺跡での出来事私も聞きましたから」


 レイアと取っ組み合いながらもロゼッタが説明してくれた。全部説明されてしまったレイアは、顔を真赤にしてそっぽを向いた。


「そっか、ありがとなレイア」

「…ふんっ」


 暫くは恥ずかしさで大人しくなってしまうだろうなと思った。昔からこういう所は変わらない。


「私も心配しましたよアーデンさん。大丈夫でしたか?」

「まあ何もかも問題ないって訳じゃあないけど、取り敢えず気持ちにケリはついたよ。それより石板の方はどう?」

「もう本当に素晴らしいです!これからまだ解読の作業に入ろうと思いましてそれで…」


 ロゼッタの言葉の途中で玄関の扉が開いた。何事かと思っていると、最近見知った顔がつかつかと中に入ってきた。知らない取り巻きが二人いるが、彼の仲間だろうか。


「楽しそうですね、僕も話に混ざってもいいですか?」

「リュデル…」

「ええ僕ですよアーデンさん。これで三枚目ですか、石板が見つかったのなら僕に仰ってほしかったですね」


 やっぱりバレてたかという思いと、こちらが何をしようとも余裕のある態度にちょっと心がざわつく。リュデルを前にするとどうも感情が揺れるのは、彼が父さんの再来と呼ばれているからだろうか、胸に残る謎のもやもやの正体を俺はまだ分からなかった。

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