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ザ・ノホ遺跡 その1

 ザ・ノホ遺跡、シェカド領内にある遺跡の内の一つ。比較的調査は進んでいる場所ではあるが、まだまだ出土するアーティファクトがあり、遺跡を守るゴーレムが稼働している。


 遺跡に住み着く魔物が強くなるのは、遺跡内部は外よりもマナが多く満ちているからだと言う。魔物はマナがなければ生きていかれない、そしてより濃いマナに身を置く事で更に強い魔物へと変わっていく。


 生き残る為にリスクを負ってでも、魔物は遺跡で活動をする。戦闘能力の高さが生存力に直結する魔物にとって遺跡は魅力的な場所であった。


 そして遺跡漁りにとっても魅力的な場所だ、上手くアーティファクトを手に入れる事が出来れば、力によって一気に成り上がる事も、巨万の富を得る事も出来る。遺跡漁りとの取引は犯罪だが、アーティファクトを欲しがる人はどこにでもいる。つまりどんな建前があっても実際は臭いものに蓋をするのだろう。


 ゴーゴ号は念のためザ・ノホ遺跡より大きく手前で下りた。移動手段としてこれ程優れた発明品はない、アーティファクトではなくとも十分狙われる可能性はあった。


「準備いいか?」

「いつでも」


 俺とレイアは短いやり取りを交わすとザ・ノホ遺跡の入り口へと向かう。遺跡に入るのはこれで2回目だが、やはり雰囲気や威圧感が違う。魔物の気配もより濃く強く感じられた。


 入ってすぐ、またしても階段がある。地下を下りる長さも、イ・コヒ遺跡の時より長かった。下りると開けた場所に出て、またしても違いを痛感する事になる。


「随分暗いな…」

「ええ、光が全然奥まで届かない」


 内部がそこそこ明るかったイ・コヒ遺跡に比べて、ザ・ノホ遺跡は兎に角暗かった。ランタンで先を照らしても、思うように遠くまで見通せない。


「慎重にいこう。はぐれないようにな」

「一応体をロープで結んでおきましょう。はいこれ」


 レイアから渡されたロープを腰に巻くと、余りを今度はレイアが腰に巻いた。これで暗がりで見失うという事にはならないだろう。


 俺たちは気合を入れ直すと、ザ・ノホ遺跡の道を進み始めた。




 ザ・ノホ遺跡は完全に真っ暗という訳ではない。全体的にずっと薄暗い状況が続いているという感じだった。まったく前が見えないだとか、足元すらおぼつかないだとか、そんな事はなかった。


 しかし不思議な事に奥まで見通す事は出来なかった。ある程度まで照らすと、そこで光が切れてしまうように照らせなくなり見えなくなる。まるで見える範囲を制限されているかのようだった。


「アーデン、この辺でいいんじゃない?」

「うん。ピッケル出してくれ」


 俺はレイアからピッケルを受け取ると、壁に向かってカンカンと打ち付けた。思ったより固くてあまり削り取る事は出来なかったが、指定された量は十分に採れた。


 それをレイアが拾い集めていると、何かに気がついたのか「あっ」と声を上げた。


「どうした?」


 しゃがんでレイアと同じ目線の高さに合わせると、壁の破片を手にとって興味深そうに眺めていた。


「見ててアーデン」


 そしておもむろにランタンの灯りに欠片を近づける。すると光が壁の破片に吸い込まれるような動きを見せた。驚いて「わっ」と声を上げてしまう。


「この遺跡がこんなに暗い理由が分かったわ。この壁に使われている石材の性質の性なのよ。成る程、だからサンプルを欲しがるのね」

「これって光を吸い取ってるのかな?」

「うーん、詳しくは分からないわね。でも、薄暗いって状況を保ち続けている理由はこれだと思う」


 俺も試しに自分のランタンに破片を近づけてみた。光がまるで煙のようになって欠片へと引っ張られる、面白いけれど訳が分からない性質だなと思った。


 その時、微かながら気配を感じ取った俺は持っていた欠片を投げ捨ててファンタジアロッドを手に取った。うっすらと聞こえてくる風切り音とロッドの明かりを頼りにして、飛んできた矢の軌道を逸して直撃を避けた。


 壁にガンと矢がぶつかる音と、放たれた方から聞こえた小さな声。俺はレイアに合図を送ると、一緒にランタン灯りを消した。




 アーデンとレイアを薄暗がりが包んだ。発光するファンタジアロッドは刀身を引っ込めた。二人はすぐにその場から移動した。


 何者かが矢を射ってきたとして、何を目印にしたかと考えた時、この暗がりでは明かり以外ないとアーデンは判断した。同じことを察したレイアの行動も早くて正確であった。


 二人が元居た場所から3回程ガンガンと音が響いた。明かりを消された事で目印を失ったからか、その場所目掛けて矢を放ったようだ。奥から「クソッ」と悪態をつく声がアーデンには聞こえた。


 しかしこれで自分たちが移動した事はバレたであろうと二人は思った。この状況で、もし相手だけがアーデン達の居場所が分かる手段があればひとたまりもない。レイアはアーデンの腕を引っ張って耳に顔を近づけた。


「撃ってきた方向は分かる?」

「暗すぎる、なんとなくでしか分からない」


 アーデンの返答を聞いたレイアは、策が必要だと感じた。相手の行動如何によっては、アーデンに場所を掴ませる事が出来ると思ったからであった。


 レイアには攻撃の予兆など何も感じなかった。しかしアーデンは違った。レイアはアーデンに、人並み外れた気配を察知する能力がある事を知っていた。敵が動けば必ずアーデンは何かに気がつく、大体の居場所という不利な情報を握られている今、行動を起こさなければならないとレイアは覚悟を決めた。


「アーデン、なんとなくでいい。なんとなくで分かった場所でいいから教えて」

「俺が立てた人差し指見えるか?」

「ええ」

「あそこだ。漠然としてるけどな」


 アーデンの指さした場所を確認すると、レイアはまたアーデンの耳に顔を近づけた。


「今から私が相手に行動させる、でもそれで確実に私の場所はバレるわ。アーデンは敵が私を見つけるより先に敵を見つけて倒して。いい?」


 レイアの言葉は冷静だった。覚悟の込もった声だった。アーデンは同意すると、レイアから離れた。


 一つ二つ深呼吸をしたレイアは、左側のホルスターからブルーホークを抜き取りアーデンが指さした方向へ弾を連射した。当たらなくともいい、狙いをつけないただの連射だった。


 レイアが作った二丁の銃は、どちらもマナを用いて作った魔力の弾丸を撃ち出す。その性質から、マナの反応光を消す事は出来なかった。撃ったら場所はバレる、それを分かった上でレイアは弾を撃ち込んだ。


 弾を撃ち尽くしたレイアは待った。すぐに移動しなければ攻撃が来る、しかしそれでも待った。それはアーデンを信頼していたからこその待ちだった。


 ファンタジアロッドの閃きと軌跡が見えた。レイアはほっと胸を撫で下ろすと、明かりをつけてロッドを持つアーデンの所へと向かった。




 バッサリと体を両断した二人の死体を見下ろす。近づいてくる小さな明かりはレイアだろう、俺はロッドを仕舞って自分のランタンに火をつけた。


「ああ、やっぱりそうだったのね…」

「うん。遺跡漁りだ」


 不意打ちしてきたのは遺跡漁りだった。クロスボウと矢が、死体と一緒に地面に転がっている。


「作戦上手くハマったな」

「危なかったけどね」


 レイアがブルーホークでやたらに弾を連射した時、何者かが移動する音が聞こえた。でたらめに撃った弾は恐らく当たりかねない位置に撃ち込まれていたのだろう。遺跡漁りには移動が必要になった。


 移動する気配に音、小さな会話の声、場所を探るには十分だった。


 弾を避けて、安全圏からクロスボウでレイアに狙いを定めているタイミングで俺は二人を見つけた。やらなきゃやられる。ハンナさんのあの言葉が頭の中でもう一度響いた気がした。


 もし少しでも相手の位置を探るのが遅れていたらと思うと、腹の底がしんと冷たくなった。背筋まで伝わる怖気が体を震わせる。


「ぶ、無事で、よ、よかった。うん。それじゃあ進もうか」

「アーデン」

「な、何?まだ依頼の途中だろ、そ、それに」

「いいから。一度外に出て休みましょう」


 レイアはそう言うと俺の顔に手を近づけてきた。そしてどうしてか出ていた目の下の涙を指で拭い、俺の手を引いて元来た道を引き返すのだった。

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