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ザ・ノホ遺跡 その2

 レイアに連れられて俺は外に出た。正直心の底からほっとしていて、外の空気を吸った途端に膝から崩れ落ちそうになった。


「ちょっとしっかりして!私にあんたを担いでいけるだけの力はないんだから!」

「ああ、分かってる。ごめん、気が抜けちゃってさ」


 肩を借りてしっかりと立つ、三度程深呼吸をしたら大分落ち着いてきた。適当に開けた場所に座ると、レイアは手際よく薪木を集めてきてそれに火を灯した。


 どちらも特に喋りもせずに燃える火を見ていた。パチパチと音を立てて燃える火、その揺らぎを見てぼんやりとしていた。


「共犯よ」


 ぽつりとレイアが呟いた。俺は返事代わりに薪木を足した。


「アーデンがやらなかったら私がやってた。そうでしょ?」

「うん」

「どっちかが出来ない事をどっちかが補う。そんなもんでしょ?」

「そうだな」


 思えば昔からそうだったか、幼馴染というのもあるが昔から馬が合うというか、レイアとは自然と仲良くなって、自然と一緒にいた気がする。だから怒られる時も褒められる時も大体一緒だった。


「…ありがとね」

「何だよ急に」

「いいでしょ別に」


 あの時の判断は間違っていなかった。やらなければやられていた。それは確実な事だ。しかしそれでも心にずしりとくるものがあった。でも、よかったと思える事もある、レイアを守れて二人共無事に助かったという事だ。


「…ありがとな」

「何よ急に」

「いいだろ別に」


 俺もレイアも、緊張した面持ちがふっと崩れた。俺は火を消して後始末をすると、パンパンと両頬を叩いて気合を入れた。


「行くか」

「ええ、行きましょう」




 アーデンとレイアはザ・ノホ遺跡探索に戻った。目的は二つ、依頼の達成と石板の入手だった。


 薄暗い遺跡内部を慎重に進んでいく、先頭に立つアーデンは道中魔物との遭遇を警戒し戦闘を避けた。消耗を抑えて体力を温存する為だった。


 退治した遺跡漁りの死体をアーデン達は敢えてそのまま捨ておいた。血の匂いで魔物が引き寄せられる事も期待したが、手を出せばこうなるという他の遺跡漁りへの意思表示でもあった。


 恐らくあの残りものは魔物に食べられるか、他の遺跡漁りから身ぐるみ剥がされて終わるのだろう。もしかしたら遺跡に血のシミすら残らないかもしれない。だがその生き方を選んだのは他でもない遺跡漁りの方だ、まっとうな手段を選ばなかった者の結末だった。


 アーデンが警戒して先導し、レイアは遺跡内部の構造を書き込みながら進んだ。予め遺跡内の地図は支給されていたが、自分たちの足で歩いた情報を書き込む事は重要で不可欠な事だった。


 ザ・ノホ遺跡中腹まで辿り着いた。貰った地図と書き込んだ地図を照らし合わせてみて場所に当たりをつけた。二人は周囲の警戒をしながら、壁の採掘へと取り掛かった。




 カンカンと何度も叩いて、やっと少数の欠片を手に入れる。手前の壁よりももっと固くなっている気がする。


「これくらいでどうかな?」

「十分でしょ。量の指定まではなかったんだし」


 欠片を拾い集めたレイアはそれをバッグに仕舞った。一息ついて水を飲む、この薄暗さにも段々目が慣れてきた。


「石に刻みし伝承、最後の鍵はザ・ノホ遺跡に眠る。か」

「場所はどこなのかしらね、ウラヘの滝の時より漠然としてるけど」

「仕掛けの有無も気になるな。あったら厄介だ」


 ウラヘの滝では俺たちの他に誰もいなかったからじっくりと準備して調べる事が出来たけれど、今回は違う。ここは遺跡の中で、いつ魔物や遺跡漁りに襲われるか分からない。


「手記の方はどう?」

「何も出てこない。父さんはここには来てないって事か、それか特に面白くもなくて書くことがなかったか」

「多分後者な気がする」

「俺も同意見」


 エイジション帝国についての記載が、飯が美味い程度に留めてあった事を考えると、書き留める内容も父さんの琴線に引っかからなければならないと思う。


 ザ・ノホ遺跡は珍しい性質を備えているけれど、薄暗く構造は単調で、父さんなら飽きるなという考えを俺もレイアも感じていた。


「まだ余裕あるし、もう少し奥まで行ってみよう。石板の手がかりも見つかってないしな」

「了解。目も段々慣れてきたわ」


 荷物を担ぐと、俺とレイアは再び奥へと進み始めた。




 これまで魔物との戦闘を避けてきた二人であったが、そうもいかなくなってしまった。


 奥に続く道をビッグトードが一匹で塞いでいた。眠っていてじっとそこから動く様子もなかった。


 やるしかないかと顔を見合わせたアーデンとレイアは、武器を手に取るとうんと頷いた。アーデンはファンタジアロッドを振りかざしビッグトードに殴りかかった。


 バチバチと飛び散る火花と、殴られた衝撃でビッグトードは暴れながら目を覚ました。巻き込まれないようアーデンは距離を取ったが、想像以上の手応えのなさを感じていた。


「浅いってレベルじゃないな。皮膚が分厚いのか」


 ビッグトードの分厚くも柔軟性のある皮膚に、打撃によるダメージは少なかった。表皮が少し焼け焦げた程度で、逆にそれが不愉快な目覚めを誘発してしまった。


 ドタドタと体を震わせ暴れるビッグトード、しかしアーデンもレイアもまだまだ冷静だった。


 レイアは目と口、そして喉を狙ってブルーホークの弾丸を放った。目は的が小さく外れてしまい、口は閉じてあってダメージは軽微、しかし喉は他二つとは違った。


 皮膚を破って貫きはしなかったものの、ビッグトードは痛みで身悶えした。ビッグトードの喉袋は特殊で、声を発する以外に魔法の詠唱までする事が出来る。威力に個体差はあるが、ビッグトードは魔法を操る魔物だった。


 その為喉袋は非常にデリケートだ、レイアの放った弾丸を受けて、ビッグトードは更に怒り次の攻撃へと移った。


 口をがばっと開くと、ヒュンと風を切る音がした。ビッグトードの長く伸びてよくしなる舌がレイアに届く前に、アーデンがそれをロッドを伸ばして掴んだ。


「綱引きだぜ化けガエル!」


 アーデンは舌をしっかりと掴むと、力を込めて思い切り引っ張った。掴まれた舌が引っこ抜かれそうな程引っ張られて、ビッグトードは焦る。何とかこの拘束を解かなければと思考する魔物に、レイアが持つもう片方の銃は気がつけなかった。


 ビッグトードの開いた口目掛けて、レッドイーグルが火を吹いた。強力無比な弾丸が口内で炸裂する、アーデンは引っ張っていた力が急に抜けて思い切り転んだ。ロッドの先を見るとビッグトードの千切れた舌がついていた。




 俺は舌を投げ捨ててファンタジアロッドを仕舞った。レイアは二丁の銃をカチャカチャと弄っている、長くなるかもと思い俺は退治したビッグトードに近づいた。


 見事に道を塞いでしまっている。どうやってどかしたものかと考えていると、ふと道の小脇に小さな部屋がある事に気がついた。


「あんな場所地図に載ってたかな…」


 ギルドが支給してくれる地図の内容も完璧という訳ではない、まだまだ調査の進んでいない遺跡等は地図すらない事もある。地図を書くのも命がけだからだ。


 なので記載漏れというのは往々にしてある。しかし、ザ・ノホ遺跡は最奥までの道のりが書かれている、調査の手は十分に入っているのだろう。


「どうかしたの?アーデン」

「ん、ああ。ここ見てくれよ」


 いつの間にか近くまで来ていたレイアに、貰った地図と書いてもらった地図の違いを指摘した。小部屋が地図に載っていない事をレイアにも確認してもらう。


「最奥まで書かれた地図で珍しいわね」

「だよな」

「で、どうする気?」

「勿論入る!」


 俺の返答を聞いてやっぱりねとレイアはため息をついた。そんな態度を取りつつレイアも行きたくてうずうずしているのを俺は知っている。先行するとすぐ後ろをついてきていた。


 入り口も狭ければ中も狭い、しかしそこには今まで見てきたザ・ノホ遺跡にはなかった光景があった。


「なんだこれ?」


 壁の一部が光っている。光を吸い取る壁なのに、煌々と光っているのだ。あまりにも不思議な光景に言葉を失う。


「あっ、えっ、うん?」


 本当になんとなくだけど気になって、俺はピッケルを手に取った。そして光っている壁をコンコンと叩いていく、今まで採集してきた壁とは違い、光る縁に沿って叩いていくと簡単にボロボロと剥がれ落ちた。


「これは…」

「まさかそんな…」


 剥がれた壁から出てきたのは、探していた石板だった。まさかの発見がこんなにもあっさりとしたものとは思わず、俺もレイアも今度は違う意味で言葉を失うのだった。

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